『ミニオンズ』『SING』『マリオ』スタジオの最新作
“未知の世界への冒険”や、“無限大の可能性への挑戦”に対して恐怖を一切感じないという人はいるだろうか。いるのであれば羨ましい限りだが、多くの人は自分の知らない世界へ飛び立つことに多少なりとも不安・恐怖を覚えるものだと思う。同時に、その挑戦に喜び・興奮を感じる人もいるだろう。3月15日(金)日本公開となるアニメーション映画『FLY!/フライ!』は、そんな“冒険にともなう恐怖と喜び”をわかりやすくまっすぐな物語で描いた作品だ。
映画『FLY!/フライ!』レビュー
【動画】『FLY!/フライ!』予告編
『FLY!/フライ!』あらすじ
主人公はアメリカ北東部の小さな池に暮らすカモの家族。父親のマックは子ども達に“おはなし”として外の世界に出ることの危険性を刷り込みながら、“池にいれば一生幸せに暮らせる”と信じている。
しかしある日、一家が暮らす池に、移動中の渡り鳥たちが立ち寄る。その姿を見た妻パム、息子ダックス、娘グウェンは大興奮で外の世界への冒険をねだり始め、結局“一家初めての大移動”が始まるのだ。
イルミネーション最新作に、豪華キャスト集結
今作は『怪盗グルー(ミニオンズ)』『ペット』『SING/シング』といった人気シリーズや、昨年大ヒットした『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(2023)』などで知られるイルミネーション・スタジオの最新作。イルミネーションは初期から今まで、“わかりやすくてファミリーで楽しめる物語”だけを世に送り出し続けている。今作『FLY!/フライ!』も例に漏れない。小さな子どもが観ても楽しみやすく、ファミリーで安心して観に行ける仕上がりだ。
ちなみに声優陣はマック役にクメイル・ナンジアニ/堺雅人、パム役にエリザベス・バンクス/麻生久美子、ワルなハトのチャンプ役にオークワフィナ/ヒコロヒー、ダンおじさん役にダニー・デヴィート/羽佐間道夫、サギのエリン役にキャロル・ケイン/野沢雅子と、英語版・日本語吹替版ともに集結した豪華キャストにも注目。特にチャンプ役のオークワフィナはラッパー出身で女優業もこなし、ディズニー映画『ラーヤと龍の王国(2020)』『リトル・マーメイド(2023)』でも声優として実績を残した、今もっとも勢いのあるハリウッドスターのひとりと言えるだろう。
“冒険にともなう恐怖と喜び”
まず今作の中心となるのは冒頭でも触れた“冒険にともなう恐怖と喜び”だ。今作のマックと家族の関係性はピクサー映画『ファインディング・ニモ(2003)』のニモとマーリンの関係も思い起こさせるところがあるが、知識と経験値のある大人と何も知らない子どもでは、やはり恐怖も知らない子どもの方が文字通り“恐れ知らず”だ。大人(親)が安定・安心を取りたがり、子どもが好奇心のままに何でもやってみたくなるのは自然だろう。
今作はそのどちらが正しいかを提示するような映画ではない。なぜならどちらも正しく、言ってしまえばバランスの問題だからだ。恐れて動かなければ何もできない。しかし恐れ知らずに突き進めば取り返しのつかない出来事が起きかねない。もちろんそれは鳥の移住の話だけではなく、我々の人生においても言えること。今作は“挑戦の喜びともリスクへの恐怖とも上手く付き合っていかなければならない”という教訓を、親しみやすいストーリーで教えてくれる。
親子がお互いの気持ちを考えるきっかけになる1作
外に出ることに極度の不安を抱えていたマック。彼は、家族や仲間と共に冒険・挑戦することの魅力に触れる。逆に“恐れ知らず”だった子どもたちは実際に危険な目に遭って、初めて父マックから教えられていた恐怖に触れる。喜びと恐怖は相反するようでいて併存できるものだ。つまり冒険を楽しむ人も恐れの感情は抱くし、冒険に不安を感じる人にも楽しむ心はあり得る。時に冷静にリスクを検討することも大切にしながら、果敢にチャレンジを楽しめばいい。これが『FLY!/フライ!』が教えてくれる力強いメッセージではないか。親は子の、子は親の気持ちを考えるきっかけになるかもしれない、まさにファミリーで観に行っていただきたい映画だ。
表情豊かで可愛らしいキャラクター
加えてキャラクターの感情表現もとても豊かで可愛らしい。主人公は鳥で、そのフォルムもそこまでデフォルメしない。とすると、ある程度クチバシの制限もあって表情管理が難しそうなイメージがある。たとえば『ペンギンズ(2014)』『アングリーバード(2016)』あたりは現実の鳥を大きくデフォルメしたデザインをしているし、逆に『ファインディング・ドリー(2016)』のベッキー、『モアナと伝説の海(2016)』のヘイヘイなどは極度のポーカーフェイスだ。
しかし、イルミネーションが手がけるキャラクターの表情筋を舐めてはいけない。まず妹ガモのグウェンを除くほとんどのキャラクターは比較的元々の鳥のフォルムに近い。しかし、彼らは目と眉毛を全力で使って感情表現してくれる。動きの少ないシーンでも観客を飽きさせないアニメーションだ。
“飛翔”の爽快なアニメーション
さらに今作の魅力は、“鳥”ならではの飛翔アニメーションだ。たまにふと、夫婦の羽のちょっとした差し色にもふと目が行ってしまう。丁寧にデザインされた鳥たちが大空に羽ばたくシーンは“イルミネーション・スタジオの可愛いアニメ”には収まらない開放感とリアルを感じさせてくれる。つまり“コミカルで可愛い”作風ながら、“リアルな美しさ”が映像を重厚にしているのだ。
“数多の羽が集まった2枚の翼で飛ぶ”という、鳥としては当たり前の姿・動き。それがこんなにもゴージャスなものだとは、しばらく忘れていたような気がする。ゴージャスな動きで、かつダイナミックな飛行を見せる美麗なアニメーションは、ぜひ大スクリーンで味わっていただきたい。
まず家族で物語を楽しめて、可愛いキャラクターに盛り上がれる。そしてダイナミックな映像で冒険にワクワクできる。そんなイルミネーション・スタジオ最新映画『FLY!/フライ!』は3月15日(金)日本公開。