2019年、自主レーベルから音楽シーンに登場し、パンクなガールズバンドとして衝撃を呼んだ東京初期衝動。音楽性の幅も多彩に広げ、昨年11月発売のミニアルバム『らぶ・あげいん』でも、極上のポップチューンやメロディアスな青春ソングが収録されていた。年末年始をまたぐツアー『東京初期衝動御一行様全国忘年会新年会会場はこちら』のファイナルを東京キネマ倶楽部で開催。声出しOKとなり、爆音とエモーションに拍車がかかるステージとなった。
もともとはショータイムのあるグランドキャバレーだった東京キネマ倶楽部。手拍子の中でメンバーがステージに入ってきて、ボーカル&ギターのしーなちゃんだけが階段の上から降りてくる。
ギターを携えずスタンドマイク前に立ち、ゆったりと歌い出したのは「Becauseあいらぶゆー」。すがるような“あいらぶベイビー”の連呼から、おもむろにマイクを片手で取って“殺しておけばよかった”と叫ぶと同時に、演奏もテンポアップしてパンキッシュに炸裂。しーなちゃんは初っ端から、オーディエンスが前のめるフロアへダイブした。
ステージに戻ってギターを肩に掛けると「ベイビー・ドント・クライ」、コンプライアンスお構いなしの「BAKAちんぽ」とドライブをかけていく。ゴリゴリのサウンドを奏でながら、ギターの希はクールな表情で、ベースのあさかはにこやか。ドラムのなおは一心不乱にタイトなビートを叩き出す。しーちゃんは笑顔で“大嫌い、大嫌い、大嫌い”と叫んだりで、ボーカルのトーンも明るい。
さらに、「流星」から乙女チックな「マァルイツキ」とキュートなナンバーが続く。スウェットパンツの4人。激しくもリズミカルな演奏がいい感じだ。
「これから盛り上がる曲が続くので、皆さん、前のほうギューギューでお願いします。一番盛り上がった人は、あとで楽屋にお呼びしますので」
しーなちゃんがそう告げて、ブチ上げたのは「山田!恐ろしい男」。このガレージロックを作ったあさかがお立ち台に上がって煽りながらベースを鳴らし、しーなちゃんはトラメガで叫ぶ。許せない男との決別宣言。オーディエンスが一斉に頭上でクラップしていた。
間髪入れず、ドカドカドカとなおのドラムに力がこもり、東京初期衝動ならではのパンクナンバー「梅毒」へ。明け透けなシャウトと“おーちんちん”の大合唱。ライブバージョン恒例で、アイドルライブ風のガチ恋口上が入るところで演奏を中断した。
しーなちゃんが目立つ服の女性客に名前を聞き、飛び跳ねながら「やっぱりマナカはかわいいよ」と歌う。口に含んだ水をフロアに吹きかけるパフォーマンスも見せた。
勢いに乗って、「高円寺ブス集合」を高速でたたみ込む。街の宣伝トラックでお馴染みの“バーニラ、バニラ”の叫びにコールが起こり、ダイブを繰り返すしーなちゃん。フロアを存分に巻き込んで、ライブはヒートアップしていった。
「新曲です」と、コール&レスポンスの練習をしてから披露されたのは「愛うぉんちゅー」。アタック感のあるストレートなロックで、しーなちゃんはタンバリンを叩いて“アイアイアイアイ”とシャウト。練習した“あれもしたい、これもしたい 生きてる間は無茶したい”も会場一体で響いた。
そのまま、「みんなで“愛してる”って叫びたいです!」と「トラブルメイカーガール」へ繋げていく。希のギターがギューンと唸る中、叩きつけるように“産みたいくらいに愛してる”が繰り返された。
飛ばしっぱなしで少し息を切らしたまま、しーなちゃんが「ちょっとゆっくりな曲を続けます」と話して、後半戦は『らぶ・あげいん』収録の「俺流サニーデイ・サービス」から空気を変えた。タイトル通りのソレっぽい曲で、ゆらゆらたゆたうようなグルーヴがジワッと温かい。
