南青山のBLUE NOTE TOKYO。音楽愛好家が通う人気ジャズクラブ&レストランです。見るからにおしゃれなお店で、どうにもハードルが高そう……そもそも、20代のお客さんっているの……?と気後れしてしまいそうな店構えです。
そんなBLUE NOTE TOKYO、意外と20代のお客さんも大勢いるのだとか。今回は、20年近くBLUE NOTE TOKYOを見てきたクラブマネージャー・ソムリエの田中奈津子さんにお話をお聞きしました。
地下クラブ時代を経て、より“開かれた”大人の社交場へ。BLUE NOTE TOKYOの変化
今年オープン31年目を迎えたBLUE NOTE TOKYO。入口には、その日出演するアーティストの写真とサインが飾られている
──BLUE NOTE TOKYOは1988年オープンなんですよね。田中さんはいつ頃からBLUE NOTE TOKYOで働かれているんですか?
田中さん(以下、田中): オープン6年目からですね。当時はアルバイトで、しばらくして社員になりました。
──BLUE NOTE TOKYOが31年目になるので、大半の時期をご存じなんですね!
田中: 元々ジャズが好きで、「仕事をしながら音楽が聴けるんじゃない?」と思ってアルバイトを始めたんです。それなのに、指示された仕事は皿洗い。ちっともお目当ての音楽が聞こえず、目論見が外れてしまいました(笑)。
──悲しい……。開業時はギリギリ昭和です。お皿洗い時代はなかなか音楽が聞こえなかったということですが、お店の雰囲気は今と違ったのでしょうか。
田中: 今のBLUE NOTE TOKYOは20年前に移転してきたお店なんです。私がアルバイトとして入社した当初は、同じ南青山の骨董通りの地下にあったため、今とはまた雰囲気が違いましたね。
──地下となると……敷居が高いのとは違う意味で、一見さんが入りづらそうなイメージがあります。
田中: ちょっと怖そうだな、入りにくそうなお店だなと感じますよね。そのため、移転前はコアなジャズファンのお客様が中心でした。今の店舗は大通りに面した場所ですし、フロアも広くなりましたね。よりオープンな雰囲気になったと感じています。もちろん、昔が不健全なお店だったわけではないですよ(笑)。今よりも、ニューヨークのクラブそのままといった雰囲気だったと思います。
──あくまでも外観から受ける雰囲気が、という話ですね。店の立地以外に、より健全さを感じられるポイントはどこでしょうか。
田中: 昔よりも開演・終演の時間が30分程度前倒しになっているんです。だからなのか、女性おひとりで来られる方も随分増えました。女性がひとりで入れるお店、というと健全さが感じられますよね。
──店内の雰囲気も大きく変わったのでしょうか。
田中: 変わりましたね。前の店舗は、日本にいながらにしてニューヨークのクラブを味わえる場所であることを重要視していて、音楽もジャズが中心だったんです。キャパシティが小さいためにロックやポップスのビッグネームを呼ぶのが難しいといった事情もありました。
移転後はビッグなアーティストも呼べるようになりましたし、ジャズだけではなく幅広く質の良い音楽を提供するようになりました。昨年はデイヴィッド・フォスターさん※1やJUJUさん、MISIAさんなどもお呼びしています。
※1 デイヴィッド・フォスター(1949年11月1日~)
カナダ出身。1971年にスカイラークを結成。翌年「ワイルドフラワー」でデビューし全米9位を記録。これを機にL.A.へ移住。バンド解散後は作曲家・プロデューサーへと転身。セリーヌ・ディオン、ナタリー・コール、ホイットニー・ヒューストン、マドンナ、マイケル・ジャクソン、フランク・シナトラなど多くの音楽アーティストのプロデュースを手がける。
今のBLUE NOTE TOKYOは、ニューヨーク本場のBLUE NOTE をそのまま日本に持ってきたというよりも、“BLUE NOTE TOKYO”という、独自の場として醸成されてきたものだと思っています。さまざまな音楽を紹介する場として営業しているうちに、結果として裾野が広がっていきましたね。
──そうした変化をよしとしない、昔からのお客さんはいらっしゃらなかったのでしょうか……。
田中: 変化もしていますが、昔から続くBLUE NOTE TOKYOの良さもきちんと引き継いでいるので、常連のお客様にも変わらず来ていただけているのではないかと思っています。私はBLUE NOTE TOKYOのよさは非日常を味わえる空間だと思っていまして、そうした大人の社交場としてのBLUE NOTE TOKYOは、今も昔も変わらないと捉えているんです。
BLUE NOTE TOKYOが縁結びの場になったこともあるんです
──BLUE NOTE TOKYOでは、どんなお客さんが多いんですか?UPUの読者は20代が中心なのですが、20代の方ってぶっちゃけ来店されますか……?
