両作とも話題にはなっているが・・・?(©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved. / ©2023 PARAMOUNT PICTURES.)両作とも話題にはなっているが・・・?(©2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved. / ©2023 PARAMOUNT PICTURES.)

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』など、人気シリーズの続編が次々に公開されているが、期待されるほどの興行収入には至らず。インディアナ・ジョーンズもイーサン・ハントも、映画ビジネスの移り変わりからは逃れられないようだ。

ハリソン・フォードとトム・クルーズが演じたアクション・ヒーローたちが、ディズニーの『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル(以下『インディ5』)』とパラマウントの『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE(以下『M:I 7』)』で映画館に帰ってきた。 それらの2本は、現実逃避させてくれる大冒険と昔懐かしいノスタルジアの強力な組み合わせによって映画興行を活性化させることを期待されていたのだが、両作とも興行的に大成功と言うには難しいようだ。その原因の多くは、高すぎる予算にある。

パンデミック時代の後にしては健闘中?

6月に公開された『インディ5』は、公開6週間後に全世界で3億7,500万ドル(約545億円)、7月に公開された『M:I 7』は、公開5週間後に5億2,300万ドル(約760億円)を売り上げている。数十年前に製作された古い映画の観客層がメインターゲットであることを考えると、現在の映画興行状況において、これらのチケット売上は十分好成績である。

問題は、少なくとも1億ドル(約145億円)のマーケティング費用をかける前に、それぞれの続編の製作だけでおよそ3億ドル(約436億円)の費用がかかっていることだ。期待を下回った現状を見たショーン・ロビンス(映画製作の財務に詳しい、Boxoffice Proのチーフ・アナリスト)は、劇場公開で1億ドル近い損失を出す可能性があると話した。

コロナ禍がなかったら、これらの映画はもっとヒットしていたと思います。とはいえ、予算は膨れ上がっていますが、これらの映画は『それなりの費用でそれなりの成績を収めた』という結果を残しました」とロビンスは現状を分析。コロナ禍の影響は大きいが、大失敗と言われない程度の成績は残せているようだ。

ストリーミングなども考えた長期的な視点

ちなみに映画スタジオの幹部は、「作品が世間の期待以上に映画館でヒットしていない」というだけで単純に「興行的な失敗」とは捉えられたくないようだ。

例えば、ディズニーCEOのボブ・アイガーは最近、「同社が製作する映画のコスト削減には取り組んでいるが、それだけでなく『インディ5』を製作したことで、ディズニープラス(Disney+)利用者は過去の『インディ・ジョーンズ』シリーズへの関心が高まっている」とアナリスト(分析家)に語り、新作が映画館で観られることだけが実績ではないという考えを示した。

アナリストであるジェフ・ボック(エグジビター・リレーションズ)は「ストリーミングやその他の販売で予算の元を取るチャンスはあるが、それはずっと先の話。彼らは一時的なビジネスではなく、長いゲームをしているのです」「25年以内に利益を上げようとしているわけではないのです」と、大手スタジオの長期的な視野を分析した。

コロナ禍が残す、深い爪あと

Variety誌の記事によれば、『M:I 7』に関しては、世界興行収入が6億ドル(約872億円)に達すれば収支は合うという。これは、ホーム・エンターテインメントとライセンス収入も考慮した、映画の全期間にわたる興行収入であり、主演トム・クルーズの取り分も含まれている。(クルーズは、今でも映画公開前に契約ボーナスをもらえる、数少ない映画スターの一人である)

とはいえ、『ミッション:インポッシブル』『インディ・ジョーンズ』のような映画は、1億ドルの大金を生み出すために製作されている。

実際、『インディ・ジョーンズ』の前作である『クリスタル・スカルの王国(2008)』は、全世界で7億9000万ドル(約1,148億円)の興行収入を記録し、インフレ調整後でなくともフランチャイズ最高の興行収入を達成。『ミッション:インポッシブル』の前作、『フォールアウト(2018)』もシリーズ最高の7億9100万ドル(約1,150億円)を稼ぎ出したし、トム・クルーズ主演の大ヒット作『トップガン マーヴェリック(2022)』は10億ドル(約1,454億円)の大台を突破した。

現在、ブロックバスター(大作映画)が黒字になるには困難が待ち受けているのが現実。例えばユニバーサルの『ワイルドスピード/ファイヤーブースト』の製作予算は3億4,000万ドル(約494億円)。この夏、全世界で7億400万ドル(約1,023億円)の興行収入を稼いだにもかかわらず、Variety誌によれば、この映画はかろうじて黒字に辿り着き、小幅な利益を計上する程度の見込みだという。

コロナ禍以降、大作映画の製作予算は公開日の遅れと感染症対策のために膨れ上がった。さらに中国とロシアという2つの主要市場が不透明な状況で、世界的な興行収入が縮小している。例えば『フォールアウト』では、中国が1億8,100万ドル(約263億円)の興行収入に貢献したのに対し、『M:I 7』ではなんと4,820万ドル(約71億円)だった。

国際市場の縮小のおかげで、大小さまざまな映画がコロナ禍以前の興行収入に到達できずにいる。7億ドル(約1,018億円)を超えた作品は現状2023年に4本、2022年に8本、2021年に5本、2020年に0本。2019年の12本、2018年の9本と比べると、その差は歴然だ。

困難な時代でもヒット作は生まれている!

悲しいことに、コロナ禍による規制が緩和されても、映画製作費をめぐる問題はまだなくなる様子を見せない。ハリウッドで続くストライキによる作業停止は、2024年以降に予定されているいくつかの大作が公開時期を逃す可能性を暗示しており、一部のスタジオ幹部は、7月に製作中だった映画の製作費は1カ月で200万ドル(約3億円)も上昇したと見積もっている。

しかし、映画業界にも勝者はいる。1億ドルの予算でチケット売上が6億5,000万ドル(約945億円)を突破しているクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』がヒット中(日本公開は未定)であるほか、1億4,500万ドル(約211億円)で製作された『バービー』の世界興収は11億8,000万ドル(約1,715億円)で、まもなく『スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を抜いて2023年公開作品の興収トップに躍り出そうだ。ちなみに『バービー』で主演とプロデューサーを務めたマーゴット・ロビーは、給与とボーナスで少なくとも5,000万ドル(約73億円)は稼ぐという。

映画スタジオにはまだまだ苦労が続きそうだが、今後も「長い視点」を武器にエンタテインメント大作を作り続けてほしい。