ダミアン・ルイス(右)復帰の裏に隠されたShowtimeプレミア・ケーブル局に課せられた組織改革と軌道修正。Paramount+で大成功を納めたテイラーバースを模した「ビリオンズ」のフランチャイズ展開に賭けるパラマウント・グローバル社の方針だ。(c) Courtesy of Showtime

4月20日付の「Showtimeよ、お前もか? 47年の歴史に終止符を打たれたプレミア・ケーブル局 ダミアン・ルイス『ビリオンズ7』復帰の裏にある昨今のTV業界苦肉の策」で、「ビリオンズ7」に返り咲くダミアン・ルイスと「ビリオンズ」スピンオフ制作企画についてご報告しました。
・「ビリオンズ マイアミ」ー プライベートジェット機業界を舞台にスーパーリッチの奔放な生き様を描く。クリエイターチームが既に企画中。
・「ビリオンズ ロンドン」ー ロンドンの金融業界を描くシリーズ。
・「ミリオンズ」ー マンハッタンで一旗揚げるべく、生き馬の目を抜くアラサーを描く。
・「トゥリリオンズ」ー 世界でも有数の超スーパーリッチ同士の死闘を描く。

Showtimeと言えば、HBOに追いつけ、追い越せ!とユニークなオリジナル・ドラマ制作に力を注いできたプレミア・ケーブル局ですが、パラマウント・グローバル社に統合された為、同社の方針に従ってコンテンツをより有効に活用する方法の一つとして、スピンオフ制作に専念し、ブランドモノのフランチャイズ化を図ると発表。今年後半に予定されているParamount+動画配信社とプレミア・ケーブル局Showtimeを統合した「Paramount+ with Showtime」の立ち上げに当たって、パラマウント・グローバル社幹部クリス・マッカーシーが、Paramount+で高視聴率を獲得している「テイラーバース」(=テイラー・シェリダン原作テレビシリーズを集めたユニバース)に所属し、Paramount+契約者増加の呼び込み作品となった「イエローストーン」以下4作構成のフランチャイズに倣って、Showtimeでも同様の「ビリオンズ」フランチャイズを構築計画です。

47年の歴史に終止符を打って、古臭いイメージを取り払えと言われたも同様で、これまでShowtime局を支えて来た幹部、制作関係者、スタッフのみならず、視聴者としても、リブランディングという名の組織改革や軌道修正は悲劇としか言いようがありません。前回ご報告したダミアン・ルイスの復帰は、ズッコケ・エンディングの名誉挽回と言うよりも、「ビリオンズ7」で悪役アックス(ルイス)に返り咲いてもらって、視聴者を呼び戻し、マイアミやロンドンを舞台にしたスピンオフ制作につなげる、フランチャイズ化の初めの一歩です。他にも、「デクスター〜警察官は殺人鬼」スピンオフ2本が計画されている一方、視聴率がイマイチだった「レット・ザ・ライト・ワン・イン」「アメリカン・ジゴロ」TVドラマ版、ジム・キャリー主演の「Kidding」(原題)、「スーパーパンプト/Uberー破壊的ビジネスを創った男ー」をShowtimeサイトのライブラリーから抹消するという過激さです。プラットフォームに存在している限り、制作関係者/ライター/俳優にレシジュアル (番組撮影後、放送や映像使用料として生じる追加報酬のこと)を支払う義務が生じるからです。抹消された作品は宝の持ち腐れとなるので、版権を握っているスタジオ/プロデューサーは、ライブラリーを拡張したい動画配信社に売却して元をとる方がマシと言う事です。アンソロジーと銘打って始まった「スーパーパンプト」ファンとしては、第二弾マーク・ザッカーバーグ編を断念せざるを得ないばかりか、第一弾はどこに身売りしたのかと探す羽目になりました。ナ、ナ、何と宿敵HBO Maxに買われていました。

現在、米国の動画配信市場は飽和状態です。ネットフリックスが涙を呑んで始めた広告入りの低価格プラン導入や、複数の配信サービスをパッケージにしたプラン、携帯電話会社や大手スーパーと提携したり、あの手この手で契約者増加/少なくとも維持を図り、これまで配信会社立ち上げに注いで来た莫大な投資を何とか取り戻そうとしています。今回のパラマウント・グローバル社の統合作戦は、HBO Max とディスカバリー+を統合したワーナーブラザーズ・ディスカバリー(WBD)をそっくりそのまま真似たものです。

パンデミックによるロックダウン開始後間もない2020年5月27日にスタートしたHBO Maxは、ワーナーメディアとの合併後の経営難で人員削減を始め、公開・配信開始できる状態の映画やテレビ番組に待った!をかけた上、HBO Maxサイトから抹消して制作関係者から総スカンを食らったり、経費削減と称して制作費に大枚を叩いてきた「ウエスト・ワールド」を打ち切ってファンの顰蹙を買ったり、とにかくHBOのブランド力に頼って命名した割には、ブランド力を傷つけるような無謀な行動が目立ちました。

