東京・渋谷のライブハウスTOKIO TOKYOのオープン2周年を記念しライブハウス連動型フェス『ONE WEEK WONDER’23』が開催された。
3月1日から6日は渋谷TOKIO TOKYOで、そして今回レポートする3月8日のファイナル公演は会場をKT Zepp Yokohamaに移し、鋭児、BREIMEN、PEOPLE 1、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの4アーティストがTOKIO TOKYOの2周年を祝した。平日にも関わらずフロアは多くの人で溢れ、会場には終始、音楽と観客とがうみだす熱気が渦巻く一夜となった。
まず登場したのは、2019年に御厨響一(Vo)、及川千春(Gt)、菅原寛人(Ba)、藤田聖史(Key)、市原太郎(Ds)により結成された鋭児。「よろしくお願いします、鋭児です」(御厨)という挨拶にドラムがスタートし、各楽器が音を重ねていく。互いの呼吸と駆け引きとで練り上げていく緩急のあるアンサンブルが、会場の空気までもスリリングに揺らし、そこに御厨が即興的に言葉を置いていく。
怒涛のインプロヴィゼーションに会場があっけなく飲み込まれる。そこからは鋭児のペースだ。「R.I.P」のダンサブルで、トランス感のあるビートで観客を揺らしたかと思えば、歪んだベースと重厚なギターリフや鍵盤、ずっしりと重量感のあるドラムが濃厚に絡み合って爆発する「Fire」へと突入する。
御厨だけでなく、それぞれの音も灼熱の咆哮を聴かせるプレイに、観客も興奮と歓喜の叫びをあげた。「楽しんでますか」と問う御厨の言葉を歓声が追い越していく、会場に満ちる熱量の高さが気持ちいい。 ロック、ソウル、ジャズ、ヒップホップからエレクトロなど、ジャンルを軽々と横断してできあがる、自由にして最高に乗れるサウンドが鋭児の武器だ。ステージは30分ほどと短い時間だったが、その中で最大限にインパクトを残す術も数々のライブハウスやストリートでの経験で心得ている。
今年リリースした「PANORAMA WORLD」のようなメロウな曲も、また爆音で土煙を巻き上げるようなアンサンブルで駆け上がっていく「$uper $onic」でも、つねに観客をその音に乗せてともに加速するタフさがある。音に陶酔している間に御厨が上半身裸となっていて、いつの間に!と驚かせたが、痺れるような音を残しステージを去る5人には盛大な拍手が送られ、方々から「ヤバい」の声が上がった。この最高の出会いで『ONE WEEK WONDER’23』のファイナル公演が幕を開けた。
続いて登場したのは、TOKIO TOKYOのオーナーである橋本TOKIO氏ともゆかりが深いBREIMEN。高木祥太(Ba/Vo)は、「TOKIOは、BREIMENのセカンドマネージャーをしてて、今年も出演させてもらいました」とMCで語る。2周年を祝うにふさわしいバンドだ。このイベントでは各バンドの登場前にジングルが流れるのだが、そのモチーフをメンバーが何気なく弾きはじめて楽しげなセッションがスタートする感じもまた自由でいい。
そこからグルーヴィーに高揚感たっぷりに「IWBYL」に突入して、らせん状に上昇していく甘いメロディに、エフェクティヴなベースとジョージ林のサックスが気持ちよく絡み、フロアに手拍子を起こしていく。さらに多幸感が溢れフロアにカラフルなメロディ&コーラスを氾濫させていく「MUSICA」へと続くと、観客も大きく手を叩き、またコブシをあげる。
ソウルフルで、スペクタクルなロックオペラから「脱げぱんつ」では大気圏を突破してスペイシーな旅に出るように、浮遊感のあるエレクトロな音響を響かせ、かと思えばカオスなインプロを巻き起こす。 予定調和に陥らない。常に誰かが仕掛けてくるような緊張感と、そこに全力で乗ってユーモアも交えるように返していくバンド感の塩梅が絶妙だ。
若いバンドながら、各メンバーともに様々なバンドやプロジェクトでも名をはせる手練れ揃いのBREIMEN。それでいてMCで喋りはじめるとわちゃわちゃとしながら脱線してしまう、そんなユルさがフレンドリーだったりする。
バンドの醸す空気感がステージからフロアに漏れ出して、会場もまた心地よいムードだ。そこに響かせたのが、エフェクティヴな多重ボーカルと隙間を生かした詩的なアンサンブルが魅力の「noise」。いけだゆうだによるジェントルなピアノと繊細なサトウカツシロのギター、ジョージ林によるフルートやサックスが歌に寄り添い、ゆったりと時を編み上げていく曲に会場も静かに聞き入る。
その余韻から、ドラマティックにボリュームをあげていったのは「チャプター」。ヒリヒリとした低温の空気から、So Kannoのドラムが躍動してシーンを動かしていく。うねりのあるアンサンブルと、明滅するライティングとが呼ぶ恍惚感が会場を駆け抜けていく間にメンバーは去り、興奮と残響が残った。マジカルなステージに、歓声が沸く。