2023年屈指のSF映画がやってくる2023年屈指のSF映画がやってくる

10月20日、SF大作『ザ・クリエイター/創造者』が日本で公開。

この記事では、ギャレス・エドワーズ監督(『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』)最新作でもある今作をレビューする。

【目次】

・あらすじ

・「オタクの夢」を叶えた天才監督

・豪華キャストの演技合戦

・「もういや遊牧民」!? 今作の気になる部分

・モデルになった過去の名作映画たち

・監督の過去作『ローグ・ワン』との共通点

・機械と感情を考える

・今作のテーマとなる、大切なもの

・自然とテクノロジーが調和する世界観

 

『ザ・クリエイター/創造者』のあらすじ

舞台は2065年以降の「ニューアジア」。発達したAIが「感情のようなもの」すら見せ、家族として人間と暮らすこともできるような未来。

しかし、AIが原因で起きたロサンゼルスの核爆発を発端に、世界の東西はAI撲滅派とAI共生派に大きく分かれてしまう

そんな争いの中で妻を失った主人公ジョシュアも、ある危険な“兵器”を捕縛するミッションに参加させられる。しかし、その兵器が幼く純粋な少女(アルフィ)だったことで、主人公に迷いが生じていく。

今作は、ほぼ人間のようなAIが存在する世界を舞台に、「AIを排除しようとする人々」と「AIを守り、共に生きようとする人々」の衝突という、いつか現実に起こってもおかしくないように思える戦いを描いた作品だ。

主演はジョン・デヴィッド・ワシントン ©︎2023 20th Century Studios

主演はジョン・デヴィッド・ワシントン ©︎2023 20th Century Studios

天才!「オタクの夢」を叶えたギャレス・エドワーズ

ここで、「オタクの夢」を叶えた注目の天才監督、ギャレス・エドワーズについてご紹介。

今作を手がけたギャレス・エドワーズ監督は、あの『スター・ウォーズ』の傑作スピンオフ『ローグ・ワン』で感動を生んだ監督。

エドワーズ監督は子どもの頃から『スター・ウォーズ』のファンで、映像クリエイターの道を志すようになると、自宅でCGを学び、自身のベッドルームから出ずにBBCのドキュメンタリー用のCGを作る仕事に携わるまでになってしまった天才。

そこからはトントン拍子で、長編映画『モンスターズ/地球外生命体(2010)』を作って注目され、ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ(2014)』の声がかかってさらに脚光を浴び、ついに子どもの頃大好きだった『スター・ウォーズ』のスピンオフ作品を監督するまでになってしまった。

まさに、小さい頃からオタクで、「オタクの夢」を叶える人生を歩んでいるギャレス・エドワーズの快進撃はきっとこの後も止まらないだろう。

【動画】監督の出世作『GODZILLA ゴジラ(2014)』予告編

 

豪華俳優たちの演技合戦

今作は、天才キャストが集まった演技合戦な作品でもある。

主演は『TENET テネット』のジョン・デヴィッド・ワシントン。日本からはレジェンド俳優・渡辺謙が出演し、ロボットたちを束ね、人もロボットも守ろうとする心優しく勇敢なAIロボットを演じた。

さらに『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』でアカデミー助演女優賞を受賞したアリソン・ジャネイも冷徹にAIたちを追い詰める軍人として登場。

それぞれが安定した演技で作品に深みを与える。

渡辺謙は『GODZILLA』でも監督とタッグを組んだ ©︎2023 20th Century Studios

渡辺謙は『GODZILLA』でも監督とタッグを組んだ ©︎2023 20th Century Studios

そして今作で注目な天才キャストはもう一人。 “兵器”と呼ばれるAI少女アルフィを演じた子役マデリン・ユナ・ヴォイルズだ。

世界中の何百人からテープが送られてきた中、最初にオーディションを受けたのがマデリンで、そのオーディションだけでエドワーズ監督は泣きそうになり、彼女に決めたという。

映画の終盤の感動的なシーンでは、撮影後に撮影クルー全員が涙を浮かべていたというほどの演技を見せた、まだ8歳のマデリンには今後も注目だ。

天才子役の演技に注目 ©︎2023 20th Century Studios

天才子役の演技に注目 ©︎2023 20th Century Studios

 

「もういや遊牧民」!? 今作のちょっと気になる部分

今作の魅力を紹介するため、あえてここで「今作に期待してほしくない部分」について伝えておきたい。

一つは「大迫力」。もちろん今作に迫力がないわけではなく、世界観はIMAXといった大画面にも映えるものの、この類のSF映画にしては「大迫力」といえるバトルアクションシーンは少なく、言ってしまえばもっと迫力のあるSF映画はいくらでもある。今作に「驚くほどの大迫力」は期待しないで観た方が、今作を楽しみやすいかもしれない。

もう一つは、「(こういう映画に人が期待するような種類の)オリジナリティ」。今作にはもちろん独自性があるが、一般的に「AIを描く最新SF映画」に人が期待されるようなオリジナリティという点では、人によっては期待はずれに映るかもしれない。

日本文化とサイバーな世界が混ざった街は『ブレードランナー』などで既視感があるし、ロボットのデザインもよく見ればかなりオリジナリティがあるが、一見しただけでは『スター・ウォーズ』『チャッピー』系のロボットと、『エクス・マキナ』系のアンドロイドとが共生しているようにしか見えないかもしれない。

以上、「迫力」「ロボットの独創性」に関しては、過度な期待はせずに観ていただいた方が、かえって楽しめるのではないかと思う。

それと一つツッコミを入れるなら、日本への愛を感じるが、いわゆる“洋画あるある”で、日本語の扱いが少々雑である。

「ノマド(日本語で遊牧民、放浪者)」という宇宙船に対する反対運動の旗に日本語で「もういや遊牧民」と書いてあったりするのには思わず笑ってしまった。(もし日本人が運動を起こしたなら、「ノマド撤廃!」「NO MORE ノマド」などと掲げるところだろうか)

