会社経営者の川崎貴子さんは、40代半ばにして乳がんに罹患し、乳房の摘出を経験されました。ホルモン治療にともなって閉経、更年期障害もやってきましたが、更年期を自分で受け入れたことで生活がバラ色になったと言います。川崎さんの更年期との向き合い方を綴っていただきました。

 

■私たちは、そう簡単に老いを受け入れられない

あれは、昔からの女友達とランチをしていたときのこと。
20代後半で出会った女性社長友達4人は、皆それぞれ40代後半から50代前半になったというのに、会えば仕事の話や美容の話、20年前と変わらない熱量で毎回情報交換が止まらない。その席で誰かが突然つぶやいた。

「サザエさんのフネさん、アラフィフだって知ってた?」

百物語のようにその場は静まりかえり、フネさんのおばあさん然としたたたずまいを各々が思いめぐらせる。サザエさんが昭和の設定だからとは言え、いまの方が平均寿命が延びているとは言え、あのフネさんの「まるっと老年期を受け入れている姿勢」は現代アラフィフにとってはある種の脅威。

カラーリングで白髪を隠し、エステやクリニックに通って肌の老化を多少防ぎ、爪にはネイル、ダイエットサプリで体形を保っている自分の悪あがきぶりが否応なしに露呈してしまうからだ。

悪あがきといえば、私たちは「フネさんと同世代」以外にも認めたくないことがある。それは、更年期。

閉経前後に訪れる「更年期障害」については、今まで多くの人が悩まされてきたはずなのに語り部は少ない。女性ホルモンが減少することによって引き起こされるそれらは、卵巣の変化も含めて「女性性リタイア?」みたいな印象があるのか、いまだセンシティブな話題ではある。少なくとも、「今日、生理何日目?」と、若い頃友人に聞いた気軽さで、「いつから更年期始まった?」とは聞けない程度には。

実際、SNSでの同世代女性の書き込みに、「めまい? 更年期障害ですか?」と聞かれたことに対する相手の非礼さを責め、聞かれた自分を嘆いているものを見つけたことがあって、そのあまりに執拗な長文に、それこそ更年期障害の影響ではないかと勝手に心配したことがある。カジュアルに聞く方も聞く方だが、彼女はもともとこざっぱりとした性格だった故、同世代としては他人事と到底思えなかった。

やはり私たちは、美容の側面でも、生物としてのステージ的にも、そう安々と“老い”を受け入れられないのだ。医療やテクノロジーがこれからも発展してゆけば、さらに私たちのような女性が増えてゆくのだろう。

 

■更年期障害、私の場合

更年期とは一般的に、閉経の前後10年の期間を言うらしい。

私は44歳のときに乳がんが発覚し、右乳房全摘出後にホルモン治療を開始して閉経したので、人よりも少し早く更年期を迎えたことになる。乳がんの顛末を綴った本『我がおっぱいに未練なし』にも書いたが、ホルモン治療を提案されたときには、すぐに閉経するということや、多岐にわたる更年期障害の症状を聞いておののいた。

イライラやめまい、突然の発汗、体重増加、髪や肌のパサパサ化、やる気の低下、などなど、全部ごめんこうむりたいラインナップ。中でも「やる気の低下」に至っては、「やる気」だけで生きてきた私としてかなりの致命傷に思われた。

しかし、命には代えられないし、更年期障害は放っておいても数年後には経験することだと考えた。そしてなにより、先生の言った「症状が全部出る人もいるし、まったく出ない人もいる」という言葉の「まったく出ない方」に希望を託し、私はホルモン治療かもーん! 更年期ばっちこーい! と閉経したのだった。

それから半年が経ち45歳になった私は、正直浮かれていた。あんなに心配した更年期障害は、突然の発汗は多少あるけどそれくらいで、他にはなんの不自由もなかった。「私は“まったく出ない人”だったのね~」と、なにかの賭けに勝ったような高揚感があったし、生理のない人生がこんなに快適だったとは! と驚いていたのだ。

あの毎月の腹痛やら倦怠感やら不快感がない世界は本当にハッピーで、こんなことなら若い頃からピルを飲んでいればよかったと後悔しつつも、来月再建する予定の「新しいおっぱい」に気をとられ、終始ワクワクしていた期間だったのをよく覚えている。

なんだか最近イライラするなぁ、と感じるようになったのはそれから3年後の48歳、今年の4月のこと。新型コロナウイルスの影響による自粛期間中だったので、原因はコロナのストレスだろうと疑わなかった。

6月には露骨な体力の衰えを感じる。これも、続けていた水泳がジムの休業により断たれたせいだと思った。で、7月にはめまいがきて、8月にはだるくてやる気が起きない感じになったのだが、それでも私は今年の猛暑のせいだと思っていた。

コロナも猛暑も多少落ち着いた9月になっても症状は続き、私はやっと、自分にとっての不都合な真実に目を向けることとなる。「これ、更年期障害フルコースやん!」と。

そうと決まれば話は早く、更年期障害にいいと聞いていた水泳をがっつり再開し、いろいろなサプリを試しまくる。私の場合は友人に紹介してもらった、医者に処方してもらえる漢方が一撃で効いた。ここ半年苦しんでいた症状が一掃されたわけで、生活はバラ色に、仕事も精力的にできるようになったのだ。

 

■まずは「更年期を疑ってみる」選択肢を持って

私の愚かすぎる更年期障害エピソードから、40代以降の女性たちにはぜひ、「まずは更年期を疑ってみる」という選択肢を持ってほしい。そして、クリニックなどに気軽に相談するのをおすすめしたい。

敵は、「おばさんと認めたらおばさん臭くなる」みたいな精神論で太刀打ちできる相手ではない。思春期にも我々を荒ぶらせ、妊娠時には不安をあおり鬱々とさせたあの「ホルモン様」なのだ。私の場合、「更年期を認めない」と自分につっぱってよかったことはひとつもない。

聞くところによると、閉経や更年期という概念が広まったのは19世紀後半以降らしい。
そう考えると、更年期もその後の老年期も、現代に生きる人たちへのギフトみたいなものだ。せっかくのギフト期間をよりハッピーに過ごすために、私たちは健康に留意し、医療を頼り、アンチエイジングを楽しんでいいのだ。

そして、より幸せでパワフルな更年期人口が増えるように、更年期障害をもっともっと気軽にシェアできる世の中になるといいな、と思っている。

 

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