聴力を失った元恋人・佐倉想(目黒蓮さん/SnowMan)と再会した女性・青羽紬(川口春奈さん)の揺れる心を描くドラマ「silent」(フジテレビ系)が話題になっています。

 本作は人を想う心の尊さと愛すべき愚かさを丁寧に掬い上げた、現代の「賢者の贈り物」とも言うべき作品です。

◆目黒蓮の演技に引き込まれる

目黒蓮の演技に引き込まれる
「好きな声だった。好きな声で好きな言葉を紡ぐ人だった。

 名前を呼びたくなる後ろ姿だった。

 卒業まであと何回名前を呼べるだろう」

 好きな人に声を掛けることも、好きな人の声を受け止めることもできなくなってしまったら、一体どうすればいいのでしょう? すべてを断ち切り、ひとり音の無い世界に籠もるのがいいのでしょうか。

 目黒蓮さん演じる想の、あまりにも雄弁な静けさが胸に響きます。

◆心情を表現する“瞳の演技”が凄い

「悲しませたくなかった。このこと知ったら、そうやって泣くと思ったから」

 恋人を悲しませたくないあまり、本心を隠して紬を遠ざけた想ですが、ふたりの予期せぬ再会は、はからずも彼と彼を取り巻く人が“そっと黙らせてきたもの”をあぶり出してしまいます。

「再会してもさ、わざわざ、そういうその、障害のあるやつのほう引かないだろ。昔好きだったからって」

 これは、想の病気を知った昔の部活仲間がぽそりと漏らした言葉です。そんなふうに思う人も、いないではない。

 そんななか、手話を習って必死に“会話”しようとしてくれる紬を見て、思わず嬉しさが込み上げてしまう想。おのずと喜びにまたたく、想の瞳の演技が圧巻です。

 想はもしかしたら、たとえ嫌われても紬の中では“彼女の好きな声をもつ自分”のままでいたかったのかもしれません。しかしながら、紬の拙い“手話という声”が、想の築いた静かなる壁をほろりと突き崩したのでしょう。

「目は口ほどに物を言う」と言いますが、翳(かげ)り、また輝く想のまなざし――静謐(せいひつ)にさざ波立つ彼の心情を、目黒さんは実に細やかに表現しています。

◆3人の関係はどのように変化していくのか

 高校時代の想は、長身で見目麗しく文武両道。サッカー部で活躍し、勉強も得意で、女子ばかりか男子も憧れずにはおれない、学校中の人気の的でした。想の親友で、今は紬の恋人の湊斗(鈴鹿央士さん)も、想には憧憬(しょうけい)にも似た友情を抱いています。

 彼は想と紬の距離が近づいてゆく不安と、聞こえなくなった想を受け入れがたい苦しみに焼かれながら、悲痛な声を上げる胸をもてあましているようです。

 そんな湊斗を見つめることしかできず、途方に暮れる想の昏(くら)い瞳。その目の奥ににじむ哀しみ。

 湊斗を思いつつ、もっと想を理解したい紬、紬を失う怖れはあるも想を見過ごせない湊斗、元恋人と親友――再び動き出した人間関係に戸惑う想。

“紬”には「繭から糸を引き出す」という意味があります。“湊”は、文字どおり「みなと」、そして「人が集まる」という意味も持っています。ひとり繭に閉じこもっていた想は紬に手を引かれ、湊斗に導かれてまた仲間と集う日を迎えるのでしょうか。

 お互いがよかれと想って選んだ道は、相手に幸せをもたらすでしょうか。

◆『silent』は現代の「賢者の贈り物」

 O・ヘンリーの「賢者の贈り物」は、貧しい夫婦がクリスマスに互いのいちばん大切なものを手放して愛する人に贈り物をする物語です。妻は美しい髪を売って夫の時計に付ける金の鎖を買い、夫は時計を売って妻の髪に飾る櫛(くし)を買います。贈り物の包みを開けたとき、夫婦はふたつの宝物を失くしたことに気づきます。

 きちんと話し合っておけば行き違いはなく、ふたりは何も失わずに済んだかもしれません。けれど彼らは、「たとえ自分が大事なものを諦めようと、愛する人には幸せになってほしい」と願う、互いの真心を手にしたのです。

 想も、紬も、湊斗も、相手を思うがゆえ切なさを自分が引き受けようとしてきました。しかし真実が明らかになった今、もう心の声をふさぐことはできません。

 豊かに“声”を上げ始めた彼らがどんな未来を拓いてくれるのか、応援しながら見守りたいと思います。

<文/みきーる イラスト/二平瑞樹>

【みきーる】

ジャニヲタ・エバンジェリスト。メンタルケアカウンセラーⓇ。女子マインド学研究家。応援歴20年超のジャニーズファン。女心を知って楽しく生きるためのライフハック“女子マインド学”を提唱。著書に『ジャニ活を100倍楽しむ本!』(青春出版社)『「戦力外女子」の生きる道』他。Twitterアカウント:@mikiru、公式ブログ:『ジャニヲタ刑事!』