秋クールのドラマが盛り上がりを見せるなか、ひと際注目を集めているのが、川口春奈×目黒蓮の出演する『silent』(フジテレビ系、木曜夜10時~)。その人気ぶりは、ロケ地のカフェにまで連日長蛇の列ができるほどです。

『silent』
『silent』第4話より(画像はリリースより)
4話のTVer再生数は配信後1週間で582万を記録し、TVerで配信された単話全番組での最高記録を更新しました。

あっという間に前半の第5話までが終わってしまい…毎週涙なくしては観られない作品『silent』。本作がなぜ、私たちをここまで魅了するのか。その理由を考察してみました。

※この記事は、ドラマ5話までのネタバレを含みます。

◆1分でわかる『silent』あらすじ

高校時代、主人公・紬(川口春奈)は同級生の想(目黒蓮)と互いに惹かれ、恋人同士に。しかし想は高校卒業後、徐々に耳が聞こえにくくなる“若年発症型両側性感音難聴”を発症し、そのことを紬に隠したまま別れを告げるのです。

そして8年後、紬は同じく高校の同級生である湊斗(鈴鹿央士)と交際中。同棲の準備を進めていた矢先、かつての恋人で音を失った想と再会します。

11月3日放送の第5話では、紬から身を引くことを決めた湊斗と、湊斗と別れたくない紬の想いが錯綜(さくそう)。結果としてふたりは別れを受け入れて、前を向こうとする様子が描かれました。

◆“定番”の展開を裏切り、繊細な心情を描く

本作は、連続ドラマデビューとは思えない生方美久(29歳)の脚本がとにかく素晴らしい! 当初「音のない世界で再び出会ったふたり」という設定に、つい“ありがちなドラマ的展開”を想像してしまった筆者ですが、もう脱帽しかありません。ごめんなさい。

例えば、第2話の終わり。ふたりで会っている紬と想を目撃し戸惑う湊斗の姿をみて、筆者は「ドラマ的な展開としては、やはり湊斗は当て馬か…」「想への嫉妬に狂っちゃうのかな…」などと勝手に予想。

しかし、そんな単純な構図ではありません。湊斗は、紬を想う一方、友人として想のことも大切にしており、その複雑な気持ちや戸惑いが繊細に描かれました。

結果として紬と別れることになりましたが、湊斗と紬がどのように心を通わせたのか…高校時代に交際する紬と想を湊斗がどんな心情で見つめ、どんな行動をとったのか。すべてを自然な展開で魅せられた第5話は、湊斗を「当て馬」「可哀想」などと思った自分を殴ってやりたくなるほどの衝撃でした。

◆淡々と交わされる会話にこそドラマがある

いわゆる“説明台詞”が少ないのも印象的な本作。登場人物による心情や関係性の説明も、ご都合主義とも捉えられがちなドラマ的な展開も少なく、登場人物たちの“会話”でのみ物語が進みます。

人の気持ちや言動は複雑。「別れる」という事象ひとつでも多くの感情が錯綜し、周囲の人の心をもかき乱すものです。そんな感情を分かりやすく説明する台詞は登場しません。あくまで日常的な会話のなかで、互いを大切に想う気持ちや、頭では分かっていてもどうにもできない心の揺らぎを表現しています。

視聴者は、彼らのやり取りから、それぞれの感情を想像せずにはいられないのです。だからこのドラマ…倍速視聴や、“ながら見”が実に困難。何気ないやり取りから、一人ひとりの人間性が徐々に浮き彫りになり、物語の世界に引き込まれていくところにも脚本と演出の秀逸さを感じます。

◆名優たちの「涙」に、こっちも涙が止まらない!

もうひとつ特筆したい本作の魅力は、俳優陣の “涙”です。数多くの作品に出演してきた主演・川口春奈を筆頭に、夏帆、風間俊介、篠原涼子…と、演技派が揃う安定感のあるキャスト陣。それに加え、若手の実力派の鈴鹿央士、そして目黒蓮の演技に魅せられます。その高い表現力は、各話で流される美しい“涙”が物語っているのです。

特に衝撃だったのは第1話のラスト。想の耳が聴こえなくなっている事実を知らず、8年ぶりの再会に驚喜する紬に対して、想が「会いたくなかった、お前うるさい…」と手話だけで心情を吐露するシーンです。

歯がゆい気持ちが痛いほどに突き刺さった目黒の男泣きに、突然の出来事への戸惑いと言葉が通じない切なさからこぼれた川口の涙…。各々の役柄が抱えている心情を最大限表現する“涙”に心奪われ、もらい泣きせずにはいられません。

◆ずっと『silent』の世界に浸り続けていたい

物語の組み立て、会話のリアリティ、絶妙な回想と音楽の入り方、演者の表情、…そのすべてが細やかで美しい本作も、いよいよ後半戦。登場人物の行く末ももちろん気になりますが、ずっと『silent』の世界に浸り続けていたいと願うのは、筆者だけではないはずです。

<文/鈴木まこと(tricle.llc)>

【鈴木まこと】

tricle.llc所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201