幸吉の運命も心配ですが、ふたりを陰から見ている、綾に思いを寄せる竹雄が不憫すぎる。「峰屋の綾様」と使用人の竹雄では身分が違いすぎて、どうにもできないことはもちろんわかっているんだろうけれど、「好き」の気持ちは消せないですよね。「好き」が消せないのは、綾も同じ。祖母のタキ(松坂慶子)が選んだ相手に嫁ぐべきなのはわかっているけれど、酒造りへの情熱が消せずに破談にしてしまう。そして、峰屋の当主としてしっかりしなくてはいけないのに、草花への「好き」をつらぬく万太郎。東京の博覧会に峰屋の酒を出品するという話に乗り気ではないタキを次々と言葉を並べ立てて丸め込み、まんまと東京行きをゲットする姿、まさに「好き」を燃料にしたらなんでもできちゃうオタクそのものでした。そしてその出品に「あたしが考えて幸吉に造らせた新しい酒」を載せようと企んだ綾も、なかなかのオタク。この姉と弟、似ていないようで本質はそっくりですよね。弟は草花と会話をして、姉は酒蔵の菌たちの気配を感じている。
綾の酒はタキに叱られて終わったけれど、万太郎は作戦成功、竹雄と連れ立って、博覧会のために東京へ。一番の目的だった博物館の研究室を訪ね、心の友と慕う野田先生(田辺誠一)と里中先生(いとうせいこう)に会って、思う存分植物の話をして「好き」を爆発させて幸せそう。しかし、東京でもやっぱり竹雄が不憫。思い立ったらどこにでも走って行ってしまう万太郎を追いかけ、万太郎が食べた菓子代を支払い、先生と「友じゃー!」と抱き合う姿を窓の外から見つめる。誰よりも長い時間、万太郎と一緒にいるのに、立場としては当主と使用人。万太郎の「好き」もわかるけれど、それを「言うてください! 酒造り以外遊びじゃと!」と言わなければいけない竹雄の苦悩。毎日気苦労が絶えないけれど、ダークサイドに落ちないでね竹雄。恋に敗れ当主に裏切られた末に、別の酒蔵をつくって峰屋に復讐を誓う、とかやめてね。
「好き」で暴走しがちな万太郎も、下戸ではあるけれど、峰屋の酒を褒める声を聞けば大喜びできるくらいに、当主としての自覚もプライドもある。竹雄に叱られる前から、自分の「好き」を抑えて、草花については「遊び」にとどめないといけないことも、わかっている。そしてもうひとつ見つけてしまった「好き」の対象、自分を「カエル様」と笑顔で呼ぶ菓子屋の寿恵子(浜辺美波)のことも、忘れないといけないこともわかっている。本当の「好き」も「東京」も、佐川の蔵元の当主の万太郎にはあまりに遠い。自分が好きでしている仕事が、小学生の万太郎に届いていたことを知った野田先生、彼が「こんなにうれしいことはない」と流した喜びの涙。あんなふうに仕事の喜びで泣ける日、仕事と「好き」が結びつく日が、万太郎や綾、竹雄にもいつかくるのだろうか。きてほしいんだけどなあ。