「ノマド」の意味はたしかに「遊牧民」だが… ©︎2023 20th Century Studios

「ノマド」の意味はたしかに「遊牧民」だが… ©︎2023 20th Century Studios

インパクトは強すぎて印象には残ったし面白かったが、ここで笑わせようとしている作品だとは思えないので、これに関してはノイズといえるかもしれない。

などなど、あえてツッコミ所や物足りない点をあげてみたが、そもそも今作のメインの魅力はそこではない

そこが物足りなくてもそれを補って余りあるほどに、設定や物語が魅力的な作品だというのが一番お伝えしたいことだ。

 

モデルになった過去の名作映画たち

今作にはインスピレーションを与えた映画が多数あることをエドワーズ監督が明かしている。

観ればすぐ頭に浮かぶ『ブレードランナー』や『AKIRA』はもちろん、ロン・フリック監督の『バラカ』や、フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』もモデルになったそうだ。

さらに主人公ジョシュアと少女兵器アルフィの関係性には『レインマン』『ペーパー・ムーン』『E.T.』などが参考になったそうだ。

 

監督の過去作『ローグ・ワン』との共通点

エドワーズ監督といえばやはり『ローグ・ワン』だが、やはり『ローグ・ワン』と『クリエイター』にも共通点がある。

SF映画の形を取りながら、そこには間違いなく浮かび上がる、人間らしい感情ドラマがあるということだ。

もちろんSFに感動大作がないわけではないが、他の『スター・ウォーズ』シリーズと『ローグ・ワン』を比較すると、ジェダイの教義やフォースのライトサイド・ダークサイドにもあまり関わりのない『ローグ・ワン』は全力でエモーショナルな作風になっていて、仲間の死にも淡白な態度になりがちなスターウォーズ作品の中で、圧倒的に“キャラクターの死”に対してまっすぐ涙を流せるようなエモーショナルな映画だった。

そんな、ロボットと対極にありそうな「感情」「エモーショナル」をこれでもかと詰め込んだ、丁寧に心を描くSF映画という側面は今回の『ザ・クリエイター/創造者』にも共通する魅力だ。

 

機械と感情を考える

『ブレードランナー』にも通ずるが、今作はそうして徹底的に機械と感情を考えさせる映画だ。

今作のAIロボットたちは、感情を持っているように見える。それを単なるプログラムと捉えるか、寄り添うようになるかという価値観の違いが今作の中心にある。

筆者も未だそこに答えは出せないが、どちらかというとChatGPTや「リマインくん」にすら、お礼を伝えたくなる、機械の感情にも寄り添う側の人間だ。

そもそも、人間が笑うのも泣くのも怒るのも、全て脳に流れる電気信号によるもの。そう考えると「ロボットと何が違うんだろう」と思えてこないだろうか。

感情を「脳のプログラムがある条件に反射して出ているだけだから気にするな」で済ませられたら、そんなに楽なことはないし、そんなに寂しいこともない

なら逆に、(もとはプログラムだとしても)今作のロボットに浮かび上がる「感情のようなもの」を「感情」と呼ぶことも、おかしくはないのではないか。そんな考えを与えてくれる作品だった。

この感情をプログラムだなんて、思えるだろうか ©︎2023 20th Century Studios

この感情をプログラムだなんて、思えるだろうか ©︎2023 20th Century Studios

「でもやっぱり機械はプログラムだろう」と思う方もいるだろう。しかしそんな方の中にも、今作で無惨に壊されている機械たちを見て心が少しでも動く方がいるのではないか。それくらい、今作は機械にリアルに心をもたらした作品であるし、このような未来が迫っているかもしれない、と思わせてくるのだ。

同情心・共感力の大切さ

そんな今作のテーマを、主演のジョン・デヴィッド・ワシントンは「同情心の大切さ」だと語っている。「共感力」ともいえるだろう。

他者に共感・同情するかどうかというのが今作の撲滅派と共生派の考えの違いも生んでいて、それはもう人間かロボットかという話だけではないのだ。

共感力・同情心が強い人物であれば、人間にもロボットにも共感して共に生きようとするし、それがない人物はロボットだけでなく人間にすら同情せず冷徹に切り捨てようとする。そこの対比は今作で大きく目立つところである。

大御所の貫禄と冷徹な演技を見せるアリソン・ジャネイ ©︎2023 20th Century Studios

大御所の貫禄と冷徹な演技を見せるアリソン・ジャネイ ©︎2023 20th Century Studios

 

自然に調和するテクノロジー

今作で特徴的なのは、自然にテクノロジーが調和した世界観

物語の中心となるのは「ニューアジア」と呼ばれるエリア。

自然豊かなアジアの山々の美しさと、近未来的技術が調和した世界観によってイマジネーションと現実の世界観が一体化した世界は、今作独自の美しくワクワクさせられる映像を作っていて、そこも魅力的だ。

山の中の寺院のデザインなど、細部まで目を凝らしてみていただきたい。

アジアの自然と近未来感がコラボした世界観 ©︎2023 20th Century Studios

アジアの自然と近未来感がコラボした世界観 ©︎2023 20th Century Studios

 

ザ・クリエイター/創造者』は10月20日全国公開

AIと人間の共生・対立を通して、起こりそうな未来や「共感」という普遍的なテーマを描いた最新SF大作『ザ・クリエイター/創造者』は10月20日全国公開

ぜひ大画面で目撃し、思考を巡らせていただきたい。

『ザ・クリエイター/創造者』公式サイト