しかし秋月さんの、「恋のライバル」とおでこに貼られているかのような数々の行動はすごかった。貴司への気持ちを隠しているけどバレバレな舞ちゃん(福原遥)に「先生のそばにおること、悪く思わんといてくださいね」とわざわざ言うなんて、正直「きゃー、何それ、このまま公園に埋めちゃいたいー」くらいに思ってました。貴司への「先生は私と同じ孤独な人」という思い込みとか、いつのまにかデラシネの店番したり、うめづに出入りしたりとか、超こわかったし。こんなストーカーっぽい人が来ても、貴司にはデラシネがあるから逃げられないんですよね。元オーナーの八木さん(又吉直樹)は、こんなふうに店に縛られたくなくて去ったのかも。
最初は「こういう人嫌い!」とぷんぷんしながら秋月さんを見ていたんですが、ある時突然「あれ、これは自分では……?」と頭を叩かれたような気持ちになりました。「推し」のことを「こんな人に違いない!」と自分の脳内で決めつけ、その人の幸せのためにと行動しながら、本当は相手が自分を好きでもなんでもないと気づいている。秋月さんにストーカーめいたおせっかいをされて貴司くんが苦しげに笑うたびに、「私もこんなふうかも」と、自分の暗部を見せられているような。迷惑だとわかっていても好きな気持ちをどうにもできない秋月さん。彼女を嫌うこと自体が私自身を嫌いだと言うようなもので、週の後半はつらかったなあ。
だから「私のほうが短歌も貴司も理解してる」という秋月さんの自信が逆に「短歌を知っているがゆえに本歌取りに気づき、秘められた貴司の恋心にも気づいてしまう」という結末に向かうところは、その残酷さに胸が苦しくなると同時に、これでやっと苦しい恋から救われるという、ホッとした気持ちにもなりました。貴司と自分を同一視することをやめて「私は私の歌を詠んで生きる」と決意した秋月さん、きっといい歌人になる。いつかリュー北條が、彼女の歌集を出してくれたらいいな。彼ならいい本を作ってくれるはず。
今週、最初は嫌味な編集者だと思っていたリュー北條のこともとても好きになりました。自分の殻をやぶれない貴司に強い言葉をぶつけて立ち去ったのに、やけ酒飲んで酔ってデラシネに戻ってくる不器用さ。東京から何度も東大阪へ通うくらい貴司の短歌を評価してるのに、このままでは彼の初めての歌集が売れないことがわかっているから、もどかしくて悔しいんですよね。小鹿な貴司を食べちゃう虎とライオンだと思っていた北條と秋月さんは、実際には優しく(でもないか)彼と舞ちゃんの背中を押してくれる人たちだった。