普段のクーパー(左)と、予告編で義鼻をつけていたクーパー(右)
指揮者であり作曲家であったレナード・バーンスタインを描く伝記映画『Maestro(原題)』(以下『マエストロ』)で、監督・共同脚本・主演を務める俳優ブラッドリー・クーパーが、ある外見の変化によって批判の嵐にさらされている。
ユダヤ人を演じるために義鼻をつけたら・・・
8月15日、Netflix製作映画『マエストロ』の予告編が公開。その予告編では、ユダヤ人であるバーンスタインを演じるにあたり、クーパーが目立つ義鼻(つけ鼻)を使用していたことが大衆の目にさらされた。現在その”ユダヤ顔”の演技に対して、批判が巻き起こっている。
アメリカに移住したユダヤ系ウクライナ人の息子であるレナード・バーンスタインは、非常に才能のある指揮者であり、作曲家であった。『ウエスト・サイド物語』の音楽やその他の交響曲を作曲したこと、ニューヨーク・フィルの音楽監督になったことなどでよく知られている。しかしバーンスタインを描く今回の伝記映画で監督・共同脚本・主演を務めるクーパーはユダヤ人ではなく、予告編ではキャリー・マリガン演じるバーンスタインの妻フェリシア・モンテアレグレと共に、義鼻が目立つ姿で登場している。
義鼻をつけるならユダヤ人に演じさせろ!との声
イギリスの俳優で活動家のトレイシー=アン・オーベルマン(Tracy-Ann Obermann)は「もし(クーパーが)義鼻をつける必要があるのなら、それは私を含む多くの人々にとって、『ブラックフェイス』や『イエローフェイス』(※)と同じことだ」「もしクーパーが演技力だけで(バーンスタイン役を)演じることができないのなら、彼を起用せず、ユダヤ系の俳優を使うべきだ」と義鼻によってユダヤ人になりきることを批判した。
※ブラックフェイスは、白人などが顔を黒く塗って黒人を演じること。イエローフェイスはその黄色人種版。どちらも人種差別的だと批判されることが多い。
さらにオーベルマンは「ブラッドリー・クーパーは、エレファントマン役を1つの装具もなしに演じ切った。義鼻がなくてもユダヤ人を演じられるはずだ」と、2014年にクーパーが『エレファント・マン』のジョン・メリック役で舞台に立ったことも踏まえて分析した。
批判する専門家に対し、当事者は・・・?
米ハリウッド・レポーター誌のテレビ批評主任ダニエル・フィンバーグも、5月に同作の撮影現場の写真が公開された時点で、この義鼻を「問題あり」と呼び、その後、この映画を「エスニックなコスプレ」と評している。
ただ、当事者はそこまで批判的でもないようだ。レナード・バーンスタインの子供たち(ジェイミー、アレクサンダー、ニーナ)はソーシャルメディアに投稿された声明の中で「(クーパーの)努力に対する誤った表現や誤解を目にすることは、私たちの心を傷つけます。私たちの父(レナード)も、私たちと同じように(クーパーの演技を)喜んでいたと確信しています」とクーパーが父を演じたことを肯定し、クーパーを擁護している。
この論争は、クリストファー・ノーラン監督による伝記映画『オッペンハイマー(原題)』で、核物理学者J・ロバート・オッペンハイマー役にキリアン・マーフィーが起用されたことへの反対意見にも続くものだ。ユダヤ人コメディアンであるデヴィッド・バディールも、ジューイッシュ・クロニクル誌の記事で、上記のようなキャスティングを「自己満足」であり、「ユダヤ人の抹殺」を「二重化」していると批判している。
当事者が許しても周囲が許さないことがあれば、逆もまた然り。マイノリティをめぐるこの問題がどう落ち着くのかは今後も注目しながら、『マエストロ』の配信を待ちたい。
『マエストロ』は12月20日からNetflixにて配信予定。