前列左からコーリー・ストール(マイク役)、ポール・ジアマッティ(チャック役)。後列左からデビッド・コスタビル(ワグ役)、ダニエル・ブレーカー(スクーター役)、エイジア・ケイト・ディロン(テイラー役)、マギー・シフ(ウェンディ役)、コンドラ・ラシャード(ケイト役)、ジェフリー・デマン(チャールズ役)。「ビリオンズ6」のポスター。

※「ビリオンズ」シーズン5、6についてのネタバレが含まれます。

2016年放送開始以来、必見ドラマの1本として注目してきた「ビリオンズ」。リーマンショック以来、持つ者と持たざる者の格差が益々広がり、世界を動かすのは「1%の1%」と言われた7年前に登場したプレミア・ケーブル局Showtimeのドラマです。チャック・ローズ検事/NY州検事総長(ポール・ジアマッティ)が代表する歴代の資産家(オールド・マネー)対、ヘッジファンドでぼろ儲けするボビー・’アックス’[=首切り斧と言う意味のボビーの渾名]・アクセルロッド(ダミアン・ルイス)が代表する成金(ニュー・マネー)の一騎打ちを描きます。

「権力(法律)で阿漕なペテン師を叩きのめせるか?」対「金の力で何が手に入るか?どこまで奔放な生き方ができるか?」が画面上で繰り広げられたシーズン1で、どちらに肩入れするかを決めた視聴者は多いと思います。私は、勧善懲悪派人間なので、当然のことながら、チャックがいつかは私の夢を叶えてくれるものと期待していました。尤も、正義の味方チャックでさえ、裏では汚い手を駆使して出世街道まっしぐらを画策していることが露見、私生活の嗜好がバレてスキャンダルにもなり失脚寸前の憂き目にあいました。結局、’オールド・マネー’であれ、’ニュー・マネー’であれ、権力を渇望する傲慢、卑劣、尊大な輩は、同じ穴のムジナと言う事なのです。

二人の一騎打ちに、古くはアックスの妻ララ(マリン・アッカーマン)、チャックの妻/アックスのパフォーマンス・コーチであるウェンディ(マギー・シフ)、チャックの部下ケイト・サッカー検事補(コンドラ・ラシャード)、最近ではチャックの彼女でアイヴィーリーグ大学社会学教授/ベストセラー著者キャサリン・ブライアント(ジュリアナ・マルグリーズ)などの女性がどう絡んで来るかも描かれて、華を添えました。

中でも、ウェンディを巡って、チャックとアックスが真っ向から睨み合い、感情的になってお互いへの復讐心がメラメラと燃え上がったり、そんなトリオが協力して、新たに現れた敵を倒そうと共謀したり、要はトリオでさえ、臨機応変に敵・味方になり、我が身/地位/財を死守する姿が描かれました。三人とも、自分の事しか考えていないと言う事です。(笑)

チャック・ローズ検事/NY州検事総長(ポール・ジアマッティ)とヘッジファンドでぼろ儲けするボビー・アクセルロッド(ダミアン・ルイス)の関係は、シーズン毎に変化を遂げてきたが、「ビリオンズ5」で決着がつく筈(?)だった。ルイスは、パンデミックと私的事情により降板し、法律対資本主義の対立の結末は映像化されずに終わってしまった。(c) Courtesy of Showtime

 

パンデミックのロックダウン開始後の2020年5月3日から始まった「ビリオンズ5」は、チャックとアックスの一騎打ちが三極化した第1〜7話を放送して、尻切れトンボで終わってしまいました。(詳しいことは、2022年12月18日の「益々猛威を振るうパンデミックに翻弄される米テレビ業界 ドラマ編」をご覧ください。)「ビリオンズ5」後半(第8〜12話)は、2021年9月5日〜10月3日に放送されて、三極化にやっと決着がつく!とワクワク、ドキドキして観ましたが、「えー!!!それはないよ」「5年余りも焦らされた挙句の果てがこれ!?」と叫んだほど、すっかり興醒めしました。マイク・プリンス(コーリー・ストール)への復讐に目が眩み、監査をすっ飛ばして大麻ビジネスに手を出したアックスが、犯罪組織のマネーロンダリングの罪で起訴される所までは良かったのですが. . .ムショ行きを避けるためスイスに逃亡して法の網をくぐり抜けて、又もや地獄の沙汰も金次第を身を以て証明してくれました。いずれ正義が勝つと信じていた私の甘さ故か、「LOST」の死にオチや「Mad Men マッドメン」「スキャンダル」の因果応報なんて何のその!的期待外れエンディングに懲りない私が悪いのか、いずれにしても時間を無駄にしてしまったことには違いありません。

「ビリオンズ6」は、2022年1月23日〜4月10日に全12話で綴られました。アックスの後釜に座ったのはマイク・プリンスで、結託していた筈のチャックを裏切って、アックスの会社(アックス・キャピタルとテイラー・カーボン)を買い取り、チャックの新しいターゲットとなりました。アックスのような闇で暗躍するアクの強い億万長者ではなく、頭脳戦を好み、自分の行為が社会へ如何なる影響を与えているかを考慮する「新型の億万長者」です。一応、Wokeなふりをしておかないと、風当たりがキツく、キャンセルされる可能性が高いからでしょう。最終話では権威の最高峰と言える米大統領に出馬すると発表したくらいですから、マイクは隠れ亡者に違いありません。

2023年2月6日、プレミア・ケーブル局Showtimeから「ビリオンズ」スピンオフ制作発表のプレスリリースが送られてきました。「制作にあたるのは、ブライアン・コッペルマンとデビッド・ラビーンの二人で、現在「ビリオンズ7」をニューヨークで撮影中。「ビリオンズ7」放送開始は23年後半。」と言う内容です。
・「ビリオンズ マイアミ」ー プライベートジェット機業界を舞台にスーパーリッチの奔放な生き様を描く。クリエイターチームが既に企画中。
・「ビリオンズ ロンドン」ー ロンドンの金融業界を描くシリーズ。
・「ミリオンズ」ー マンハッタンで一旗揚げるべく、生き馬の目を抜くアラサーを描く。
・「トゥリリオンズ」ー 世界でも有数の超スーパーリッチ同士の死闘を描く。

更に、2月28日付けのプレスリリースは、「ビリオンズ5」で降板したダミアン・ルイスが、「ビリオンズ7」全12話のうち6話にゲスト出演すると発表しました。えー、あんなズッコケ・エンディングを今更挽回できると思っているのでしょうか?毎シーズン、ドラマの視聴率は下がっていますし、シーズン5で完結する筈だったドラマを、一旦降板したルイスを呼び戻してまで、「ビリオンズ7」に引き伸ばす意味があるのでしょうか?実は、今年1月末に、パラマウント・グローバル社が発表したParamount+配信会社とプレミア・ケーブル局Showtimeを統合した「Paramount+ with Showtime」の立ち上げに秘密が隠されていたのです。

次回に続くー