昨年パリに移住したライターの鈴木桃子さんが、街中で見つけたすてきなパリジェンヌをスナップする連載の第4回。
華美ではないけれど、シンプルなスタイルの中にきらりと光るセンス――そんなすてきな人のエッセンスを探るべく、パリの街角で出会ったパリジェンヌたちにプチインタビューを敢行します!
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サスティナブル観点でもヴィンテージファッションを選ぶ
今回は、CALLAのデザイナーのカーラさんをキャッチ! 自身が手がけたバブーシュをメインにしたシックなコーディネートが、秋めいてきたパリの街で光っていました。
―今日のファッションのポイントは?
私のファッションルールは、いつも色を楽しむこと!
今日は『Acne Studios(アクネ ストゥディオズ)』のニットに『GANNI(ガニー)』のパンツ、そして私のブランド『CALLA(カーラ)』のバブーシュを合わせました。カラフルなバブーシュの色合いが引き立つように、シンプルなスタイリングにしています。
―女の子のイラストが描かれたバッグも目を惹きますが、どこでゲットしたものですか?
このバッグにプリントされている女の子のポートレートは『Brian Calvin(ブライアン・カルヴァン)』というアメリカ人アーティストが描いたもの。ラフ・シモンズともコラボレーションしたことがあるアーティストで、長い間ずっとファンだったの。
数年前、彼がパリで個展を開催するという情報を耳にして、すぐに駆けつけました。インパクトあふれるバッグは、その個展で購入したものです。
―いつもバッグの中に入れているものを教えてください。
財布、サングラス、『Aesop(イソップ)』のハンドジェル、『Yves Saint Lauren(イヴ・サンローラン)』のコンシーラー。このコンシーラーさえあれば、メイクはOKという愛用品。
ペンやメモ帳、ブランドのリーフレートも欠かせないアイテム。今日は、友人が作っている雑誌『Makers Magazine』も持ち歩いています。昨年刊行したばかりで、パリのクリエイターを紹介している素敵なライフスタイルマガジンなんです。あとは、娘のための絆創膏やヘアゴムかな。
―パリジェンヌのファッションには、どんなイメージを持っていますか?
パリジェンヌは、ヴィンテージアイテムのショッピングが大好きですね。持続可能な社会を実現していくためにも、とても良いサステイナブルな選択肢だと思っています。
特に人気のヴィンテージは、90年代から2000年代初頭のファッション。そしてパリジェンヌにとって、フラットシューズはマストアイテム。本物のパリジェンヌって、どこを訪れるにもとにかく歩くの。だから、ヒールを履いている人は、観光客だなとすぐに見分けることができます(笑)。
そんな風に、パリジェンヌはエフォートレスな装いを好むとよく言われていますよね。それは本当だと思うけれど、特に若い人は装うこと自体を楽しんでいるし、ファッションに自己表現も見出していると思います。
自分を見つめ直し、持続可能な価値観と職人技術を併せ持つバブーシュ作りに挑戦
―自身のブランドCALLAを立ち上げたのはどんな経緯だったのでしょうか?
私はニューヨークとパリのパーソンズ・スクール・オブ・デザインで学び、その後ラグジュアリーファッション業界へ進みました。
『Rochas(ロシャス)』と『Nina Ricci(ニナ・リッチ)』で、Olivier Theyskens(オリヴィエ・ティスケンス)と一緒に仕事ができたのはすばらしい経験だったと思います。
2009年に自分のアパレルブランドCALLAを立ち上げたのですが、オリジナルプリントとカラフルなテキスタイルで知られるようになりました。
―アパレルブランドから現在のブーシュ作りに転向したのはなぜですか?
順調にキャリアを築いていたけれど、あるとき、私はファッション業界を本当に好きなのかと考えるようになったんです。
あらためて自分自身と向き合ってみようと思い、2015年にブランドを一旦休止することにしました。そして休んでいるあいだに、持続可能な価値観と職人技術に焦点を当てた新しいプロジェクト『THE BOUCHAROUITE PROJECT』として、バブーシュ作りをスタートさせることにしたんです。
―どんなプロジェクトだったのですか?
最初は、アパレルブランドCALLAの余った生地を使用し、モロッコの女性織り手と協力して、一点もののラグを生み出すというプロジェクトでした。未使用の余剰素材をリサイクルすることができる良い方法だと考えました。
その後、このモロッコの素晴らしい織り技術をもとに、バブーシュも作ることができるのではないかと考えたんです。そして、今のようなオリジナルのバブーシュを作り始めました。
―CALLAというブランドにおいて、今、大事にしていることは何ですか?
