さまざまなパン屋さんが登場するなか、今回ご紹介するのはりんご酵母を使ったパン作りをするお店です。お店のキャッチフレーズは「始まりは1個のりんごから」とのことですが、一体どういう意味なのでしょう?りんご酵母のパンの魅力を探るべく向かったのは田園調布。

田園調布『est Panis(エストパニス)』の外観

東急東横線田園調布駅から徒歩7分のところにあるのが『est Panis(エストパニス)』。レンガと深緑色の外観が目標です。

田園調布『est Panis(エストパニス)』店主の横森さん

お話を伺ったのは店主の横森あき子さん。りんご酵母のパン作りを始めたきっかけや、パン作りのこだわり、人気の商品について お聞きしました。

 

「始まりは1個のりんごから」。りんご酵母の魅力

田園調布『est Panis(エストパニス)』の看板入り口にはリンゴの木が描かれた看板も。横森さんの旦那さんが描いてくれたそう

横森さんが『エストパニス』を始めたのは10年前!2009年にイベントでの出店、2010年にこの地にお店をオープンしました。もともとはフランス料理の教室を開催されていた横森さん、あるときにりんご酵母のパンと出会い、その魅力にはまっていったのだとか。

「りんご酵母で酵母をおこしてパンを焼くというのが、私にとってすごく刺激的でおもしろかったんです。それまでもイーストでのパン作りは学校でも勉強していたのですが、まったく違っていて、自家製酵母のパンは“酵母が生きている”という感覚がダイレクトにあって、自分が手をかけて育てて作り上げるというのが、料理のおもしろさを超えるくらいだったんです」。

そして「このおいしさをもっといろんな人に知ってもらいたい」とお店を始められたのだそう。

田園調布『est Panis(エストパニス)』のカンパーニュ

いちごや洋梨、ブルーベリーなど、一通りの果物での酵母パン作りを試していくなかで、りんごに行き着いたきっかけはカンパーニュ。

「カンパーニュが私にとってパン作りのスタートだったので、カンパーニュが一番おいしく焼ける酵母を選びたいというのがありました。それがリンゴ酵母だったというわけですが、ハート系のパンだけでなく柔らかいパンを焼いてもおいしい。例えばブルーベリーやイチゴの酵母は食パンを焼くととても美味しいのですが、バゲットの時は意外と皮がパリッとしなかった。りんご酵母はオールマイティでもあったんです」と横森さん。

店内に飾られたりんごの絵

また、りんご酵母の香りの特徴は「優しく華やかな香り」。紙袋を開けるその瞬間、幸福な時間が訪れるのです。

また、横森さんは青森出身。親戚のりんご農家から毎年大きなケースで送ってくれるそうで、『エストパニス』のりんご酵母のはじまりもこのりんごが最初。

「私の作り方は、りんごを発酵させたエキスに毎日粉と水を掛け合わせていくというやり方です。毎日それを繰り返すことでで発酵複雑になり、旨みや香りも増して美味しくなっていくのです。だから、本当に最初の一個のリンゴから始まっているのです」。

「始まりは1個のりんごから」というのは、そういうことだったのですね。お店のキャッチフレーズには1個のリンゴをみんなで分け合って食べているイメージを込めているのだそうです。

 

6種類の小麦粉を使い分けて作るパン

田園調布『est Panis(エストパニス)』のパン現在、パンはすべて個包装。取材時は特別にそのまま並べていただきました

『エストパニス』に並ぶパンは、サンドイッチも合わせて20種類ほど。クリスマスにはシュトーレンやクグロフなど、季節ごとにさまざまな商品が登場します。

使用する小麦粉は全部で6種類。国産小麦5種とフランス産のライ麦1種を、それぞれパンに合わせて使い分けています。また、添加物もまったく使っていないので、小さなお子さんがいらっしゃるご家庭も安心。「うちの子、ここのパンじゃないと食べないんです!」なんてうれしい声も届いているそう。

「りんごの焼きカレーパン」

『エストパニス』の名物ともいえるのが「りんご酵母の焼きカレーパン」。第1回カレーパングランプリで最高金賞を受賞したほか、大田のお土産100選に選ばれるなど、そのおいしさは多くの人に知られています。

「りんごの焼きカレーパン」の断面

もちろんカレーも横森さんの自家製で、豚肉と玉ねぎ、にんじん、ビーツ、トマト、セロリと野菜がふんだんに使われたカレーパン。揚げてないので時間が経ってもおいしいのも魅力の1つ。