業界の悪評に加えて、HBO Maxのオリジナル作品の中からはヒットは1本も生まれず、視聴分数トップの座は、1位「フレンズ」(ワーナーメディア)、2位「ギークなボクらの恋愛法則」(ワーナーメディア)、3位「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」(HBO)、4位「ゲーム・オブ・スローンズ」(HBO)、5位「ラスト・オブ・アス」(HBO)、6位「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル」(HBO)と発表されています。すったもんだの挙句の果てに、HBO Maxは、5月23日にはHBOを落として、Max動画配信社として再スタートしました。

「FBI」バースのクロスオーバー「Imminent Danger Part 1」に集合した(左から)「FBI」のキャサリン・レネ・ケイン、ジョン・ボイド、ミッシー・ペリグリム、ジーコ・ザキと、「FBI〜指名手配特捜班」のディラン・マクダーモット、ロキシー・スタンバーグ。(c) Bennett Raglin/CBS

 

尤も、フランチャイズ化は斬新なアイデアではありません。テレビと言う媒体自体が、パイロット版を作って、それに毎回尾ひれ羽ひれをつけて展開してシリーズとなる連載で成り立っています。そして、一旦シリーズがヒットすると、番組編成上のリスク回避に、柳の下のドジョウ狙いをするのは当然です。ヒット作の脈絡から派生作品(スピンオフ)を作れば、視聴者も喜ぶ、スポンサーも喜ぶ、局のお偉方の仕事は安泰と良い事だらけ(?)という理論です。

「FBI」バースのクロスオーバー「Imminent Danger Part 2」に集合した(左から)「FBI:インターナショナル」のエヴァ・ジェーン・ウィリス、カーター・レッドウッド、ルーク・クラインタンク、「FBI」のシャンテル・ヴァンサンテン、ジェレミー・シスト、「インターナショナル」のハイダ・リード、ヴィネッサ・ヴィドット。(c) Stefano Montesi/CBS

 

私がテレビ業界に足を踏み入れた2000年あたりには、「グレイズ・アナトミー 恋の解剖学」のスピンオフ「プライベート・プラクティス 迷えるオトナたち」が誕生し、「グレアナ」のアディソン・モンゴメリー産婦人科医(ケイト・ウォルシュ)が、カリフォルニアで専門医を集めてクリニック開業するという、設定・所在地・キャスト・トーン・テーマも全く異なるスピンオフで大成功を収めました。医療ドラマでも少々切り口の違う「プラプラ」の方が私好みのドラマということもあって、スピンオフも捨てたものではないと見直しました。その後、「STATION 19」と言う名のスピンオフが登場していますが、「グレアナ」のキャストが消防士になって、同シアトルの19分署で活躍する「プラプラ」とは異なるスピンオフです。

フォーマットは同じで、全米各地(LA、NY、ラスベガス、ニューオーリンズ、ハワイ等)を舞台に、地方色豊かな犯罪捜査ストーリーを展開して、世界に名を馳せる「CSI」「NCSI」フランチャイズ。更に、米国ではCBS地上波局で放送された「クリミナル・マインド」も、2018年放送開始となったディック・ウルフの「FBI」フランチャイズと同じく、FBIの担当部門別(特別捜査班、指名手配特捜班、行動分析課、国際捜査班等々)にスピンオフが作られて、フランチャイズ化された犯罪捜査ドラマです。

「NCIS」バースのクロスオーバー「Too Many Cooks」に集合した(左から)「NCIS:ネイビー犯罪捜査班」のブライアン・ディーツェン、「NCIS:LA」のクリス・オドネル、「NCIS:ハワイ」のヴァネッサ・ラシェイ、「NCIS:ネイビー犯罪捜査班」のウィルマー・バルデラマ、ゲイリー・コール、カトリーナ・ロー、ショーン・マレー、「NCIS:ハワイ」のノア・ミルズ、「NCIS:LA」のLL・クール・J。(c) Sonja Flemming/CBS

 

