テレビにはないジャンル、アクション・コメディーを目指しているだけに、コメディーに強いスティーヴ・ハウィー（ハリー役）とジンジャー・ゴンザガ（妻ヘレン役）が起用された。この手のリメイクが山ほどあるだけに、映画ほど人気が出るかどうか. . .

２３年冬のTCAプレスツアーでは、地上波局とストリーミング・サービス会社（MGM+、Hulu、Paramount+）が、７３本の新・継続番組のパネルインタビューを実施しました。昨年の夏同様、相も変わらず、嘗ての人気番組／映画のリブート／スピンオフ／続編がほとんどです。２００８年辺りから始まったこの傾向は、現在の世相を反映して、設定や主人公及び取り巻きキャラの性別や人種を変えて、ドラマシリーズに書き換える、怠慢な（？）方法です。この常套手段で大成功を収めるのは、至難の技だと言うのに、今春も真のオリジナル・ドラマ（＝クリエイターの体験から生まれたユニークな作品）はほんの僅か。希少価値ではありますが、じっと我慢の子で育て上げる時代ではないからです。

地上波局NBC

NBCで９シーズン（１９８４〜９２年）に渡り人気を博した法廷コメディー「Night Court」を同名でリブート。続編とも言える本作は、２０２３年のマンハッタン刑事裁判所の夜勤判事になったアビー・ストーン（メリッサ・ラウシュ）が、父ハリー・ストーン判事（ハリー・アンダーソン）と比べられながら、自分らしさを模索する姿を描きます。本編で活躍したダン・フィールディング弁護士（ジョン・ラロケット）は、８０年代の男尊女卑や白人至上主義などをそのまま持ち込んで、今日の世相と真っ向から衝突する「古代の遺物」の象徴として登場します。その他のキャストは、続編「Night Court」用に新たに生み出され、１月１７日から放送中。

地上波局CBS

映画「トゥルーライズ」（１９９４年）をテレビ化した同名のアクション・コメディー＋ロマコメ＋家族ドラマのハイブリッドシリーズ。アーノルド・シュワルツェネッガーが演じたハリー役に抜擢されたのは、スティーヴ・ハウィー（「シェイムレス　俺たちに恥はない」）、ジェイミー・リー・カーティスの妻ヘレン役には、ジンジャー・ゴンザーガ（マーベルドラマ「シー・ハルク」）が登板。映画「トゥルーライズ」の制作費の十分の一にも及ばないので、スペクタクルが売りではなく、「『こちらブルームーン探偵社』のようなロマコメに、家族ドラマを加味したアクション・コメディー（テレビにはないジャンル）を目指した」とは、制作総指揮をマックGから任されたマット・ニックスの言。放送開始は、３月１日で、CBSとParamount+配信サービスで視聴できます。

ケーブル局FX
６シーズンに渡ってケーブル局FXで放送された現代風西部劇「JUSTIFIED 俺の正義」（２００９〜１５年）の続編。ケンタッキーを後にしたレイラン・ギヴンズ連邦保安官（ティモシー・オリファント）が、１５歳の娘と共にデトロイトで繰り広げるソシオパス凶悪犯狩り劇を綴る限定シリーズ「Justified: City Primeval」８話は、６月に放送開始予定。

１月１２日に行われた「Justified: City Primeval」のパネルインタビュー。中央が２００９年からレイラン・ギヴンズ連邦保安官を演じるティモシー・オリファント。左上には、本編を企画・制作総指揮したグレアム・ヨーストの姿があるが、続編ではエグゼクティブ・プロデューサーに降格（？）。Photo: Frank Micelotta/PictureGroup for FX Networks/Shutterstock

 

ケーブル局AMC
「ウォーキング・デッド」のスピンオフ第５弾「The Walking Dead: Dead City」は、失踪した息子を探すマギー（ローレン・コーハン）に手を貸すニーガン（ジェフリー・ディーン・モーガン）が、米国本土から隔離された世紀末的マンハッタンを舞台に大暴れします。自由の女神からエンパイア・ステート・ビルまで、ニューヨーク名所を徘徊する全米最大のゾンビ軍団も登場します。６話で綴られるスピンオフは、来たる６月２３日より放送開始。

