ホイットニーはその後に歌手のボビー・ブラウンと結婚し娘も授かるのだが、それ以降も(絶交してもおかしくないほどの喧嘩をしていたこともある)ロビンは親友であり続け、精神的な支えになっていたように思える。時代が違えば、別の道が彼女にはあったのかもしれないと想像してしまうと、やはり切ない。だが、この映画はそのホイットニーの人生そのものを慈しむように肯定することに、意義があると言ってもいいのではないか。
事実として、ホイットニーは2012年2月11日に48歳の若さで亡くなっている。薬物の濫用がスキャンダラスに報じられていたこともあり、「悲劇の歌姫」として語られることもある。2018年に公開されたドキュメンタリー『ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー』も、作品としての良し悪しは別にしても、やはり「スターから転落していく様」「残酷な裏舞台」を赤裸々に描き出していく印象が強い内容だった。
だが、今回の映画は悲劇の事実を並べ立てるだけの内容ではない。実際にホイットニーを担当したレコード会社の社長のクライヴ・デイヴィスは「この映画の目的は、ホイットニーのすべてを見せることです。偉大な音楽スターの人生と、彼女を特別で唯一無二の存在にたらしめる所以を示すことが、私の使命でした。私たちの意図は、貴重な人物を早すぎる悲劇的な結末に導いた、ドラッグの致命的な影響を白日のもとに晒すことではありません。偉大な才能、彼女が愛された理由、そして世界中に与えた比類なき才能を示すことなのです」と語っている。
劇中で語られるのは、ホイットニーのことをよく知る人々の視点があってこその「物語」とも言える。劇中の彼女は裏表のない素直でチャーミングに見える時もあり(特に映画『ボディガード』の出演依頼があった時の反応がかわいい)、時には父や親友や夫に強く憤る激情家に思える時もある。それでも、やはり揺るぎないアーティストの信念、何よりその歌声の力強さが、その彼女の半生と深くリンクしているようにも思える。
何より、悲劇的な面ばかりをクローズアップしないからこその、ホイットニーという等身大の人間の魅力が詰まっていた。クライマックスとラストの歌唱とその歌詞に、それまで積み上げた様々な出来事を見てきたからこそ、涙する方も多いだろう。
最後に、レコード会社の社長のクライヴ・デイヴィスを演じたスタンリー・トゥッチが素晴らしかった、ということも告げておこう。『プラダを着た悪魔』の時の立ち位置にも近い、主人公の才能を見出し、その後も彼女に誠実に接して、もっとも必要なアドバイスをする、善性に満ちたような役柄だったからだ。過去最高にして理想型のスタンリー・トゥッチを観たい方にも、是が非にでも映画館で観ていただきたい。
『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
12月23日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国の映画館にて公開!
原題:WHITNEY HOUSTON: I WANNA DANCE WITH SOMEBODY
US公開日:12月21日
監督:ケイシー・レモンズ
脚本:アンソニー・マクカーテン
出演:ナオミ・アッキー、スタンリー・トゥッチ、アシュトン・サンダース
上映時間:2時間24分
レーティング:PG-12