2月からスタートしたユアネス ONE-MAN TOUR 2023が、4月1日東京・渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールで最終日を迎えた。“ Ars magna”、ラテン語で大いなる術と題したツアー後半の名古屋、大阪、東京公演では、映像や照明といった演出をふんだんに用いて、ユアネスの世界を鮮やかに彩って、その音楽により深く没入させていくステージとなった。全国を駆け抜けて、また一回りタフに、そして包容力のあるバンドサウンドと歌心を会場中に響かせたツアーファイナル公演をレポートする。
今回のツアーのSEとなっているピアノを基調とした「3DQK3XIF(あしたのあさには)」が静かに流れ、ブルーのライトが徐々に会場内を染めていくなか登場した黒川侑司(Vo/Gt)、古閑翔平(Gt/Prog)、田中雄大(Ba)、小野貴寛(Ds)。観客の拍手を浴び、「ツアーファイナル、東京へようこそ。よろしく」という黒川の挨拶から1曲目は「Blur」。疾走感のあるビートをさらに加速させるファットなベース、細やかな音響がまばゆいサウンドを黒川のボーカルが加速させる。歌の心模様を投影したかのような寒色と暖色とが目まぐるしくステージを彩るライティングと情報量の多いサウンドで、観客を引きつけると、続く「BE ALL LIE」と「アミュレット」では大きなスクリーンにMVが流れ会場の一体感が上がっていく。
アニメーションや人物が登場するMVは、作詞・作曲をするメンバーの古閑がディレクションを手がけるなど、音楽とともにこだわって作り上げているもの。普段、MVを通じてユアネスの音楽に触れている人も多いだろう。生ゆえのスリリングで迫力のあるアンサンブルと映像世界とをいっぺんに味わえるこの空間は、刺激的だ。曲が進むごとにフロアからはコブシが上がり、手拍子も大きくなっていく。
「ツアーファイナルです。もう、声を出してもいいんだよね?」という黒川の問いかけに、大きな声で応える観客の姿を見て笑顔になる4人。そして改めて2月から回ってきたツアーがこの日最終日を迎えることに触れ、「最後ということは、終わりということです。これまでツアーのなかでみんなにもらってきたいろんな想いや力を、放出させる番です。好きに楽しんで帰ってください」と「ヘリオトロープ」から中盤へと突入していく。
序盤のぶっ飛ばし具合とは一転したミディアムなナンバーで、静かに、叙情的な旋律を奏でていくギターとエモーショナルな歌とのハーモニーが濃密な1曲だ。そこから、すっと息を吸い込んだ黒川にピンスポットがあたって、静かに歌いはじめる「日照雨」は幻想的。変則的なビートと、細かなピアノやエレクトロな音響、ギターのフレーズが奏でるポリリズムは、不規則な水泡のように、儚く美しい。憂いの中に甘美さが混じった黒川のファルセットは、ライブではより甘みを増してソウルフルに響く。
のちのMCパートの時に観客から「今日もいい声だよ」という声が上がったのも納得だ。タイトルそのままの鼓動を感じさせてくれるような「躍動」、そして曲の前半をピアノの旋律と歌だけでもっていくボーカリスト黒川の豊かな表現力を味わう「Layer」、疾走感のあるギターロック「少年少女をやめてから」と、中盤は幅広い作品からの曲がセレクトされている。
今回のツアーは全会場でセットリストが違った内容で、たくさんの曲を聴いてほしいという思いでセットリストが組まれたようだ。アルバムなど作品を引っさげたツアーではないからこその内容でもあり、そして1stミニアルバム『Ctrl+Z』以来サウンドの裾野を広げながらコンスタントに作品をリリースしキャリアを積んでいる今だからこそできるツアーでもある。今回のツアーでは20歳以下は半額となるチケットも販売され、初めてユアネスのライブに足を運んだという人も多く見られた。そんな初めての人にも、ユアネスを全方位で楽しんでもらおうという気持ちがセットリストや演奏はもちろん、映像や演出にもこもっている。そんないい力の入り具合を感じる。
後半は再び映像とともにドラマティックに会場の温度をあげていく。「凩」では、MVの冒頭に「変化に気づかない」(EP『Shift』収録)での男女のダイアローグが加えられて、よりショートフィルムのような物語性を帯びたものとなった。ユアネスにとって初のMVとなった「色の見えない少女」も、やはり生のバンドサウンドと歌が乗ることで、曲の持つ感情が大きくバーストする。観客がこのストーリーに入り込んで心動かされているのが、空気や気配から感じられるほど、とても静かだが熱い一体感が会場に生まれている感じだ。
「100㎡の中で」、「ありえないよ。」とダンサブルな曲が続くと、自然と手をあげたり、手拍子をしたりと空気が柔らかにほぐれていくのも心地いい。
黒川は「最近は、フロアとステージとの距離を繋いでくれるような曲ができているのが嬉しい」と「ありえないよ。」でのハッピーな空間を噛みしめた。そして「ツアーは終わってしまうのがさみしいけれど、改めて、音楽をやっていなかったらこれだけの人と出会うことはなかったと思う」とこのツアーでの思いを語った。全8カ所というツアーだったが、この数年はコロナ禍でさまざまな制限が設けられたなかでのライブも経験してきたからこそ、観客の姿と声を目の前に、ともに作り上げていくライブができる喜びは大きいのだろう。
「Bathroom」から、「私の最後の日」、そしてラストの「籠の中に鳥」へと進んでいったのだが、4人がこの時間を慈しむように丁寧に織り上げていることが伝わってきた。「籠の中の鳥」では、日常のふとしたシーン、街中の何気ない光景が切り取られた写真が映し出されていく。抽象的な景色だからこそ、この歌が持っている心の機微や、うまい言葉や形にならないけれど、破裂しそうなほどの思いが観客それぞれの思いと共鳴していくのだろう。曲の終わりとともに、静かに歌の世界に浸っていた観客から大きく、長い拍手が起こった。切なさと喜び、さまざまな気持ちがまぜこぜとなった拍手だ。
アンコールでは6月28日に渋谷Spotify O-EASTで自主企画『screenshot#1』を開催することが発表された。また3月15日に配信リリースした新曲「伝えたかったこと」を披露。曲を作った古閑によれば、言葉のすれ違いや、うまく伝わらないもどかしさを曲にしたかったという。MVとともに歌詞も読んでみてほしいという。ユアネスらしい曲だが、ポップで、軽やかな空気感や余白も感じられるフォーキーな香りのするサウンドは、また新しい風がユアネスに吹いていることも感じられる。
このアンコールでは3曲を披露。黒川は本当に名残惜しそうに「ああ、終わってしまう!」と言いながら、「最後はみんなで元気になれる曲で終わろうと思います」と「pop」で締めくくった。バンドの充実感が伝わるとともに、これから先へと大きく跳躍するツアーとなった。
Text:吉羽さおり Photo:佐藤広理、林 直幸
<公演情報>
ユアネス ONE-MAN LIVE TOUR 2023『Ars magna』
4月1日(土) 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール