2023年3月27日(月)、11回目のGrasshopperのステージには個性溢れる3組のアーティストが集まった。ミステリアスな空気感で観客を気持ちよく惑わすKhaki、爆音でフロアの熱量を上げたApes、2ピースバンドの無限の表現力を見せたTHEティバ。3組が演奏した個性的な音楽性に溢れたグッドミュージックは、多くの音楽好きの心を動かした。
Khaki
SEが流れると、彼らはフロアの傍から現れ、そこからステージに登った。ステージ下手からキーボード、ギターボーカル、ベース、ギターボーカルというスタンダードを外した順番で並び、見ている側としては少々困惑する。怪しげなコードで始まる1曲目は『Overtone』。耳鳴りのようなギターの音や、ドラムの金物の音が張り詰めた空気を生み出し、彼らの音楽に包まれていく。続く『子宮』では、曲中を通して、形を小さく変えながら繰り返されるギターリフが鳴る。脳にへばりつくフレーズに洗脳されていくようだった。
『違う目を見ていた』はやや明るい曲調で、ライブの雰囲気をガラッと変える。前2曲では、中塩博斗(Gt/Vo中央)が歌っていたが、この曲では平川直人(Gt/Vo上手)が中心となって歌う。脱力して歌う中塩に比べて、平川は叫ぶような歌い方をし、歌によっても、彼らの音楽に表現の多様性が生まれている。そのまま『車輪』へ。波打つギターの音、息遣いを感じる電子音、繰り返すメロディーで曲の構成が全く見えてこないところから、この曲のミステリアスさが生み出されている。
ほとんどMCをしない中塩だが、ここで「頑張ります、よろしくお願いします」と謙虚に伝えた。そして軽やかなドラムとバッキングギターから始まったのは、爽やかな『The Girl』。拍子の不思議さが残り、彼らの持つミステリアスさは残しつつも、軽快に走り抜けていくサウンドだ。次の『Kajiura』でも軽快さは続く。リズム変化や転調の繰り返しで、何が起こるかわからない、その独特な魅力に歓声が上がった。
最後の曲は『うってつけ』。ミステリアスさは詩的な歌詞の曖昧さにも滲み出ていた。心弾むリズムに観客が思い思いにのっていると、曲の終わりは突然訪れた。去り際までKhakiらしさが溢れ、惹き込まれるライブだった。
Apes
一発目からロックの激しさが炸裂する『Hesitate』で、フロアは勢いづく。力強いドラムとリズムを支えるベース、気持ちよく広がるギターの音、声を枯らすように振り絞って歌う唄。目を引くライブパフォーマンスで世界観に没入する。1曲目が終わると、カッティングが混ざった素早いストロークが特徴の弾き語りから『ハイライト』が始まる。一言一言よく聞こえてくる歌に呼応するように観客が拳を突き上げた。そのまますぐ続いたイントロのギターフレーズで、「待ってました!」と言いたげな観客が興奮して拳を高くあげる。サビでの力強い歌が耳に残った。
そんな王道でシンプルなかっこよさが光る一曲を見せたところで、次の曲では深いリバーブの音が鳴り出した。シューゲイザーサウンドが爆裂する『Goodbye sea』だ。その爆音がフロアの奥の奥まで包み込み、最後尾にいる観客まで全員が頷きながらじっくりと音に浸った。「もう少しいけます!?」と坂井玲音(Vo/Gt)が叫び、ラストにかけて全力で鳴らした音は今までで一番大きく、まるで台風のようにフロアに渦巻いていた。
大きな歓声が上がったその後、続く『Boying』と『Stay alive』は、エモ・オルタナティブの要素が混ざった曲だ。バスドラムとベースが呼応し、曲の重量感を挙げる傍らで、技巧に富んだギターリフは軽やかに奏でられる。興奮した観客はサビで高く手を挙げていた。
ロックからシューゲイザー、オルタナティブまで幅広いジャンルの楽曲で構成された熱のこもったライブ。Apesの持つ引き出しの多様さに魅了された。
THEティバ
リラックスミュージックのようなSEをバックに、窓から差し込む日差しのような明かりに照らされたステージに、2人が現れる。THEティバは2ピース。ステージの下手、明智マヤ(Gt(Ba)/Vo)は一本のギターをギターアンプとベースアンプに繋ぎ、上手にはサチ(Dr)が並んだ。1曲目の『Ideals』は疾走感のある曲だ。彼女たちのファンは実に様々で、多様な国籍、年齢層のファンが集まった。続く『I want nothing to do anymore』。重く歪んだギターとベース、大きく振り下ろして叩くドラムで、2ピースでもしっかり音圧のあるサウンドが完成されている。その中でマヤの鋭い歌声が際立って聞こえた。
『Hang above』が始まった。巧みにベース音を変えながら、芯のある音でのギターソロを組み合わせる技術力の高さが光った。そこに表現力豊かな歌声が添えられ、観客を魅了する。「Thank you.」と小さくつぶやくと、そのまま響き渡るドラムが鳴りだす。『Fade』という楽曲は優しく囁くようなギターの音と、それに呼応するような繊細な歌声で描かれていく。ザラザラと歪む音で一歩一歩ゆっくりと進んでいく音楽はラストに向けて盛り上がっていき、飛び跳ねながら演奏を楽しんでいた。
その後の『Summer Ends』では朗読をするように歌った。クリーンな音でのアルペジオが美しく響く。この曲は「夏が終わったら楽になるよ、ということを歌った曲」だという。前を真っ直ぐ見ながら歌い、伝えた。「頑張って生きていこう。」そう言って始まったのは『Through the dark』。アルペジオと消え入りそうな歌声で静かに歌う様子をじっと眺める。途中から大きくなる音にも惹きつけられ、目を離せない。
最後の曲は『Go back our home』。軽快なリズムに観客も小さく揺れた。この曲はギターの強さと歌声の気だるさの対比が特徴的だ。演奏の最後にはピースサインを掲げ、2人はサッとステージを降りていった。会場にいた誰もが、2人の世界観の中にいたことだろう。