スカーに支配されたプライド・ランドは荒廃し、ナラは助けを求めて命がけで脱出。シンバと再会しランドを救って欲しいと頼むが、過去を引きずるシンバは背を向けるのだった。ランドを長年見守ってきたマントヒヒのラフィキは、シンバをムファサの幻と再会させる。

「私は生きている。お前の心の中に」

 ムファサの幻は告げる。それはかつて父から教わった、生命はひとつの環になっているというサークル・オブ・ライフの教えだった。シンバは過去を乗り越えるためスカーと対決すべく故郷に戻るのだった。

 本作はフルCGのアニメーション映画である。だがあまりにリアルで美しく、サバンナ風のプライド・ランドの風景や、ライオンをはじめ動物たちの姿は実写にしか見えない。94年版のアニメも動物のぬるぬると動くリアルさは実写に匹敵すると言われていたが、それを越えている。ライオン同士が争って上から前脚で踏みつけにくるといった描写などは94年版にはない動きだ。

 ストーリーはほぼ94年版と変わらない。だから「絵がリアルになっただけ」「リアルすぎて気持ち悪い」だとか、94年版のファミリー映画感あふれる作風に比べてトーンが暗く、復讐、反撃といった描写が色濃いので、これなら明るく楽しく見られる94年版のほうが好きだという人は多いのかも。

 けれどこの映画には、もう一つの見方がある。

 王としての身分の者が謀略に絡めとられ荒野をさすらい、課せられた試練を克服し、立派に成長して故郷への帰還を果たすという、一種の貴種流離譚である本作の制作兼監督を務めたのは、ジョン・ファブロー。マーベルの『アイアンマン』シリーズを大ヒットさせ、マーベル・シネマティック・ユニバースを牽引した人物だ。

 世界一稼ぐ男としてハリウッドで王にも等しい立場になったファブローは、続いて『カウボーイ&エイリアン』という映画を撮る。主演はダニエル・クレイグ、ハリソン・フォード。ジェームズ・ボンドとインディ・ジョーンズの競演! 二大スターを従えた映画だが、評価はさんざん、興行もイマイチという失敗に終わった。よほど納得できなかったのか、ソフト版では18分の未公開シーンを追加したロングバージョンを付け足したが、18分増えたらさらにつまらなくなっただけだった。

「ハリウッドで成功して牙を抜かれた」だの、「おとなしくアイアンマンだけやってろ」などと批判されたファブローはショックを受け、若手時代に撮っていたジャンルのコメディ映画に復帰。それが『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』だ。

 ファブローは主人公である三ツ星レストランの一流シェフ、カールを演じる。彼は料理評論家相手に独創的な新作料理を出そうとするが、オーナーに定番の人気料理を出すよう求められ、応じてしまう。ところが評論家には「冒険心を失った」などと酷評。SNSで暴言を吐いた挙句、店で大げんかしてクビ! カールは初心に帰ってフードトラックで街を縦断しながら、出会った客を相手にキューバサンドイッチをつくって大人気に。人気店で一流シェフと呼ばれて有頂天になっていたカールは、料理人として忘れていた大切なものを取り戻す。

 王としての立場がありながら、失敗してさすらい、本当の自分を取り戻すってなんだか『ライオン・キング』のシンバに似てるなあ! 頂点とどん底を経験したファブローは誰よりも『ライオン・キング』に感情移入したに違いない。シンバとは俺のことだよ!

 挿入歌の「ハクナ・マタタ」(スワヒリ語で「くよくよするな」の意)もきっとファブローには突き刺さっただろう。過去にばかり囚われるな、明日があるさ!

 なにしろこの映画、大ヒットして世界歴代興行収入の8位だからね!ファブロー万歳!