この時期になると、どの妊婦さんにおいても、そろそろ出産のことを考えることになります。
出産予定日は妊娠40週0日の日と設定されていますが、陣痛がいつ始まるかには個人差があります。

妊娠37週0日~妊娠41週6日に生まれることを正期産といいます。必ずしもこの期間内に生まれる必要はありませんが、胎児の成長や成熟度からこの期間に出産に至るのが安全と考えられています。

■前駆陣痛と陣痛について

一般的に陣痛の定義は、約10分間隔で子宮の収縮が起きることです。本当の陣痛がくる前に、その準備として不規則な間隔で陣痛が起きることを「前駆陣痛」といいます。
陣痛と思われても収縮が落ち着いてしまえば前駆陣痛であったとなりますし、前駆陣痛と思われてもそれが本当の陣痛になっていく場合もありますので、子宮の収縮の痛みがどちらなのかを判断するのは、難しいこともあります。

陣痛と思って支度をして入院しても、それが収まってしまって次の日にはいったん退院となることもあります。しかし産科医や助産師は、できるだけ妊婦さんが自宅と病院を行ったり来たりすることのないように、痛みの状況を聴取したり、陣痛計で収縮を測定したり、内診で子宮口の開大具合を確認しながら判断をしています。

■計画分娩について

いつ出産とするかを事前に決めて分娩することを、計画分娩といいます。
これは、陣痛誘発剤を使って陣痛を起こして出産することを指しますが、帝王切開が決まっている場合にその日程を決めておくことも、計画分娩のひとつといえます。

通常、問題なく妊娠が経過している場合には、正期産に相当する期間は自然に陣痛がくるのを待ちます。しかし、妊娠40週0日の予定日を超えて陣痛がきていない場合には、遅くとも妊娠41週台には分娩となるような計画を意識します。

胎児や母体に合併症があり、産前や産後に十分なケアが必要なことが想定される場合には、医療体制が整っている日中に分娩となるようにすることも重要となります。また、自宅から病院まで距離があり、陣痛が始まったあとに病院に到着するのが間に合わないことが想定される場合にも、前もって入院し、計画分娩とすることがあります。

■帝王切開について

帝王切開術は十分に確立された術式で、99%以上問題なく遂行される手術ではありますが、それでも、状況がひっ迫して緊急でおこなわなければならない度合いが強くなればなるほど、母体や胎児に対するリスクは増加します。

帝王切開の既往、逆子、双子など、はじめから分娩方法が帝王切開と決まっている場合、陣痛が始まってしまわないように、多くの場合、正期産となる妊娠37週を超えた時期を帝王切開の予定日と設定します。経腟分娩を予定している場合においても、出産は母体にも胎児にもリスクが伴うものであることに留意して、緊急帝王切開に対応できる医療体制が産科には必要となります。

妊婦さんの中には、「はじめから帝王切開を希望したい」という方や、陣痛が始まったあとにその痛みから「帝王切開でお願いします!」と思わず叫ぶ方もいらっしゃいます。

帝王切開も一定のリスクはある手術であるため、妊婦さんが希望したからといって、「はい、わかりました」という産科医はほとんどいないと思います。ただ、母体や胎児に何か問題が生じたという訴訟の中には、「帝王切開を希望したのにやってもらえなかった」「帝王切開の判断が遅かったのではないか」という訴えがあることも、産婦人科医は承知しています。

また一方で、陣痛が始まってからなかなか出産に至らなかったために帝王切開を選択した妊婦さんの中には、「もう少し頑張った方がよかったのではないか」「痛みから逃げてしまったのではないか」という後悔の気持ちを持たれる方もいらっしゃいます。

経腟分娩にも帝王切開の分娩にも、想定されるリスクがあるとともに、想定の範囲の中でもまれな突発事象が生じることもあり、瞬時の判断や決断が要される場面もあります。医療的な目線で考えれば、母体と胎児がともに元気で出産に至ることが目標となりますが、妊婦さんやその家族が納得し満足できることも、とても大切な要素であると思います。

そのためにも、普段の妊婦健診の中で医師と妊婦さんが信頼関係を構築しておくことや、妊婦さんやその家族も妊娠・出産に関する情報を得て、できるだけリスクが生じないような生活や準備をしておくことが重要です。

 

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