Profile

1961年生まれ、福岡県出身。高校在学中に「博多っ子純情」(78)のオーディションを受け、主役に抜擢される。以後、冷徹なヤクザから良き父親役まで様々な役柄を演じ、映画やドラマ界では欠かせない存在として活躍。現在放送中のドラマ、「だが、情熱はある」 (日本テレビ)、「弁護士ソドム」(テレビ東京)、「コタローは1人暮らし」(テレビ朝日)に出演中。公開待機作に「波紋」(6月26日公開予定)がある。

30代で出会った人と仕事で、意識が変わった

演者自身の体験や想いを作中に取り入れるスタイルを貫く映画監督・二ノ宮隆太郎さん。当て書きされた俳優はどんな気持ちで役を演じているのだろうか...?本作『逃げきれた夢』で主人公を演じた光石研さんに、撮影当時を振り返ってもらった。

― 二ノ宮監督とは、故郷の黒崎を一緒に歩きながらお話されたそうですね。

「北九州に住んでいたころに遊んでいた公園だとかを案内しながら、他愛のな話をしました。脚本には、そのときに話たことがそのまま投影されていたので、とても気恥ずかしさを感じました。僕らの世代になってくると、仲間との会話は体調のことや親のことだったり、お墓をどうしようっていうことだったりで、そんなことまでもが全部盛り込まれた脚本だったので、身につまされる思いでした。しかも、セリフは全部地元の言葉ですし、生まれ育った街での撮影だったので、気恥ずかしさもひとしおでした」

― 光石さんご自身のお父様が、主人公の父親役でご出演されていますね。

「親に仕事をしている自分の姿を見せたことなんてないですから、撮影中は生きた心地がしなかったです。しかも、親父はどういう心持ちで現場にいたのかわからないですけど、結構辛辣なセリフなんですよ。僕と重ね合わせて聞いていたのかわからないですけど、撮影中は、若いスタッフが自分を取り囲んでいるのが嬉しいのか、楽しそうでしたし、良い刺激になったようです」

― お気に入りのシーンや、撮影中、印象に残っていることを教えてください。

「それぞれに思い出深いですが、松重(豊)さんがこの映画に出て花を添えてくださったのはすごくありがたかったです。松重さんとは、キャッチボールがすごくうまくできるような気がするんです。“今から投げるよ”とか“落としていくよ”とか、言葉にしなくてもわかりあえるところがあって。僕が勝手にそう思っているだけかもしれないけど、本作でも、すごくやりやすかったです」

― 人生のターニングポイントを迎えた中年男という役柄ゆえに、一つひとつのセリフにも重みがあったのでは?

「“人間期待したらいけんって、なんにでも”なんて、考えさせられることが多いセリフですよね。“いやー参ったどうしようかね、これから”っていうセリフを親父の前でポツンと吐き出したことも未だに忘れられません」

― 光石さんご自身の人生のターニングポイントといえばいつですか?

「30代に入ったころ、このまま役者を続けていくのか諦めるのかの二択に迫られた時期があって、いま考えるとそこがターニングポイントだったように思います。同じくらいの年齢で転機を経験する人は多いと思いますが、この時期に出逢う人や仕事は、その後の人生に大きく影響するような気がします。僕もその時にいただいた役に恵まれたことで、役者としての意識が大きく変わりました」

― 本作の主人公は、これまでの生き方を見つめ直して新たな一歩を踏み出そうとしますが、人は何歳からでも変われると思いますか?

「意識さえ高く持っていれば変われると思います。けど、年を取るほどに頑固になっていきますからね。特に同世代が集まると、リタイア後の話や貯蓄の話ばっかりになりがちだから、そうならないよう、頭をやわらかく保つことを心がけていきたいですね」