伝統的なテキスタイルをリサイクルすることと、モロッコの職人たちをサポートすること。そんな持続可能な価値観を大事にしています。
たくさんの人たちとコラボレーションしてバブーシュを作っていますが、全員が創造性を持ったクリエイターだと考えています。そして、クリエイションをゆっくりと進めることを心がけています。ハイスピードで進み続けるファッション業界を追いかけ続ける必要性を感じていないんです。
自分自身のルールをもとに、持続可能なペースで進むこと。それが、いま私が望んでいることです。そうして作り上げた一点もののユニークピースが、人々に笑顔をもたらしてくれたらいいなと思っています。
―持続可能なペースを大事にすることで、仕事とプライベートとのバランスも取りやすくなりましたか?
5歳の娘がいるのですが、バブーシュコレクションは、ちょうど娘を妊娠中に開発したものです。自分のペースで仕事を進められるようになったことは、私たちのような若い家族にとって素晴らしいタイミングでした。
もし娘のケアが必要な時には、いつでもバブーシュを作る手を休めることができます。起業家になって本当に良かったと思いましたね。
モロッコの復興を願って支援を続ける
―日々、どのようなタイムスケジュールで過ごしていますか?
朝、目を覚ましたら、まずマリアージュ・フレールのアールグレイプロヴァンスティーを飲みます。ラベンダーを入れるのがお気に入り。この紅茶なくしては、1日が始まりません!
そして娘を幼稚園に送り、地下鉄に乗ってオフィスに向かいます。パリでは自転車に乗る人が多いけれど、私は地下鉄が好きなんです。
そしてオフィスで仕事をして、ランチタイムにはマレやドゥ・トンプル広場で友人とランチをします。
子どもの学校は16時30分までなのですが、私は週2回お迎えに行っています。
それ以外の日は、18時までオフィスで仕事。仕事を終えたら真っ直ぐ家に帰り、家族と過ごします。私たち家族はローカルのマルシェで買い物するのが大好きなので、新鮮な食材を使って料理することを楽しんでいます。
―オフィスをリノベーションされたばかりですが、ここではどのような仕事をしているのですか?
つい最近、ショールームとしても使えるようにリノベーションしたばかりです。ここでの仕事内容は日々異なります。
新しいバブーシュの箱を開けて、一点もののバブーシュのどれとどれをペアにしようか考えるのは楽しい時間。
あとは、世界中からの注文の発送作業をしたり、インスタグラムをチェックしたり、顧客からのDMに回答したり。新製品開発にも取り組んでいて、来季はクロッグを導入するんです!
テキスタイルデザインを通じて自分のクリエイティビティを表現するのが好きなので、ほかのブランドからの依頼を受けることもあるし、自分のために作品を作ることもありますね。
―幸せな気持ちにしてくれる日々のルーティーンはありますか?
15歳になる、リリーベアという名前の犬を飼っています。毛が多いタイプの犬なので、彼女のお手入れをすることが日課。
その時間が大好きで、日々、ゆったりと幸せな気持ちにさせてくれます。
―9月にモロッコで地震被害がありましたが、今考えている支援はありますか?
私たちが協業している靴職人はマラケシュに拠点を置いているのですが、テキスタイルの織物職人たちは今回の地震の震源地に非常に近い村に住んでいます。
みんな無事だったものの、地震によって家もアトリエもすべて失ってしまい、ほとんどの人たちがテント生活を強いられています。
先日、支援物資を届けたのですが、この村に続く道路が無事に残っていたため、迅速に届けられたのが不幸中の幸いでした。そして先週からは、オンライン販売収益の100%を彼らに寄付するドネーション活動も始めました。
また、「High Atlas Foundation」というモロッコの慈善団体の支援もしています。持続可能な農業や地域活性化を推進している団体なのですが、被災したコミュニティに緊急支援物資も提供しています。
彼らの理念に感銘を受け、どれだけ長い道のりでも、彼らとともにコミュニティの再建を支援したいと思っています。私は、いつもモロッコのために祈っています。
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やわらかく落ち着いた語り口で、しっかりと芯のある言葉を紡ぎ出すカーラさん。自分自身の物差しで大事なことを見極めて、持続可能なものづくりを進めていく姿勢が眩しい!
自分に必要なものはなにか?自分が好きなものはなにか?今一度、自身に問いかけて見つめ直してみたいと思いました。