都会での暮らしと自然に囲まれた暮らし
両方があってこそ自分が自分らしくいられる
黒谷さんが千葉の房総半島に一軒家を購入したのは、20代前半のとき。友人が設立した乗馬倶楽部のお手伝いをしたのがきっかけだったそう。
「その乗馬倶楽部の“人と動物と植物が共存する暮らし”という理念に共感して、私も手伝うようになったのがきっかけでした。自分でも馬を迎えて本格的に乗馬を始めて、一軒家も購入。仕事がある日は東京で、それ以外は千葉で暮らすという生活がスタートしました」
コロナの影響を受けてガラリと変わった私たちの働き方。どこからでもリモートワークができるようになったことで、これまでなんとなく東京がいいとされてきた価値観が崩れ、反対に地方の魅力が浮き彫りに。都会と田舎の両方で暮らすライフスタイルはまさに憧れであり、それを誰より早く実践した黒谷さんはまさに二拠点生活のパイオニアだ。
「そうかもしれませんね(笑)。でも、私が千葉で暮らし始めた当時はまだ“二拠点生活”という言葉もほとんど聞かなかったのに、そんな生活がフォーカスされる時代になるなんて...。 「大変じゃないですか?」と聞かれることも多いのですが、大変さを感じたことはないんです。翌日の仕事がない日はその日の夜にでも千葉に帰りますし。大変だと感じていたら25年以上もこの生活は続いていないと思います(笑)」
そこまで黒谷さんをトリコにした千葉の魅力を伺うと。
「何といっても自然が豊かなところです。東京からわずか1時間ちょっとなのに、空気が全然違うんです。東京はビルに隠れて空がほとんど見えないけれど、千葉に戻ってくるとバーンッと空が広がって、ものすごい開放感を感じられます。海があって山があって、動物や植物を身近に感じながら、泥だらけになって遊べる。そんな自然と触れ合える暮らしがとっても心地いいんです」
さらに、食材が豊かなのも千葉の魅力だと続ける。
「海の幸も山の幸も豊富です。漁港の朝市に行けば新鮮な魚介類が手に入るし、毎年山に入ってタケノコ堀りをするのも恒例行事。もちろん今年もやりました。もう全身泥っどろ(笑)。でも、そうやって自分で汗だくになって掘ったタケノコを丁寧に灰汁抜きして、おにぎりにして青空の下で食べるのは、ほんっとうに美味しいの!もちろん東京のおしゃれなお店で綺麗な器に盛り付けられたタケノコも美味しいですし、そんな時間を持つことも自分へのご褒美として大切。その両方を味わえるのが何より贅沢ですし、自分には両方必要なんです」
先日はテレビ番組で田植えに挑戦。万粒の種を植えたそう。
「米づくりがどんなに大変かを体験させていただいたら、景色の一部としてしか見ていなかった“田んぼ”を見る目が変わりました。ご飯を食べるときも“これは一粒も残せないぞ!”って、思うようになりました。もちろん以前から「食べ物は大切に、ご飯は残さず」という意識はありましたが、知識だけなのと実体験が伴うのでは全然違うということを実感しました」
田舎暮らしに不便さを感じることはないのだろうか?
「元々子供の時から田んぼと畑が広がるような環境で育ったので、コンクリートジャングルの都会で暮らすよりもこっちの方が自分にフィットしてるんでしょうね。芽吹いた葉っぱや、土から出てきた虫たちを見て“あー、春が来たな”って、季節の移り変わりを感じたり。こういう感覚って東京ではなかなか得にくいじゃないですか。不便さよりも田舎でしか味わえないその空気感や感覚の方が私には断然魅力的でした」
完全移住にしなかった理由を伺うと「都会のいいところと田舎の素朴さの両方がないと人間的に偏ってしまう気がする」とのお答えが。
「私にとって東京は仕事を頑張る場所。自然に囲まれた千葉での生活があるからこそ緊張感を持って仕事に臨めますし、逆にその緊張感があるからこそ千葉に帰ったときに心底リラックスできる。私にとってはどっちもなきゃダメなので、どちらかだけという選択肢はなかったです」
オンとオフの切り分けはどうしてるのだろう?
「千葉から東京に向かっていると、江戸川を越えたあたりからどんどんビルだらけになっていくんですよね。その光景を見ると“仕事だ!”という気持ちになりますが、普段あまりオンとオフを意識したことはないです。仕事をオンとするなら、千葉に帰ればオフということになるんでしょうけど、千葉ではDIYにガーデニング、愛馬のお世話にリノベーション...。やることがありすぎて休日の方が忙しいくらい(笑)」
カメラの前で颯爽とポーズを決めていた黒谷さんと、泥だらけになって自然と戯れる黒谷さん。その魅力的なギャップは、まさに千葉でのデュアルライフがあってこそ。最後に、これから二拠点生活を考えている人たちにアドバイスをもらうと。
「自分の“好き”を大切にしてほしいですね。“ここに住んでみたい”、“ここで子育てをしてみたい”とか、何か惹きつけられるものがあったら、まず旅行がてら出かけてみるのも良いかもしれませんね。今はグランピングやキャンプ施設もたくさんあるので田舎暮らし体験もできますし。私が運命的に千葉に引き寄せられたように、その行動で人生が大きく変わるかもしれませんよ」
Photo / NAITO(OUTNUMBER inc.)
Styling / Fumiko Koshimizu
Hair&Make / Asami Harano
Text / Satoko Nemoto