2019年、山形駅前に竣工されたやまぎん県民ホール(山形総合文化芸術館)。竣工翌年の2020年4月には、こけら落とし公演として地元・山形出身の峯田和伸率いるロックバンド・銀杏BOYZのライブが予定されていた。銀杏BOYZの歴史を振り返ってみると、地元・山形での公演は2005年のツアー以来でもあり、特に熱望されたステージになるはずだった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、同時期に政府によって緊急事態宣言が発出された。大半のイベントが延期または中止となり、銀杏BOYZの記念すべき山形でのライブも開催延期を余儀なくされた。振替公演が同年12月に予定されていたものの依然として続いたコロナ禍の影響で、この公演も開催中止に。
銀杏BOYZの山形でのライブは幻になりつつあったが、3年越しの願いがついに叶い今年3月4日、やまぎん県民ホールでのライブが決行された。
3年越しの実現となった地元・山形での公演だが、めでたいのはそれだけではない。新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが、5月より5類に移行することもあり本公演では「無歓声」といった規制がなくなり、来場者はステージを前に自由に声を出すことができ、歌を歌うことができるようになった。これもまた3年ぶりの実現である。
今回のライブは、こんなふたつが背景にあることから、ライブ前にやまぎん県民ホールに集まった多くのファンは皆一様に、今日の銀杏BOYZのライブに思い思いの熱を持っているように見えた。
アコースティックと、従来のスタイルの二部構成のステージ
真新しいやまぎん県民ホールに入り、開演時間になると客電が落とされ、ライブ用に撮り下ろされたスペシャルムービーがステージのスクリーンに流れた。峯田と女性による言葉のやり取りに、叙情的で切ない風景が何シーンも動画で繰り広げられるもの。この時点で会場は歓声と拍手に包まれたが、そのスペシャルムービーが唐突に終わると、スクリーンが上がり、暗闇のステージの中、峯田が中央まで意気揚々と歩いてきた。
一斉にファンが歓声をあげ湧き上がる中、峯田はおもむろにアコースティックギターを持ち「人間」を歌い、待ちに待ったライブが始まった。ファンは固唾を飲みながらその歌声を聞き入った。
コロナ禍でも、できる限り多くのライブを行なってきた銀杏BOYZだが、いずれも「無歓声ライブ」であり、コロナ禍以前のものとはまるで違うものだった。そんな中で峯田が考案したのがアコースティックアレンジの銀杏BOYZ。昨年3月のツアーより取り入れられたスタイルだが、今回は昨年秋の中野サンプラザでの公演同様、前半のアコースティックアレンジでの演奏を「第一部」、後半の従来通りのバンドスタイルでの演奏を「第二部」とする構成のようだ。
ただし、「アコースティック」といっても、峯田のみの弾き語りは1曲目の「人間」のみで、2曲目の「NO FUTURE NO CRY」の中盤より、いつものバンドメンバーが楽曲に参加。以降、銀杏BOYZの数々の名曲を、バンドメンバー全員によってアコースティックアレンジで次々に演奏した。
「こんな感じだったってことを思い出した」
3曲目の「YOU & I VS.THE WORLD」直後のMCで峯田は「こんな感じだったってことを思い出した」と唐突に語った。来場者からの歓声、怒号、楽曲に合わせた合唱のことだ。
コロナ禍の3年間、銀杏BOYZは複数のライブを実施したが、いずれも無歓声だったことから、峯田は複雑な思いを抱いていたという。峯田は常々、「銀杏BOYZのライブは、お客さんの歓声や怒号も含めてのもの」と語っており、それが3年経ってようやく復活し「こんな感じ」を思い出したというわけである。また、地元・山形で演奏することに対しても「他の地域で演奏するよりも、やっぱりグッとくるんですよ」と語り、相当な思いを持ってこの日を迎えたことも語った。
そんな峯田は、続けて「夢で逢えたら」「I DON’T WANNA DIE FOREVER」「トラッシュ」「円光」「SEXTEEN」と、比較的テンポの速い楽曲を演奏。さらに「漂流教室」「新訳 銀河鉄道の夜」「東京」「夜王子と月の姫」といったメロウで切ない楽曲を演奏し、アコースティックアレンジの第1部を終えた。