ダサいジャック・ピアソンから、華麗なる変身を遂げたマイロ・ヴィンテミリア。詐欺師役は、名士から調教師、ヤクザ、カメラマンのアシスタントなど、七変化できるので俳優として、やり甲斐があるに違いない。内容は「レバレッジ〜詐欺師たちの流儀」「コードネーム:ウィスキー&キャバリエ ふたりは最強スパイ」や「ザ・キャッチ」風である。(c) ABC/Alberto Rodriguez

ハリウッドに越して来て早々に参加したソニー・ピクチャーズ主催のイベントでお目にかかり、以来ずっと活躍ぶりを見守って来たマイロ・ヴィンテミリア。当時、「ギルモア・ガールズ」のローリーの二番目の彼氏ジェスの好演が、注目を集めている真っ最中でした。寡黙で悪ぶっていて、取っつきにくいのに、何故か気になって仕方がない、放っておけない不良少年の役でしたが、ヴィンテミリアは礼儀正しく、人気にも関わらず、腰の低い好青年でした。

その後、「HEROES/ヒーローズ」のピーター・ぺトレリや、「見えない訪問者〜ザ・ウィスパーズ」のショーン・ベニガンを経て、2016年に彗星の如く登場し、世界中を魅了した感動のドラマ「THIS IS US/ディス・イズ・アス」のピアソン家家長ジャックを演じました。しかし、ヴィンテミリアがどんな役を演じようと、母性本能をくすぐる、影のあるジェスを記憶から消し去ることは絶対に出来ません。女性なら一度は必ず、危険信号を山と発しているのに、放って置けない異端児に惹かれた経験があるからだと思います。

タキシード姿で颯爽と詐欺師チャーリー・ニコレッティを演じるマイロ・ヴィンテミリア。(c) ABC/Eric McCandless

 

「THIS IS US」のジャック・ピアソンは、家長として、父親として、また夫としての理想像として描かれていて、「THIS IS US」の熱狂的なファンには言えませんが、私はダサい父親を一刻も早く脱皮して、いつかジェスに戻って欲しいと密かに願っていました。そして、「THIS IS US」が完了してわずか2週間後には、ジャックとは正反対と言っても過言ではない、まるで不良少年ジェスが詐欺師チャーリーに成長したような、見事な180度転換を遂げています。

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去る2月19日にデビューしたヴィンテミリア主演・制作総指揮の新作は、2019年の韓流ラブコメ「ダーリンは危機一髪」を米国向けに焼き直した「The Company You Keep」です。愛と信頼の絆を模索する詐欺師とCIA潜入捜査官に未来はあるのかを描くドラメディーです。

恋人に裏切られた傷心を抱えて、バーで独り寂しくグラスを傾けていたエマ・ヒル(キャサリン・ハエナ・キム)は、両親の隠居資金を恋人ティナに持ち逃げされて落ち込んでいたチャーリー・ニコレッティ(マイロ・ヴィンテミリア)と巡り会います。同一の心境だったため、上っ面だけの会話と無難な冗談を交わし合っているうちにすっかり意気投合して、行きずりの一夜限りの関係になります。

「嘘つきは泥棒の始まり」を体現するチャーリーと、「言わぬが花」を代表するエマ。嘘から信頼関係を築き上げても、波打ち際に築いた砂の城と同じではないのか?

 

恋愛の正規手続をすっ飛ばして、その場の雰囲気に流されて、一目惚れした美男美女は、実は出会ってすぐに、「僕は犯罪者」「私はCIA」と如何に生計を立てているかを口にしていますが、悪い冗談!と笑い飛ばしてしまいました。通常、初対面で自分の本性をペラペラと明かしてしまうのが人間ですが、真の正体を解明する糸口を掴むのは至難の技です。相手に気に入ってもらおうと、取り繕うことに必死だからです。相手のことを冷静に観察できる聞き上手になる必要があります。人の行動を読むのが仕事のエマもチャーリーも、いざ自分の事となると、折角の訓練が何の役にも立たないから不思議です。