しかし、CBS地上波局で放送される上記の三大フランチャイズは、NBCの「LAW & ORDER」から展開された元祖ディック・ウルフ方式をお手本にしたものです。1990年に始まった「LAW & ORDER」は、2010年に一旦引退しましたが、22年に新キャストで再開されました。今年は、木曜日の午後8時〜11時まで、母艦=本家本元「LAW & ORDER」シーズン22、今や業界の長寿番組最高記録を保持する「LAW & ORDER:性犯罪特捜部」シーズン24、2021年に始まった「LAW & ORDER:組織犯罪対策部」と続きます。「SVU 性犯罪特捜部」は木曜日のドラマ視聴率第一位の座を今以て維持し、全く衰えを見せません。但し、「SVU 」ファンとしては、キャストが最近頻繁に入れ替わりして落ち着きません。アマンダ・ロリンズ(ケリー・ギディッシュ)が退職した後、オリビア・ベンソン警部(マリシュカ・ハージティ)は部下に恵まれず、どの新米も帯に短し襷に長しです。オリビアが頼りにできるのは、ベテラン’フィン’(アイスーT)のみとなり、自然に嘗て「SVU 」で相棒だったエリオット・ステイブラー(クリストファー・メローニ)と急接近する状況を創り出しているように見受けます。

「LAW & ORDER」フランチャイズの番宣ポスター。(左から)母艦「LAW & ORDER」のジェフリー・ドノヴァン、「LAW & ORDER:組織犯罪対策部」のクリストファー・メローニ、「LAW & ORDER」のメカード・ブルックス、キャムリン・マンハイム、サム・ウォーターストン、「LAW & ORDER:性犯罪特捜部」のマリシュカ・ハージティ、アイスーT、ジャスミン・バッチェラー、ケリー・ギディッシュ

 

クリエイターは、デレク・ハースとマイケル・ブラントですが、NBC水曜日の午後8時から3時間の時間枠で高視聴率を確保するシカゴシリーズもディック・ウルフの傘下に入るフランチャイズです。私は、「シカゴ・ファイア」の大ファンで、開始以来一話も見逃すことなく観ていますが、ジェシー・スペンサーが200話で降板した後、テイラー・キニーも私的理由で今年3月1日、シーズン11の15話から、姿を消してしまい、火が消えたようです。それでも、「シカゴP.D.」「シカゴ・メッド」よりも視聴率を維持しているから不思議です。

シカゴ水曜日と名打ってシリーズ3本を勧める番宣ポスター。前列左から「シカゴ・メッド」のジェシー・シュラム、「シカゴ・ファイア」のミランダ・メイヨ、「シカゴP.D.」のラロイス・ホーキンズ、二列目左から「ファイア」のテイラー・キニー、「P.D.」のジェイソン・ベギー、「メッド」のニック・ゲールフース、「P.D.」のトレイシー・スピリダコス、後列左から「ファイア」のイーモン・ウォーカー、「メッド」のS・エパサ・マーカーソン

 

「シカゴ・ファイア」や「FBI」は目新しさや配役の良さ等、ハマってしまう魅力に溢れていますが、スピンオフは本家本元を上回ることはありません。シカゴシリーズは、ジャンルが異なると言う、他のフランチャイズには見られない特徴を有していますが、スピンオフを観るか観ないかの決め手は、配役の一言に尽きるのではないでしょうか?ドラマの質(ユニークなアイデア、斬新な語り口、面白いキャラ等々)にこだわって止まないテレビ評論家にとって、スピンオフ、リメイク、リブート、前日譚、後日譚等々は、局側のリスク回避というより単なる怠慢でしかないと思うので、決して喜ばしい現象ではありません。特に、「ビリオンズ」のように薹が立ってしまったドラマのフランチャイズ展開は、どう考えても成功するとは思えません。

2009年来、毎年脚本のあるシリーズは着実に増え続け、日本では黄金時代と称する「ピークTV」時代が続いてきました。2022年の制作本数は過去最高の599本で、遂に「ピークTVのピークとなる可能性がある」と、FXネットワークス会長のジョン・ランドグラフが、23年冬のTCAプレスツアーで発表しました。制作ペースの減速、配信/放送事業者の頭打ち、テレビ業界全体の予算削減や軌道修正を見ると、質より量を目指す余り’下手な鉄砲も数打てば当たる’大型量販店化し、金に糸目をつけぬ買物をして、競争相手(レガシー局やプレミア・ケーブル局)を薙ぎ倒してきたネットフリックスのビジネスモデルが、もはや通用しない時代になったと言うことです。契約者数が頭打になった今は、会社として利益を出しているかどうかに焦点が移行したからです。

元々、ネットフリックスのような’ぽっと出のテック会社’は、映画制作会社やテレビ局のような歴史も過去のヒット作IPもないので、フランチャイズ展開は夢の夢なのです。2021年に、ミラーワールド社の親会社となり、マーク・ミラーのアメコミ独占企画権を手にしたネットフリックスは、「ジュピターズ・レガシー」を発表し、ミラーバース構築の第一歩を踏み出すと鼻息が荒かったのですが. . .ほんの1ヶ月後には、打ち切りとなり、フランチャイズの夢はもろくも崩れ去りました。

