男性ブランコの6番手というネタ順はベストだとも思えたし、のちほど言及する前2組と離れた方が良かったようにも感じた。もしもあのヨネダ2000の「わかりやすい英語と餅をつくペッタンの音」で構成された強烈なコント漫才の後だったら、男性ブランコのネタも余計に不条理さが際立ち、混乱に拍車をかけ、笑いの量はさらに放たれたのではないか。

 なにより、コントと漫才の絶妙かつ不気味な融合がすばらしかった。彼らは2017年に東京へ拠点を移すまで大阪・よしもと漫才劇場へ出演していたが、ちょうどそのとき、同劇場は漫才中心に公演が組まれていた。コント勝負の男性ブランコは悩みながら公演に出演していたというが、今大会では当時の漫才経験が結果として良い形であらわれたのではないか。筆者的にもっとも笑ったのが男性ブランコだった。

 男性ブランコの前2組で登場し、最終決戦へ駒を進めたのがNSC大阪校34期の石井、新山によるさや香と、NSC大阪校31期の堂前透、兎によるロングコートダディである。どちらもチャンピオンの座を手におさめかけていた。

 さや香は、しゃべくり漫才だ。ファーストステージでは「30歳をこえると老化がすすむ」という話題から、石井が思い余って「29歳でとった免許を34歳で返納した」と、新山を驚かせる。石井は免許返納のメリットとして「佐賀県では免許返納するとタクシーが2割引になる」と言うと、新山は「人間が普通に生きていたら佐賀に行くことはない。佐賀は出られるけど、入られへん」と佐賀県をイジるなど、次々と見せ場を作る漫才を展開。

 すごかったのが、熱のこもった言葉はこんなにも観る者を揺さぶるのかというところ。『M-1』はコント漫才が強く、近年もマヂカルラブリー、錦鯉らアクション系の漫才が優勝している。そんな傾向があるなか、ひたすらしゃべることで魅了していくさや香には感動すら覚えた。まさに正統派のしゃべくり漫才。2023年の『M-1』優勝候補が早くもあらわれた。

 ロングコートダディは2021年大会の決勝につづいて、コント師らしいネタだった。審査員の富澤たけし(サンドウィッチマン)、塙宣之(ナイツ)が指摘したように、ファーストステージのマラソンネタの“キャラクター”の登場順が神がかっていた。笑い飯を彷彿とさせるダブルボケのスタイルで、堂前、兎が、およそマラソンとは不釣り合いな人物像を交互に演じていく。大奥の歩き方で走ったり、大会主催者がまわりに感謝しながら駆け抜けたり、ヘンテコなランナーが次々と登場。「いよいよ、それらを超える“キャラクター”が現れるのではないか」という期待を逆手にとって、シンプルに「太ってる人」が出てくるところに驚がくさせられた。こういった発想で笑わせることができるのは、大喜利巧者の堂前ならではである。

 ロングコートダディは「ユルいコンビ」と言われ続けているが、ものすごくアクティブな漫才だった。松本人志がコメントしたように「縦の動きの漫才」という部分に新鮮味があった。一方で、博多大吉が減点対象とした「(持ち時間を)20秒残していた。最後になにをしてくるのか期待しちゃったので。(4分が)基準だと思う」は、決勝戦となると時間オーバーだけではなく足りないことも審査に響くのかと認識させられた。