１月１０日に行われた「The Walking Dead: Dead City」のパネルインタビューに駆けつけた主演のローレン・コーハン（マギー役）とジェフリー・ディーン・モーガン（ニーガン役）。Photo: Lisa O'Connor/Shutterstock

 

Paramount+配信サービス

１）１９７０年代にブロードウェイに登場した学園ミュージカル劇「グリース」や映画「グリース」（１９７８年）で、エリザベス・リッゾ（映画ではストッカード・チャニングが演じた）がリーダー格だった不良女子高生グループ（タバコ、酒を堪能する）ピンク・レディーズの起源に遡る「Grease: Rise of the Pink Ladies」は、「グリース」の前編（プリクエル）です。ダニーとサンディーがライデル高校に姿を現す数年前を舞台に、白人・黒人・ラテン系・日系と人種の多様性を盛り込んだピンク・レディーズの活躍を新曲３０本で描きます。配信開始は、４月６日。

２）映画「危険な情事」は、欲望や不倫のしっぺ返しと、平穏な生活の尊さを男に知らしめるサイコ・スリラー／ロマンス・ホラーとして、１９８７年度の世界興収でトップの数字を樹立し、第６０回アカデミー賞で作品／監督／主演女優（グレン・クローズ）／助演女優（アン・アーチャー）／脚色／編集の計６部門でノミネートされるほど、好評をはくしました。

ダン役のジョシュア・ジャクソンとアレックス役のリジー・キャプラン。アレックスだけが悪者で、ダンには何のお咎めもないばかりか英雄視されるのは、不公平極まりない。喧嘩両成敗にするべきと言う#MeToo思想を反映した「危険な情事」の続編とも言える。１月９日に開催されたパネルインタビューで、キャプランは「メンタルヘルスに造詣の深いグレン・クローズが切望したエンディングに近づけたい」と抱負を語った。Photo: Rune Hellestad/UPI/Shutterstock, Scott Kirkland/PictureGroup for FX/Shutterstock

 

「危険な情事」続編は、男尊女卑丸出しの８０年代に真っ向から立ち向かい、アレックス（リジー・キャプラン）が常軌を逸した復讐劇に出た心理（特に精神的障害）を深く探る一方、ダン（ジョシュア・ジャクソン）の職権濫用、特権意識や傲りにも触れる#MeToo時代ならではの限定シリーズです。アレックスを殺した罪で１５年服役していたダンが、娑婆に戻ってアレックスの死の真相を探って無罪を証明しようと奔走する一方、疎遠になった心理学専攻の娘エレン（アリッサ・ジレルズ）との関係を修復することに全力を注ぐ様子が８話で描かれます。過去と現在を並行して綴ることで、アレックスの狂気の沙汰の原因を深く掘り下げ、不倫による家庭崩壊の被害者エレンが受けた「心の傷」を描く点が、映画と続編シリーズの大きな違いです。４月３０日から配信開始。

PBS公共放送

１）異国に嫁いだ１４歳の少女の孤独を青春映画化したソフィア・コッポラの「マリー・アントワネット」（２００６年）は、Huluの異色時代劇コメディー「THE GREAT～エカチェリーナの時々真実の物語～」の先駆けとも言うべき異色作でした。その流れを受けたBBC制作の歴史伝記ドラマ「マリー・アントワネット」は、宮廷の退屈極まりない生活や我が身に課せられたとてつもなく大きな責任を、少女がいかに処理するのかを面白おかしく描く奥の深いドラマです。米国ではPBS公共放送で３月１９日にデビューする期待作です。

２）１７４９年出版された、ヘンリー・フィールディングの小説「トム・ジョーンズ」から映画化された「トム・ジョーンズの華麗な冒険」（１９６７年）は６０年代を反映して、奔放なプレイボーイが繰り広げるかなり際どい作品でした。４月３０日放送開始の「トム・ジョーンズ」は、公共放送向けと言うこともあって、原作に限りなく近い純真無垢なロマコメになっています。現代の世相を反映して、１）トム（ソリー・マクロード）が出会う女性たちの視点から描く、２）紆余曲折を経てトムと結ばれるソフィア役に黒人女優ソフィー・ワイルドを起用。女目線、主人公の人種変更と現代風に手を加えた１８００年代のロマコメは４話で綴られます。