一方、オンラインショッピングのついでに映画やドラマを観てもらえれば良いと始めたAmazonプライム・ビデオ(以下、プライムビデオ)は、パイロット版をユーザーに観てもらい、投票でシリーズ化を決めたプライムビデオ初のオリジナルドラマ「BOSCH/ボッシュ」(2015~21年)が最長寿シリーズとなりました。スピンオフ「ボッシュ:受け継がれるもの」は、Amazon Freevee(Amazon所有の広告モデルによるSVOD)の目玉ドラマとなり、先日シーズン3までの更新が発表されて、人気のほどを物語っています。ネットフリックス同様、フランチャイズを増やすことに力を注いでいますが、現在「ボッシュ」と「ザ・ボーイズ」(スピンオフは「GEN V」「ザ・ボーイズ:ダイアボリカル」)のみで、ヒット作「ジャック・ライアン」のスピンオフは企画中、「リーチャー」に至っては、シーズン2制作以外、何の発展もありません。そんな中、4月30日に世界同時配信となった「シタデル」のシーズン1(+シーズン2更新)と同時に、イタリアとインド版スピンオフが近日配信予定されており、一大フランチャイズ展開を目指しています。しかし、ヒットを確約する実績のないIPに莫大な費用を注ぎこむのは、危険が一杯なのに. . .プライムビデオの自信の源は何なのか?と業界は当惑しています。

映画でもテレビでも、そろそろ観客がフランチャイズ疲れを感じ始めていると言うのに、経費削減を目指してケーブル局もSVODを構築したからには、フランチャイズに力を入れざるを得ないのが現状です。AMCは、世界的ヒット「ウォーキング・デッド」(2010〜22年)を母艦に、「フィアー・ザ・ウォーキング・デッド」(2015年〜現在)、「ウォーキング・デッド ワールド・ビヨンド」(2020〜21年)、「Tales of the Walking Dead」(2022年6話のみ)と展開しました。2023年以降、「The Walking Dead: Dead City」、「Walking Dead: Daryl Dixon」、24年には「The Walking Dead: Rick & Michonne」も企画されています。AMCは、アン・ライス原作の「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」シリーズを母艦として、「メイフェアの魔女」でアン・ライス・ユニバースの構築を急いでいます。FXは「JUSTIFIED 俺の正義」(2009〜15年)のスピンオフ「Justified: City Primeval」を6月に放送予定しており、Starzプレミア・ケーブル局は「アウトランダー」(2014年〜現在)の前日譚「Blood of My Blood」でジェイミー・フレーザーの両親を描いたシリーズ制作を発表しました。

メイフェアの魔女

CBS All Access→Paramount+→Paramount+ with Showtime(今年後半)と変遷を続けている動画配信社は、先ずはCBS All Access時代に「スター・トレック」フランチャイズと「グッド・ワイフ」(CBS)のスピンオフ「グッドファイト」、Paramount+開始時に「サバヨミ大作戦7」でケーブル局からのファン獲得を図りました。最近は、パラマウント社やCBSのIPをリメイク/リブート/前日譚/後日譚を制作して、レガシー・メディアとしての底力を発揮しようと必死です。パラマウント映画のIPからシリーズ化されCBSでも放送された「トゥルー・ライズ」(今年3月1日放送開始。既に打ち切り決定)、Paramount+で4月6日から「グリース」前編シリーズ、4月30日から「危険な情事」続編シリーズが配信されています。一方、Paramount+の契約者増加の引き金となったネオウェスタン・ドラマシリーズ「イエローストーン」に気を良くして、「テイラーバース」(=テイラー・シェリダン原作テレビシリーズを集めたユニバース)なるものが生まれ、「イエローストーン」の前日譚「1883」、「1923」が続き、更にシェリダン原作のドラマ「Mayor of Kingstown 」「Tulsa King」などが次々と制作されました。パラマウント・グローバル社が、Showtimeに同様のフランチャイズ化を求めるのは当然です。

イエローストーン

唯一の例外になりそうなのが、母艦「グッド・ワイフ」(CBS)のスピンオフ「グッドファイト」(Paramount+)がキャンセルされた後、今秋の新ドラマ「エルズベス」がCBSに帰り咲くことです。「グッド・ワイフ」で脇役として活躍したちょっと変な弁護士エルズベス・タシオネ(大ピンチお助け弁護士)がシカゴを後にして、NYPDのコンサルタントになって事件を解決して行くコロンボ女版とも言える、今秋期待のスピンオフ。勿論、私が崇拝するキング夫妻の手になるものですから、面白いこと間違いなし!と太鼓判を押すことができます。

エルズベス

質より量の「ピークTV」から、質も量も落として、フランチャイズ化とは. . .今でさえ、大人の鑑賞に堪えるドラマは希少価値と嘆いているというのに、年に2〜3本あれば万々歳となる日が近い?そんな予感がします。あ〜、情けない!