イラクの首都バグダッドは、中世アッバース朝時代そのままの街をはじめ、宮殿、遺跡、モスクが至るところに遺っています。今回は、バグダッド市内中心部の歴史ある見どころをご紹介します。

中世から時代の首都として栄えたバグダッドを散策

イラクの歴史は、古くは紀元前数千年におよぶ文明発祥地メソポタミアから始まり、中世アッバース朝では首都となるなど繁栄を極めます。近年は1980年代のイラン・イラク戦争、1991年の湾岸戦争、2003年の米国によるイラク侵攻、その後の長年におよぶ不安定な治安とISISの台頭など、数奇な運命を辿ってきました。ここに来てようやく治安の安定したイラクは、特定の国に対し2021年3月よりとうとうアライバルビザの発行を開始しました。

今回はバグダッド市内の歴史あるランドマークを中心に見どころをご紹介します。

バグダッドの見どころ

Al-Shaheeed Monument(殉教者慰霊碑)

こちらは、「アル・シャヒード」と呼ばれる大きな公園に1983年に建てられた殉教者の慰霊碑(Maytry)です。イラン・イラク戦争で戦死したイラク兵士に捧げる目的で建てられました。現在では、イラクのすべての殉教者を追悼しています。

イスラム教モスクのドームを模したターコイズブルーの慰霊碑は、40メートルの高さがあります。1986年発行のイラク紙幣25,000ディナール(最高額)のデザインにもなりました。

半分に分かれた2つのドームの中心部には、イラク国旗色のねじれた旗竿があります。こちらは、風にたなびいているように見せており、階下にある博物館から眺めると旗が宙に浮いているようにも見えます。階下にはカフェや博物館、図書館、講堂、展示会場もあります。

筆者の訪ねたときは、卒業アルバムの撮影のために多くの子供が制服姿で集まっていました。バグダッドで最も象徴的なモニュメントの1つです。

入場料は3,000イラクディナールです。(2023年7月現在、日本円でおよそ320円)

イラク国立博物館

イラクは世界最古の文明メソポタミアの中心地となる地域です。イラク博物館には、イラクに点在するメソポタミア文明の中心となった地域で発掘されたものや、アッバース朝、ペルシア帝国アケメネス朝時代の貴重な遺物が収蔵されています。

とても興味深い展示物が多いため、イラク国立博物館についていは別の記事で改めて詳細にご紹介したいと思います。

入場料は25,000イラクディナール(2023年7月現在、日本円でおよそ2,750円)。

バグダディ博物館

バグダディ博物館は、古来からのバグダッドにおける人々の生活や地元の習慣などを時代ごとに展示された民族博物館です。70の場面に渡って展示されています。博物館の建物は1869年に建てられたこの地域の古い建物の1つで建築様式もみどころの一つです。

入場料は1,000イラクディナール(2023年7月現在、日本円でおよそ110円)。

Sheikh Abdul Qadir Al-Jilani(カディル・アル・ジラニのコンプレックス)

シェイク・アブドゥル・カディル・アル・ジラニは、1078年に生まれた同名人物の霊廟ほか、寺院モスクや図書館、学校を併設した宗教コンプレックスです。

ジラニはスーフィズムと呼ばれるイスラム教の神秘主義哲学の創始者でありスーフィー教の指導者として、イスラム教の最も著名な人物の一人です。

このため、世界中からの訪問者が訪れるようです。なお、イラクでモスクに入る際、女性はチャドルやニカブ必須です。チャドルやニカブは、イスラム教の女性が外出の際に着る伝統服です。

なお、イラクのほとんどのモスクや寺院のそばにはチャドルをレンタルできるボックスやショップがありますので、借りて着用して入場します。また、イラクでは大きなモスクや寺院に入場する際にボディチェックと荷物検査があります。男女別になっています。

中央にあるジラニ広場とこの複合施設は、モスク、霊廟、そしてイスラム研究に関連する貴重な古文書を所蔵するカディリーヤ図書館で構成されています。

Al Wastany(アル・ワスタニ)