しかし、お互い「恋なんか面倒!」と豪語してしまった以上、二人の恋は前途多難です。お互いの腹の探り合い、深入りするのが怖い、ありのままの自分をさらけ出したら嫌われる等々、真剣な付き合いをするのは初めての二人は、急接近したり突き放したりを何度も繰り返す、複雑な関係になります。

第3話で、早々とニコレッティ一家に紹介された左からエマ(キャサリン・ハエナ・キム)、チャーリーの父レオ(ウィリアム・フィクナー)、姉バーディ(サラ・ウェイン・キャリーズ)、母フラン(ポリー・ドレイパー)。(c) ABC/Raymond Liu

 

ボルチモアと言うブルーカラーの町を本拠地に、悪事を働いて財を成した特権階級から大金を巻き上げるニコレッティ一家とは対照的に、エマは首都ワシントンDCで「アジア系アメリカ人版ケネディ一家」と呼ばれる政治家一家の長女です。スタンフォード大出のエリートではありますが、ヒル一家の中で唯一政治家にならなかった爪弾き。エマは家族にもCIA潜入捜査官であることを秘密にしています。こうして、背景も階級も全く異なるニコレッティ一家とヒル一家のお付き合い(?)が始まります。

前列中央、チャーリーとエマ。後列左から、レオ、バーディ、フラン・ニコレッティ。後列中央はダフネ・フィンチ(フェリーシャ・テレル)。後列右の3人は、エマの兄デビッド・ヒル(ティム・チォウ)、母グレイス・ヒル(フリーダ・フォー・シェン)、父ジョゼフ・ヒル(ジェームズ・サイトウ)。(c) ABC/Brian Bowen Smith

 

チャーリーとエマが仕事中に鉢合わせしそうになるスリル満点、ハラハラ連続のシーンもありますが、この状態を何話引き延ばすのか、1シーズン持つのだろうか?と懸念していました。しかし、意外や意外、第五話を観終わった時点では、エマがCIAであることがチャーリーにバレ、チャーリーを不審に思うジョゼフ・ヒルとCIA上司、レオが不治の病を患っていること等々、スピーディーに化けの皮が剝がれて行ってびっくり!

最も気になるのは、米国東海岸に薬物のシンジケートを展開・拡大しようと乗り込んできたアイルランドの暴力団マッガイヤー組の存在です。ニコレッティ一家と取引したばっかりに、父パトリック・マッガイヤー(ティモシー・V・マーフィー)は投獄され、アイルランドに身を潜める長男コナー(バリー・スローン)の代わりに、異母兄妹のダフネ・フィンチ(フェリーシャ・テレル)が米国でのビジネスを仕切るようになります。ニコレッティ一家への恨み辛みを晴らそうと、ダフネは恐喝して盗られた資金を取り戻そうとする傍ら、地元の各種暴力団やギャングを取り込んでシンジケート拡大を図ります。ダフネを尾行・監視しつつ、マッガイヤー組撲滅を目指すのは、エマに率いられるCIAチームとFBIチームです。

ニコレッティ一家は、冷酷非情のダフネの仕事をするのに嫌気がさしているので、いよいよ第6話以降で「敵(マッガイヤー組)の敵(CIA)は味方」が実行に移されそうです。自分で選んだ職業に全力を傾けるエマと違って、家族の手で詐欺師に育てられたチャーリーは、心のどこかで普通の生活がしたいと望んでいます。特に、エマと付き合いだして、チャーリーのロマンチストでナイーブな側面が浮かび上がってきました。最終的には、映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の天才詐欺師フランク・W・アバグネイルのように、CIAかFBIの詐欺防止/捜査チームの協力者として堅気な仕事について、めでたし、めでたしとなるのではないでしょうか?それ以外に、詐欺師を堅気にする方法を思いつかないのですが. . .