ユージ 一方で、山田邦子がヨネダに「これはどこから思いついたネタなの?」と聞いていたのがすごく良かったです。あの場であれを質問できる審査員って、まずいないじゃないでか。

タカ あれは本当に良かった。山田邦子の、何を言われてもあんまり気にしないおおらかな感じが光ってましたね。1組目で周囲より低い点数をつけた時点で、気にする人だったら「しくじった!」って番組中ずっと引きずると思う。

ユージ 審査員の中で唯一、松本人志の影響下にない人間という感じがありました。

タカ たけしの影響下にある人ですからね。

ユージ 肝心の、ウエストランド優勝に対しては自分の感想がまだ固まりきってないところがあります。笑ったには笑ったけど、これが優勝といわれると首をかしげるというか。

タカ そうですね。そこまですごかったのかな? とはなります。

ユージ 2本続けての披露だったことで、合わせて1本のネタのようになっていたのも勝因では、と言われていますが、2本目は1本目に比べたらあきらかに見劣りしていたと思います。どう考えても1本目のほうが一個一個のくだりが磨かれていた。さや香も2本目は1本目ほどではなかったから、ファイナルラウンドは本当に難しいですね。いずれにせよ、ウエストランド優勝をもってして「やっぱりコンプラガチガチの風潮はクソだよな、スッキリした」みたいな感想に流れるのは違うだろうと思っていますが。

タカ うーん……私はそこで「そういう感想はダメ」みたいに言わされてる感じがして、そのほうが嫌ですね。お笑いファンだからこそ、ネタを真に受けるんじゃなくて、もっと複雑にとらえてあげないといけないような圧があるように感じます。だって明らかにあのネタは「コンプラクソくらえ」と言っているし、しゃらくさいと感じる風潮に対して「クソくらえ」と示している。「佐久間さ~ん!」のくだりとか、ああいうタイプのお笑いが好きなファンをバカにしているし。別にコント師が単独ライブの最後に長尺のネタやったっていいじゃないですか。

ユージ 最後に長尺コントをやるタイプの単独は嫌いじゃないというかむしろ好きなほうですが、そういう構成をやたら褒めがちな風潮には食傷気味なので、やっぱりあのくだりは笑いましたよ。全体に、そういう微妙な気持ちを突かれた感じがあります。

タカ まあ、みんながあの構成をやったところで、そこまですごいか? みたいなときもあるにはあるし、今のお笑いファンのそういう感じが嫌だというのもわかるけど、そこでファン側が自虐的にとらえて自分も一緒に笑わないと大人げない、みたいなのは違うなと思うんですよ。私は「どんなスタンスで見ていたって別にいいじゃないか」という考えが基本にあるので。なかなか痛いところを突いていたのかもしれないけれど、ターゲットど真ん中の人ほど怒れないですよね。言及された佐久間さんも、大人だからこそ笑うしかないでしょう。でも、そう言及された瞬間から、何か始まっちゃった感じもするじゃないですか。あっち側はバカにしていいんだって。

ユージ 『M-1』自体をエモく消費する風潮に対して鼻白む気持ちはこの数年増しているので、「ネタを分析するな」には同意できなくても「アナザーストーリーでお母さんに電話して泣いてんじゃねぇ」では溜飲が下がるんですよ。一昨年の決勝でやっていた「みんな仲良しコント師が好き」みたいな微温的な毒ではなく、一歩踏み込んでまだ誰も言葉にしてなかったことを言ったな、って。

タカ それも同調圧力的じゃないですか? 私はやっぱりお笑いファンのそういう“逆同調圧力”とでもいうべきものに抗いたいですよ。

ユージ いま話していて思いましたけど、私は『M-1』に関してはファンどうこうよりも運営側に対する反発が大きいのかもしれません。コンディションが悪くなるのに屋外で敗者復活戦をやり続けるのも、あきらかにドラマを生むための演出じゃないですか。そういうふうに運営側が「ドラマティックでしょ?」と提供してくるものをそのまま飲み込みたくないというか。

タカ 屋外で敗者復活戦やることに対してはバカバカしいから場所借りろよと思うし、運営がそういうドラマティックさを商売にしているのはいやらしい感じもしますけど、外でやるくらいでドラマ生まれてるのかなとも。ロングコートダディ堂前の「人前で悪口いっぱい言ってる人初めて見たんで、びっくりしました」って嫌味が救いでした(笑)。あれも一種の毒舌だろうけど、ウエストランドみたいなストレートさよりもああいうほうが好きですね。そこは好みの問題でしょうけど。

ユージ ロングコートダディも単独の最後は長尺やるタイプのコント師ですからね(笑)。ネタにメッセージ性込めてくるコント師を弾劾した漫才がこんなにメッセージ性持って受け止められている状況を、ウエストランドはどう思ってるんでしょうねぇ。

タカ いずれにせよ大会全体の傾向として、オズワルドのように『M-1』に対して必死な人は来年以降少なくなりそうだなというのは、今年観ていて思ったところです。

ユージ たしかに、金属バットのラストイヤー敗退とオズワルドの今年の結果で、そのピークは越えた感じがします。

タカ 「楽しければいい」みたいな人が増えていきそうな気がしますね。そうすると自ずと『アナザーストーリー』的な盛り上げ方は、無意味になっていくのでは? 必死だからこそドラマが生まれるわけですから。

ユージ 実際、敗者復活戦に出ていた若手たちのラジオなどを聞くと「楽しかった」という話に終始している人が多い印象です。あのあたりが準決勝常連組になってくると、大会のカラーは変わっていきそうですね。