舞ちゃん(福原遥)の家でよく出てくる、ダイニングのテーブル。おいしそうなごはんを囲んで、いつも笑顔の家族が座っている場所……のはずだけど、そこに悠人(横山裕)はいただろうか。いたはずなんだけど、今思い出すのは、受験生の彼がひとりでうめづのお好み焼きを食べている姿。お父ちゃんと、もう会えなくなるとも知らずにケンカして、食事の途中で席を立つ姿。舞ちゃんにカレーを食べるかと聞かれて、いらないと怒った顔で断る姿。そんなふうに、家族揃ってなごやかに食事するところより、彼の孤独を感じるシーンばかり目に浮かぶ。
あの4人がけのテーブルに、お兄ちゃんの席はあったのかな。病弱な妹のことや工場のあれこれで忙しいあまり、頭が良くてしっかりした兄の手をつい離しがちになった両親の気持ちもわかる。でも、熱を出して苦しんでいる舞ちゃんだけでなく、お兄ちゃんだって不安で寂しい子どもだったのに。テーブルで舞ちゃんについて話し合う両親の様子を見て、自分も話したい気持ちを飲み込んで立ち去る後ろ姿を、お父ちゃんもお母ちゃんも知らない。成長した悠人とめぐみさん(永作博美)が向かい合って座ったのは、あの家族のダイニングテーブルではなく、悠人の家の、大きくて高そうな、でもなんだか触ると冷たそうなテーブルだった。そして親子としてではなく、投資家と経営者として、だった。お母ちゃんを助けてと情に訴えてお金を出してもらうのではなく、経営を勉強した社長として、投資家の悠人にビジネスの話をするめぐみさんはかっこいい。だけどいつか、あのダイニングテーブルで、家族3人が冗談を言ったり後悔を伝えあったりお父ちゃんの思い出話をしたりする姿が見られたらいいな、悠人がちゃんと「子ども」としてお母ちゃんと向き合う日がくるといいなと思ってます。あなたの居場所はまだあのテーブルにあるよ、お兄ちゃん。