◆犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」

 立正大学教授で社会学博士の小宮信夫さんによれば、犯罪が起きやすいのは「入りやすく見えにくい場所」だといいます(*)。

 たとえば駐車場には誰がいてもあやしまれませんが、車の陰など死角も多い場所です。高い建物に囲まれた道は、人目がありそうですが建物が高層になればなるほど監視性は低くなり、住人も外で何が起こっているか気づきません。建物が壁になり、周囲を行き交う人から見えづらくなることもあるでしょう。

 なかでも日本の公衆トイレは「誰もが入りやすく」「誰からも見えにくい場所」の代表例だといいます。というのも日本の公衆トイレは男性用と女性用の入口が近く、万が一男性の性加害者が女性を尾行しても周囲に誰もいなければ一緒に入れたり、入口にある壁が邪魔をして買い物客や従業員の視線が届きにくいことも少なくないからです。

 しかし、海外の公衆トイレは事情が異なります。男性用と女性用の入口が離れて設けられていたり、建物の表と裏に分かれているなど、犯罪者が犯行に及ばないようにデザインされているものが多いのだといいます。たとえ犯罪者に「犯罪をしたい」という動機があっても、成功しなさそうなら「ここは無理か」とその場から退散します。

「子どもに性加害をする」といった動機を持った人が、犯罪をする機会に巡り合って初めて犯罪が起きる。たとえ動機をなくせなくても、その機会さえ与えなければ犯罪は起きない――この考えを「犯罪機会論」といいます。