「キネマ倶楽部でこの曲を歌うのがうれしいです」と、「中央線」はスローなギターの弾き語りから始まり、2番でバンドサウンドに。“さよならは言わない”のリフレインに哀感が染みた。「ボーイズ・デイ・ドリーム~ドッカンver~」は穏やかなテンポでのアンサンブルが楽しげで、しーなちゃんににこやかな表情が浮かんでいた。
「今日は声出しOKです。好き勝手にどうぞ。また激しい曲が続きます。歌える人は一緒に歌ってください」
「再生ボタン」と曲名を告げると、ドッと歓声が上がる。定番で原点のハードパンクだ。しーなちゃんがギターをかき鳴らしながら“あの国がミサイルをぶちこむ前に”などとガナると、オーディエンスも拳を突き上げて「オイ! オイ!」と高揚していく。熱狂が最高潮に達した。
『らぶ・あげいん』からの「ボーイフレンド」は疾走感の中でメロディの美しさが際立つ。躍動的な音のうねり。両手を広げて“抱きしめていたかった”と歌うしーなちゃんに青春感が漂った。
終盤に入り、「世界の終わりと夜明け前」からは怒涛のラッシュ。つんざくギター、腹に響くドラム、流れるようなベース。時折り熱い語り口調になるボーカルには、むき出しの感情が見える。ライブでは“ここでつまづくなよ 東京初期衝動”と歌う「STAND BY ME」も、“ひとりぼっちの夜”が描かれた「春」も尖っていながらポップだ。
ラストは定番の「ロックン・ロール」。激しい轟音と張り合うかのように、しーなちゃんのシャウトもさらにギアが上がり、ほとんど絶叫に。高まるところまで高まって、「ツアーファイナル、ありがとうございました!」と、最後はステージの床でのけぞりながらギターを弾いていた。
アンコールに応えて、再びステージに現れた4人。「3年前にベースのかほちゃんが脱退してから、歌えなかった曲です。あさかが入ってから、前の東京初期衝動をやっと越えられたなと思ったので、久しぶりに歌います」
しーなちゃんがそう語って、ギター1本で歌い出したのは「SWEET MELODY」。美しくもの悲しいメロディに、音楽仲間との別れを綴った歌詞。ステージのスクリーンには初期の東京初期衝動のスナップ写真が映り、バンドの演奏が入ると共に、今回のツアーを映した動画に。「ツアー中、脱退しようか迷った回数」「歌詞を間違えた回数」「ゲロ吐いた回数」……などとメンバーごとに数が記されたりも。
そんな中、心情を吐露するような歌声が切なく響く。“君と歌ったあの歌を僕は1人で歌う”……。ドキュメンタリーのようなエモさが漂った。一転、耳馴染みのあるドラムパターンから「せーの」と「黒ギャルのケツは煮卵に似てる」が始まる。ラモーンズの「リメンバー・ロックンロール・レイディオ?」風のメロディでギャルの生態が描かれた曲を、ユルくゴキゲンに。「この曲、台湾(のフェス)でやったら、サークルモッシュやってたよ」と言うと、フロアでオーディエンスたちが回り始めて、パーティー感が溢れた。
「最後の曲です」と奏でたのは「エンドロール」。映画『グリーンバレット』の主題歌として書かれた1曲。気だるく始まり、目の前が開けて、急に弾けてノリノリに。しーなちゃんはサビの歌い回しにキュートさをのぞかせ、あさかはベースを弾きながら跳ねていた。
さらにWアンコールが掛かり、あさかがスマホ撮影OKと告げる。しーなちゃんがまた階段の上に姿を現し、この夜2回目の「再生ボタン」がオーラスに。歌いながらステージに降りてくると、オーディエンスたちは片手で拳を振りながら、片手でスマホを一斉に向けていた。よりストレートに歌い掛けるようなボーカルを聴かせ、しーなちゃんはまたもやダイブ。最後は「ありがとう! アイラブユー!」と叫んで、熱量の漲るライブとツアーはフィナーレとなった。熱の余韻がしばらく後を引きそうだった。