苦い歴史と、変身した新作を振り返るセバスチャン・スタン
セバスチャン・スタンが、有名監督の映画のオーディションに参加した際の苦い思い出を振り返った。
『キャプテン・アメリカ』シリーズをはじめとするMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)でバッキー・バーンズを演じていることでもおなじみの俳優セバスチャン・スタン(ほかに『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』『Sharper:騙す人』など)が、大幅な特殊メイクでの“障がいのある俳優”役に挑戦した『A Different Man(原題)』がサンダンス映画祭で上映。Variety誌のインタビューに応じたスタンは、同作以外のトピックについてもさまざまなエピソードを語った。
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その中のひとつが、あるオーディションでのエピソードだ。スタンはダーレン・アロノフスキー監督(『レクイエム・フォー・ドリーム』『ブラック・スワン』『ザ・ホエール』)の作品『マザー!』のオーディションに挑戦するも、落ちてしまったようだ。
その時を振り返り、スタンはパニック発作を起こして「過呼吸に」なり、「とても緊張してしまって、役を勝ち取れなかった」という。結果、彼が狙っていた役はドーナル・グリーソン(『アバウト・タイム』『ピーター・ラビット』)が演じている。
『A Different Man(原題)』について
そんな過去を振り返ったスタンだが、今回彼はA24の最新作『A Different Man(原題)』で、大幅な特殊メイクを施された上で堂々の演技を見せたそうだ。
主人公のエドワード(特殊メイク状態のセバスチャン・スタン)は顔が肥大化して歪んだ、大きな特徴を持った俳優。わかりやすい例で言うと、『エレファントマン』に登場する“プロテウス症候群”の主人公に似た容姿だ。そんなエドワードはある施術によって絶世の美男(素顔のセバスチャン・スタン)になるが、それだけでは人生が幸せになることはなく、余計にあがくようになってしまう…といった話のようで、「普通であること」の意味を問いかける映画だという。
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監督はアーロン・シンバーグ。ヒロイン役に『わたしは最悪。』のレネート・ラインスヴェ。そして、“顔の病気を抱えた俳優”のモデルであり、舞台裏でもスタンにさまざまなアドバイスを行った実在の人物アダム・ピアソンも、主人公とは別の役として出演した。
ピアソンは自身が演じたオズワルド役を「自分とは性格が大きく異なるが、似た部分も持っているキャラクター」と語り、「(『Chained for Life(原題・2018)』以来に)また監督と一緒に働ける機会を得られて、それに素敵なふたり(スタンとラインスヴェ)とも共演できて光栄だ」と喜んだ。
「(障がいを描く映画の)10本中9本はニセモノ」
ピアソンは障がいのある俳優に対する偏見についてこう語る。「普段僕たち(容姿に特徴のある俳優)が与えられることの多い役割は3種類あるんだ。まず、外見に障害を持っていて、バットマンやジェームズ・ボンドを殺したいと思っているようなヴィラン(悪役)。または『ああ、可哀想な僕』というような被害者を演じさせられることもある。そして、ヒーローのように扱われることもある。障害を持っているのに普通のことをしているとして、なぜか他の人よりも勇敢だと見なされるんだ」と、どうしてもさまざまな意味で特別扱いが多いことを指摘。
そういった脚本をピアソンは「なまけた脚本だ」と批判する。「なぜ非障がい者が、相談もなしに障害について書くんだ?そうなると10回中1回は正解を導き出せるかもしれないが、他の9回は不正確なニセモノになるんだよ」と、障がいのない人間が想像する物語はほとんど偽物になると苦悩を明かした。
そんなテーマに対してスタンも「正しい方法でこの物語の役に立ちたかった」からこそ、この役を受けるかどうかは「慎重に」考えたと告白する。「これは重要な物語なんだ。こういった話題はあまりスポットが当たらない。僕たちは正しい作品を作ろうと本気で願いながら作ったよ」と、難しいテーマを適切な形で世に伝えることを目指して熱心に取り組んだことを語っていた。
『A Different Man(原題)』は全米公開日も日本公開日も未発表だが、ここ数年勢いの止まらないA24映画であるため、日本でも早めに観られることに期待したい。