imaseが初の有観客ライブ『POP OVER』を3月30日、東京・渋谷WWWで開催した。メジャーデビュー曲「Have a nice day」、グローバルヒットの予兆を見せている「NIGHT DANCER」から最新曲「ピリオド」まで。際立ったポップセンスを備えた楽曲と魅力的なステージングをダイレクトに示した記念碑的なライブをレポート!

音楽活動スタートから約1年でメジャーデビュー。“imase with PUNPEE&TobyFox”名義の「Pale Rain」(「ポカリスエット」CM主題歌)、海外のリスナーにも支持されている「NIGHT DANCER」などのヒット曲を放ち、昨年11月に1st EP『POP CUBE』をリリースするなど、瞬く間に新世代音楽シーンを象徴する存在となったimase。昨年12月に行われた初のオンラインライブ『POP ROOM』に続く初めての有観客ライブ『POP OVER』でimaseは、パフォーマーとしての優れた才能を見せつけた。

ライブのオープニングは、バンドメンバーによるセッション。生楽器による心地よいグルーヴが広がるなか、ステージに掛けられた幕にimaseのシルエットが映ると、観客で埋め尽くされたフロアから拍手と歓声が巻き起こる。「楽しんでいきましょう!」という声とともに幕が降り、さらなる歓声が巻き起こって放たれた1曲目は「アナログライフ」。メロディ、トラック、歌詞のバランスが気持ちいい。さらにR&Bテイストの音像、アッパー系のビート、起伏に飛んだボーカルラインが響き合う「あべこべ」、ギターのカッティングとベースのスラップを軸にした強靭なサウンドが印象的だった「ピリオド」へ。冒頭からimaseの多彩な音楽性を体感できるシーンが続き、会場のテンションも一気に上がっていった。

imaseにとってこの日は、生まれて初めての有観客ライブ。「『POP OVER』へようこそ! imaseです。本人です!(笑)」というMCも初々しい。ライブが始まった直後はやや緊張も感じられたが、「今日が“初めてのライブ”という人はいます?」(かなりの数の手が上がっていた)と観客と会話を重ねるなかで徐々にリラックスしてきた様子。本来の人懐っこいキャラクターが伝わり、ナチュラルな一体感を生み出していた。

ここからは様々なテイストの楽曲が披露された。まずは「メリークリスマス!」という季節外れの挨拶からはじまった「Holy Light」。ロマンティックで切ないメロディラインによって観客を魅了する。ときどきバンドメンバーと目を合わせながら、笑顔で気持ちよさそうに歌う姿も心に残った。ステージにベンチが置かれた状態でパフォーマンスされたのは、「でもね、たまには」。チル系のトラックと“ラップ以外はすべてファルセット”を組み合わせたユニークな楽曲だ。他の楽曲でもファルセットが多用されているのが、その理由は彼自身が“地声で張った声は映えない”と思ったからだという。今やimaseの大きな魅力となっているファルセットは、生ライブでしっかりと機能していた。

そして「ろくでなし」はキーボードの弾き語りで披露。〈僕と生きよう/くだらない日々を〉という歌詞が印象的な楽曲に生々しいエモーションを込め、観客のひとりひとりに手渡すように歌うimase。この日のために相当な練習を重ねてきたことは想像に難くないが、その姿勢からは“オーディエンスに喜んでもらいたい”という強い意志が伝わってきた。途中、少し詰まる場面では、観客から「がんばれ!」と声援が。演奏後、「“がんばれ”がうれしかったです」と照れたように笑う姿も印象的だった。初めてのステージでここまで自分を正直に見せられるアーティストは本当に稀。それはもちろん、彼の大きな武器であり、魅力だと思う。

ライブ中盤で演奏された“ショート曲メドレー”も、この日のライブの大きなポイントだった。これまでにSNSなどで発表してきた楽曲(15曲)をつなげたメドレーは、imaseの活動の軌跡を追体験できると同時に、楽曲のテイストの幅広さを改めて証明していたと思う。初ライブの開催が告知されたときに彼は、「タイトルの『POP OVER』は、ネット出身の僕が、画面からひょっこり飛び出してやってくるというようなイメージで考えました」とコメントしていたが、その言葉をもっともわかりやすく体現していたのが“ショート曲メドレー”だったと言っていいだろう。「Cherry Blossom」では桜の映像を使用し、サマーチューン「ナツイアツ」ではサングラスをかけて歌うなど、楽曲に合わせた演出も楽しい!

大切な“君”への思いと“この街を抜け出し、新しい場所に行きたい”という願いが交差する「逃避行」からライブは後半へ。大人になること、社会に出ること、夢を追いかけることをリアルに映し出したアッパーチューン「僕らだ」、緻密なリズムアレンジ、シンセベースの低音を活かしたサウンドも強烈だった「Pale Rain」を放ち、フロアの高揚感はさらにアップ。凄腕のバンドメンバー(BOBO/Ds、林あぐり/Ba、モリシー/Gt(Awesome City Club)、松本ジュン/Key)による演奏も最高だ。

スタッフやバンドメンバーに対する感謝を述べた後、imaseは観客に語り掛けた。これまではSNSのコメントなどでリスナーの存在を意識していたが、初めて観客を目の当たりにしたことで、「本当に聴いてくれてる人がいたんだ」と実感したこと。もっと大きな場所でライブをやり、いろんな人に聴いてもらいたいと思っていることーー。この先の活動への決意を込めた言葉の後は、メジャーデビュー曲「Have a nice day」。コロナ渦における生々しい思いをチルなポップソングへと昇華させたこの曲は、まさにimaseのキャリアの起点だ。本編ラストは、極上のダンストラック「NIGHT DANCER」。〈どうでもいいような 夜だけど〉とアカペラで歌い始めた瞬間、大きな歓声が沸き起こる。しなやかなバンドグルーヴと官能的なボーカル、そして、全身で“楽しい!”を表している観客がひとつになり、ライブの興奮は頂点に達した。

オーディエンスの“imaseコール”が響くなか、スクリーンに映し出されたのは“上京引っ越しムービー”(実家の部屋にあった機材を車に詰め、東京に移住するまでを撮影した映像)。再びステージに登場したimaseは「上京しました!」と報告をした。10月に行われる初の東名阪ツアー「imase 1st Live Tour 2023」を告知。さらに新曲「Nagisa」を初披露し、記念すべきライブは幕を閉じた。

初めての有観客ライブで、自らの“これまで”と“これから”を示したimase。ここから彼は、さらなるブレイクに向かって突き進むことになるはずだ。 ・

Text:森朋之 Photo:Viola Kam(V'z Twinkle)

<公演情報>
imase 1st Live『POP OVER』

3月30日(木) 東京・渋谷WWW