西暦762年〜768年のアッバース朝時代、バグダッドは円形の城壁で囲まれたお堀と複数のバブ(門)がありました。

そのなかで、アル・ワスタニは現在残っている唯一の門です。門と言っても非常に雄大で、当時の繁栄を思い起こさせる繊細なデザインは一見の価値ありです。

Tayeran Square(タイエラン広場)

タイエラン広場は大きなラウンドアバウトに位置します。

トラフィックの多い道路の脇には様々な出店がひしめき合っています。

Tahrir Square(タハリール広場)

タハリール広場はバグダッド最大かつ最も中心的な広場です。タハリールはアラビア語で解放を意味します。

1958年のイラク共和国設立を記念する大きな記念碑があります。ナスブ・アル・フリーヤとして知られる浅い浮き彫りのこの記念碑は、歴史的にイラクの重要な出来事を描き讃えています。

Mutanabbi Street(ムタナビ通り)

アル・ムタナビ通りは、アッバース朝時代に遡る歴史のあるイラク全土で最も有名な通りです。古くからこの通りは詩人、作家、芸術家、学生などの訪問者で賑わっており、書籍商人市場ともなりました。

アラブの有名な格言に「カイロは書き、ベイルートは出版、そしてバグダッドは読書」とあり、書籍販売では定評があります。バグダッドの読み書きと知識のコミュニティの中心とも呼ばれています。

実際に、この通りは本屋が多く立ち並びます。

シャバンダール・カフェ

ムタナビ通りにあるシャバンダール カフェは、バグダッドに現存する最古のカフェの1つです。

1917年に設立され100年以上の歴史を誇るカフェは、イラクの政治家や知識人が集まりました。壁に掛けられた写真は、バグダッドのシンボル、文学者、芸術的人物など、イラクの歴史と社会で活躍した人々です。

アル・サライ・スーク

アル・サライはバグダッドで最も古いスークの1つです。、アル・ムタナビ通りの延長として機能します。

以前は天然皮革の製造と貿易で有名でした。

現在はノート、書類、教科書の貿易で人気があり、子連れの親子の多い印象です。スークの入り口はムタナビ通りの端、スークの建設と同時に1660年に建てられたアル・サライ・モスクの正面にあります。

Mutanabbi Statue(ムタナビ通り)

アル・ムタナビ通りは、1932年にファイサル1世によって初めて開設され、アッバース朝時代の有名な10世紀の詩人、アブ・アル・タイイブ・アル・ムタナビにちなんで名付けられました。

1キロ弱の長さの通りは、詩人の名言が飾られたサルチで始まり、チグリス川を見下ろす彫刻家モハメッド・ガーニ・ヒクマットによって建てられたアル・ムタナビの像で終わります。

Khan Al Mudallal Antique Market(アンティーク・マーケット)

バグダッドの旧市街にあるアンティーク・マーケットです。

銅製品を中心に多く並び、通称「クーパー・マーケット」とも呼ばれるこの周辺は、所狭しとアンティーク雑貨の店が並んでいます。

レトロな雑貨も多く、なかにはヴィンテージ品もあるようです。掘り出し物があるかも?

Mustansiriyah Madrasah(ムスタンシリヤ・マドラサ)

ムスタンシリヤ マドラサは、アッバース朝の西暦1227年に設立された中世の学術複合施設です。以前、このマドラサでは医学、数学、文学、文法、哲学、イスラム教の宗教学など、さまざまな科目を教えており、特にイスラム法に長けていたことから、バグダッド全土で最も著名かつ地位の高いイスラム研究センターでした。

現在、マドラサはところどころ修復中です。細部にわたり、とても美しい装飾を有する建築物です。

ティグリス川

メソポタミア地域(イラク)に文明をもたらした大河ティグリスは、バグダッドを蛇行しながら流れています。

何かと忙しく騒がしいバグダッドの中心部を、静かに優雅に流れる様は古来からの悠久の時を感じさせてくれる美しい場所です。