しかし、呼吸はやはり苦しそう・・・。
考えた末、深雪さんは、酸素ハウスに送る酸素の管をそのままトラちゃんの口元に持っていき、酸素を送ることに。しかし、それも頑固に拒否。

犬や猫には「これがあれば、体が楽になる」ということを伝えることができません。
やむを得ず深雪さんは、酸素を断念して、投薬だけで様子を見ることにしました。

苦しくて眠れないのか、深雪さんの耳にはトラちゃんの荒い息遣いだけが聞こえてきます。どうか、早く薬が効いてくれますように―。
深雪さんはただ祈るしかありませんでした。

丁寧な経過観察と薬が功を奏し、10日ほどで、トラちゃんの呼吸は次第に穏やかになり、食欲も出てきました。その後、一進一退と容体が入れ替わるたびに深雪さんは病院で検査を受け治療について獣医さんとよく相談し、薬を処方してもらいました。

その甲斐あって体重が増え、呼吸も心拍数も正常に戻り回復へと向かっていったのです。

「ほっとしました。これでしばらく様子を見ていれば大丈夫・・・」
トラちゃんの体調はすこぶる良く、20歳を超えたとは思えないほど元気いっぱい。
体重も減っていないし、呼吸、心拍数も問題はありません。

「この調子なら次のお正月も一緒に迎えられる・・・そう信じて疑いませんでした。それくらい元気だったんです」
しかし、20歳という年齢は静かに、確実にお別れへと時計の針を進めていきました。

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.5
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

▲のんちゃん(奥)とトラちゃん(手前)

夏が過ぎ、晩秋が訪れたころ、トラちゃんの容体は悪化。水も飲めなくなりその数日後、深雪さんの腕の中で、まるでお花が枯れていくかのように静かに息を引き取りました。

「何日も水が飲めなかったのに亡くなって30分が過ぎても、一滴、また一滴とおしっこがポタポタと落ちてきたんです。本当に死んでしまったの?そう思うと、また一滴・・・。
そのおしっこまでが愛おしかった・・・でも、40分後にはそのおしっこも途絶えてしまって、とたんに私の涙が止まらなくなりました・・・」

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.5
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

▲トラちゃん(上)

深雪さんが大切な自分の家族と決めた4匹のうちの最後の家族、トラちゃん。
トラちゃんが大好きだったソファ。洗面ボール。食器棚。家の中のどこを見回してもトラちゃんとの思い出がぎっしりつまっています。

トラちゃんのアルバムには歴代の保護猫と一緒に寝ている写真ばかり。どの子が来ても意地悪することなく、どの保護猫からも好かれていました。

「子猫の時から甘えん坊で抱っこも好きで、私が忙しくしていると“抱っこ”ってよじ登ってくる子だったんです。でも、次々と保護猫がやってきて、忙しくて、我慢ばっかりだったね・・・」

100匹以上の猫を自分のテリトリーに受け入れながら、家族として、深雪さんの側に寄り添い、20年以上の歳月を深雪さんとともに過ごしたトラちゃん。

「お別れはとても悲しいけれど、ゆっくり年をとって、老いて、枯れるようにそっと静かに最期を迎えることが一番いいと思う。トラは幸せな最期だった」
深雪さんはそんなことをポツンと言い、最後にこう続けました。
「私も高齢なので、自分の家族として猫を迎えることはありません。あとは、今いる13匹の保護猫たちの行先が見つかるまで、自分にできることをただやるだけです」

深雪さんの家には、家族だった猫たちのお骨がキャビネットの中にきれいに収まっていました。
今頃トラちゃんは、先に逝った姉妹のプクちゃん、かんぺいちゃん、のんちゃんと天国で元気に走りまわっていることでしょう。

(取材:2022年7月)

【連載コラム】シニア犬・シニア猫と暮らす Vol.5
(画像=『犬・猫のポータルサイトPEPPY(ペピイ)』より引用)

▲猫ちゃん達の遺骨


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