日本を代表する彫刻家・舟越保武の長女に生まれ、数々の美しい絵本を生み出してきた編集者の末盛千枝子(1941-)。その波乱に満ちた人生と仕事を総覧すると同時に、彼女を育んだ芸術家一家の作品を一堂に展観する展覧会が、4月15日(土)から6月25日(日)まで、千葉県の市原湖畔美術館で開催される。

編集者として最初に手がけた絵本『あさ One morning』がボローニャ国際児童図書展でグランプリを受賞したのを皮切りに、話題作を世に出し続けた末盛だが、その一方で人生は悲しみと困難の連続だったという。NHKの名ディレクターだった夫・末盛憲彦の突然死、長男の難病、立ち上げた出版社「すえもりブックス」の閉鎖、移住した岩手での震災など。だが、運命から逃げることなく歩みを続ける末盛の強くしなやかな生き方は、多くの人々に希望と勇気を与えてきた。同展は、末盛の次男でクリエイティヴ・ディレクターの末盛春彦がゲスト・キュレーターを務め、そんな末盛の波乱の人生と仕事を様々な角度から紹介していく。

見どころはたくさんあるが、特に注目されるのは、30 年以上にわたって上皇后陛下美智子さまを支えてきた末盛の仕事が詳しく紹介されること。同展では、美智子さまのご講演の貴重映像の上映や、講演録『橋をかける』の誕生秘話の紹介、安野光雅の原画の展示もある。また、近年ますます人気が高まる絵本作家ゴフスタインの『ピアノ調律師』などの原画がニューヨーク公共図書館から初来日するのも話題となろう。2011年の被災後、被災地の子どもたちに絵本を届けるために立ち上げた「3.11 絵本プロジェクトいわて」の10年に及ぶ活動の紹介も心を打つ。

同展のもうひとつの見どころは、彫刻家の父・保武、詩歌人だった母・道子、彫刻家の弟・桂と直木、妹・苗子と茉莉、末盛の絵本の絵を手がけた末妹・カンナという、舟越家の人々の多彩な作品が一堂に並ぶことだ。

「絵本は子どもだけのものではない」との思いのもと、人生の悲しみや希望、美しさを伝える 多くの絵本を世に送り出してきた末盛千枝子の人生と仕事の全容を、絵本の原画や、絵本と書籍、貴重な資料、そして家族の作品群で重層的にたどる見応え満載の展覧会だ。

<開催情報>
『末盛千枝子と舟越家の人々 —絵本が生まれるとき—』

会期:2023年4月15日(土)~6月25日(日)
会場:市原湖畔美術館
時間:10:00~17:00、土曜・祝前日は9:30~19:00、日祝は9:30~18:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合翌平日休)
料金:一般1,000円、大高・65歳以上800円