田中: 大勢来られますよ!
──えっ、そうなんですね。意外です!
田中: 移転前はコアなジャズファンが中心だったんですが、今はその日その日の演目によって、客層が大きく異なっているんです。
特に20代の方に人気なのは、ビッグバンドの日ですね。日によっては、半分以上のお客様が20代という日もあります。
──20代でこのお店に入るって、なかなか勇気がいるような気がしてしまうのですが、案外たくさんいらっしゃるんですね。
田中: ジャズをファッションと同じスタイルとして捉えている若い方が多くいらっしゃったり、昔のジャズのレコードが1周回って、今またかっこいいと思われる感性もあると感じていて、BLUE NOTE TOKYOも、そういったイメージで新鮮に捉えてくださっているんじゃないかと思います。ハレの日に訪れる場として、ドレスアップしてデートのディナーで来られる方も多いですね。一度来て敷居の高さを感じなくなり、リピーターになってくれた方もいらっしゃいます。
──その「一度目」のハードルが、どうしても高いと感じてしまいます……。
田中: すでに知っている好きなアーティストが来る日を狙ってきてみていただけると、ハードルが幾分か下がるのではないかと思いますよ。ライブに行く感覚で来てみていただければ。
──なるほど。
田中: 来てみていただけると、ハードルの高さが払拭されるだけではなく、コンサートホールで見るライブとは雰囲気が異なることもわかっていただけるのではないかと思います。
BLUE NOTE TOKYOはコンサートホールではないんです。“BLUE NOTE TOKYO”という社交場なんですね。食事をして、音楽を聴いて、思い思いに楽しんでもらえる場。アーティストとの距離感も通常のライブよりも近く、アーティストとお客様が一緒に空気を作っていくというところも魅力のひとつなんですよ。
あとは、お客様同士のコミュニケーションが生まれやすいのも、コンサートホールじゃない場だからこそですね。
──お客さん同士のコミュニケーション?
田中: “このアーティストが好き”“この音楽ジャンルが好き”といった共通項があるお客様が集まっていることや、食事やお酒を楽しめる空間であることから、自然とお客様同士が仲良くなる機会が多いんです。
おひとりで来られたお客様同士が、気づけば隣同士で仲良くなっている、なんてことは日常茶飯事ですよ。
──バーの隣に座った方と仲良くなる、みたいなシチュエーション、憧れます……!
田中: BLUE NOTE TOKYOでご相席が縁でお付き合いされた方もいますし、ご結婚された方も何組かご報告を受けているんです。
──えええっ!
田中: “BLUE NOTE TOKYOが好き”という共通点が前提としてあることが大きいのかもしれませんね。おしゃれな音楽・インテリア・食事やお酒が好き、ということなので。
──ふたりの出会いがBLUE NOTE TOKYOとか、それだけでおしゃれですね……!
田中: あとは、常連のご年輩のお客様が20代のお客様にご馳走していたり、若い男の子たちがボックス席でお酒を嗜まれている男性客の姿を見ながら、「かっこいい……」とつぶやいていたり。相席が多いので、 “感性”という共通のキーワードだけで多くのお客様同士の交流が生まれているんです。
──いいな……次はお客さんとして来てみたいです。
田中: ぜひお越しになってみてください!