「ウィンナープレッツェル」プレッツェル生地の「ウィンナープレッツェル」もファンが多い一品

トーストした「パンドミ」パンに切れ目を入れてトーストし、常温にしておいたバターをのせます。横森さんおすすめの食べ方です

こちらは人気の「パンドミ」、実は全粒粉の食パンです。

「全粒粉の持っている味や香りが好きなんですけど、粗挽きだと食感が目立ってしまうなと思って、細粒よりさらに細かい微細粒という挽き方で挽いています。もともと料理からスタートしているので、パンドミやカンパーニュ、バゲットなどの食事系のパンは主役の料理が引き立つように、なるべく強いものを入れない、でも単体で食べても完結するという微妙なところを狙っているんです」と教えてくれました。

外はサクッと、中はふわっと。この食感のコントラストも、りんご酵母の特徴の1つだと言います。

 

まかないメニューから誕生!あんバター

「あんバター」のパン

個性あふれるパンばかりで目移りしてしまいますが、近頃人気なのが「あんバター」。生地は「ウィンナープレッツェル」と同じで、1度茹でてから焼き上げます。ドイツのプレッツェルでは苛性ソーダを入れたお湯で茹でるのが定番だそうですが、『エストパニス』では重曹を入れたお湯で茹でています。そうすることでちょっと駄菓子っぽい独特な風味が生まれるのだとか。

「もともと『ウィンナープレッツェル』を作る際に余った生地を丸めて焼いて、まかないとして食べていたんです。底の部分がカリカリっとしていて、そこにまた生地の駄菓子っぽい風味が加わって、これはきっとあんこと合うだろうなと思って(笑)」。

「あんバター」を作る様子

注文を受けてから、パンにバター、たっぷりのあんこをサンド。十勝産の豆とミネラルの多い沖縄県産のきび砂糖で仕上げた自家製あんこです。

「あんバター」3種類

あんバターは小倉、ほうじ茶、あんミルクの3種類。1~3月には期間限定で桜あんも登場します。

「あんミルク」

見てわかる通り、本当にあんこがたっぷり!きび砂糖のまろやかで優しい甘さがちょうどよく、パンにふりかけられた岩塩のピリッとくるしょっぱさもアクセントになっていて美味です。ほうじ茶はこしあんで、ほろ苦く香ばしい味わい。立て続けに2個ぺろっと食べてしまいました。

店内に飾られた「あんバター」の絵日本画家のお客様が描いた「あんバター」が店内に飾られていました

田園調布『est Panis(エストパニス)』の内観

現在は、トレーとトングをやめ、パンはすべて個包装にて販売しています。また、カウンターにあるレジ袋or紙袋は1枚まで無料。入店後はこの袋にお好みのパンを入れてレジへ。

田園調布『est Panis(エストパニス)』の入り口

今年、10年目を迎える『エストパニス』。「今でも気づくこと、気づかされることばかりですよ。毎日パンのことをじっくり観察しています。すごく微妙な違いなのかもしれませんけど、何年間に1回自分でもある瞬間に『あれ!すごくおいしくなってる!』と思うときがあって」と横森さんは話します。

尽きない探究心で酵母を育み、パン作りに向き合う横森さんのりんご酵母のパンは、常に進化しているのかもしれません。気になるパンを見つけたり迷ったりしたときは、ぜひ横森さんに尋ねてみてくださいね。

 

■お店情報

  • est Panis(エストパニス)
  • 住所:東京都大田区田園調布2-23-4
  • 営業時間: [月~木]9:00~16:00、[金・土]9:00~18:00 ※無くなり次第終了
  • 定休日:日曜日
  • ※お支払いは現金のほか電子マネー、タッチミー(サインレスのクレジット決済)も対応。

 

提供・PARIS mag(シンプルで上質なライフスタイルを提案するWEBマガジン)

【こちらの記事もおすすめ】
今気になるのは“固め”プリン。都内で楽しめるプリン6選
フランスの国民食!クスクスを使ったタブレのレシピ
おうち時間に作りたい!家庭で作るフレンチレシピ集
パリのブロカントショップ『Brocante Petite LULU』に聞く、アンティークの楽しみ
2020年最新!パリグルメ通がおすすめするパリのお土産4選