昨年パリに移住したライターの鈴木桃子さんが、街中で見つけたすてきなパリジェンヌをスナップする連載の第3回。
華美ではないけれど、シンプルなスタイルの中にきらりと光るセンス――そんなすてきな人のエッセンスを探るべく、パリの街角で出会ったパリジェンヌたちにプチインタビューを敢行します!
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ファッションはルールよりも快適さを大切に
パリでいちばん大きな蚤の市として知られるクリニャンクールで、ひと際目を惹くキッチュでかわいらしいお店『Popular Favorites Vintage(ポピュラー・フェイバリット・ヴィンテージ)』。
今回は、フィンランドからパリに移住してきたという若きオーナーのカイサさんをキャッチ!
―今日のファッションのポイントを教えてください。
ヴィンテージショップを経営しているので、サンダル以外はヴィンテージアイテムです。
白のリネンドレスは「エドワーディアン」と呼ばれる、エドワード7世統治下の1910年頃のイギリスで流行したロマンティックなスタイルのもの。その上に、80年代のコットントレンチコートを着ています。
コートの襟に付けたヴィンテージのバッジもポイント。70年代を代表するポップスターであるグレイス・ジョーンズが描かれたバッジ。お客様に「欲しい」と言われることもあるけど、これは販売していない、お気に入りの私物です。
でも、ヴィンテージのバッジはたくさんコレクションしていて、ショップで販売しています。スウェードのハンドバッグは60年代のものです。
―サンダルはどこのブランドのものですか?
フィンランドのファッションブランド『Samuji(サムイ)』のものです。
マリメッコのテキスタイルハウスでクリエイティブディレクターを務めていたサム-ユッシ・コスキが2009年に始めたブランドです。以前ヘルシンキにいた頃はSamujiで働いていて、プロダクト開発や生産管理に関わっていたんです。
―常にバッグの中に入っているものは?
カードケースや小銭入れ、小さな鏡、カギに付けたキーホルダーは、お気に入りのヴィンテージアイテム。
この定番アイテムに加えて、リップバームもいくつか持ち歩いています。そうすることで、家にうっかり忘れてきてしまっても、ほかのリップバームがバッグに入っているから大丈夫なんです(笑)。
携帯用の日焼け止め、ヘアクリップ、ペン、ネイルファイルのほか、私はしょっちゅう怪我をするのでバンドエイドも必需品。
晴れたらキャップをすぐに被れるように、いつもバッグのハンドルに引っ掛けています。キャップはサンフランシスコのフットボールチーム、フォーティナイナーズの80年代のもの。
―ファッションにおいて、マイルールはありますか?
ファッションに関して、ルールを持つこと自体があまり好きではないの。でも、いくつかのルールがあるとしたら、それは快適さと品質かな。
カジュアルからフォーマルまで、どんなスタイルでも服を選ぶ際にはいつも快適さを重視しています。
だから、お客さんが試着する時も、「快適ですか?」と、ついつい聞いてしまいます(笑)。服は、一生着られるくらい上質であることが何より大事だと思っています。
一念発起でパリへ移住、ヴィンテージショップを開業
―ヴィンテージは小さな頃から好きだったのですか?
そうですね、子どもの頃からフリーマーケットでヴィンテージアイテムを物色するのが好きでした。何が見つかるかわからない、どんな宝物が埋まっているかわからない、ヴィンテージ探しにはそんなドキドキが詰まっています。
またコスチュームやファッションの歴史にも興味があり、特にユースカルチャーと関連したファッションに夢中になりましたね。ヴィンテージアイテムはいつも私のクローゼットの一部だったし、そうして徐々にヴィンテージを販売することは私の夢になっていきました。
でもフィンランドに住んでいた頃は、夢は夢のままでしたね。
―なぜフィンランドではなく、パリでヴィンテージ販売をしようと思ったのですか?
ファッション業界で働くことは時に厳しく、特にフリーランスの場合は給与なしで働かねばならないことだってあります。
フィンランドで働いていたときは厳しい局面も多く、しっかり収入を得る必要があったこと、情熱を持って取り組んでいきたいということ、その両方の気持ちからパリでヴィンテージ販売を始めようと一念発起。2018年の秋に移住してきました。
それからフランス人の彼氏と遠距離恋愛を続けたくなかったことも、移住の後押しになりました。
彼がヘルシンキでアーティストとして働くより、私がパリで仕事を見つけることの方が簡単だったから。それに、海外で暮らす経験もしてみたかったんです。
―創業時の滑り出しは順調でしたか?
最初はオンラインでヴィンテージアイテムの販売を始めました。実は、彼もヴィンテージビジネスに携わっていて、いまではマルシェ・ヴェルネゾンでヴィンテージ自転車の修理や販売、レンタルをするショップを経営しています。
業界内の人々と繋がりもあるし、いろいろな面で私を導いてくれ、大きな助けになってくれたんです。そして数年前、クリニャンクールの蚤の市に良い場所が空いていると彼が教えてくれ、売り上げを試算した結果、ここで店を出すことを決めました。
―『Popular Favorites Vintage』のコンセプトについて教えてください。
ずっとファッション業界の動向を追いかけているけれど、私の最大のインスピレーションは常に映画と音楽!
映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘップバーンが演じたホリー・ゴーライトリーのアパートメントやジョン・ウォーターズの映画のシーンを思い浮かべてみてください。そんなキッチュでクラシックな要素が混ざったテイストがコンセプトです。
Tシャツからドレスまで幅広いファッションアイテムに、ヴィンテージのインテリア小物を取り扱っています。
―ヴィンテージのセレクトで重視していることはありますか?
まず、目を惹くアイテムであること。すべて自分の目で厳選しているため、セレクションはさまざまですが、ファストファッションやコレクションアイテムと相性が良く、デイリーで身に着けやすいアイテムを揃えるように心がけています。
品質も重要なので、素材や生産過程までチェックします。私のこれまでのキャリアがとても役立っていますね。
パリはインスピレーションと個性に溢れる街
―パリジェンヌらしいヴィンテージアイテムのスタイリング術を教えてください。
パリは、多くのインスピレーションと個性的なスタイルで満ちている場所。だから、私はパリを愛しています。
コットンのブラウス、定番のカーディガン、Tシャツ、デニムは、常にパリジェンヌに人気のアイテム。自分のワードローブと組み合わせやすいヴィンテージアイテムを取り入れて、クラシックに仕上げるのがパリジェンヌは上手ですね。
―毎日のルーティーンはありますか?
起床後、コーヒーと朝食を取りながらニュースを読みます。それから少し家事をして、仕事を始めます。ショップがオープンしている週末より、平日の方が忙しいですね。
ヴィンテージアイテムを探したり、きれいにしたり、必要に応じて修理したり…オンラインショップ用の写真撮影も大事な仕事。
夜は、友達に会ったり、彼氏と一緒に夕食を作ったりしますね。就寝前は携帯を見るのではなく、本を読むようにしています。
週に1日は休むようにしているけれど、必ずしもそうはいかない。でも仕事が好きだから、それも悪くないかな。
―忙しい日々の中で、いちばん幸せを感じる時間は?
朝起きて、コーヒーを楽しむこと!
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ヴィンテージの知識量とキッチュなセンス、ファッションの仕事で培ってきた目利き力。クラシックなパリのヴィンテージ界隈に風穴を開ける、新世代ともいえるカイサさん。
好きなものにとことん夢中に、夢を追いかけている姿が眩しく、趣味を仕事にする素敵な人生観を覗かせてもらいました。