◆隠れた性的虐待の被害者がいることを知ってほしい

――『母の再婚相手を殺したかった』では性的虐待を受けた経験が描かれています。書籍として多くの人に読まれることに対して抵抗はなかったですか?

魚田コットンさん(以下、魚田):性的虐待に関する漫画を初めて掲載したのは私のブログ(『甘辛めもりぃず』)だったのですが、そのときから「いつか書籍化されるといいな」と思っていたので抵抗はありませんでした。

 ブログで発表したときに、同じような経験をした方からたくさんのメッセージをいただいて共感してもらえたり、「漫画を読んで希望が持てました」とコメントをくれる方もいました。もし本になったら、そう思ってくれる人がもっと増えるんじゃないかなと思いました。

 性的虐待の被害者は被害を隠すことが多いので「見えない虐待」になりやすいところがあります。そのため、特に男性は「性的虐待なんて、めったにあることじゃないでしょ」と思っている人も多いと思います。この漫画が、性的虐待されている子どもが実はたくさんいることを知ってもらうために役立ったらいいなと思います。

◆「やっぱり描けない」と、やめたことも

――性的虐待についてブログに描くきっかけは何だったのでしょうか?

魚田:性的虐待について描く前に、私の実父の話を描いたんです。(『生き別れの父から突然連絡が来た話。』)。読者が私の過去の話に興味を持ってくれるのか、まずはジャブを入れてみようと思ったので。そうしたらたくさんの反響があったので、「このタイミングじゃないか」と思って継父の話を描き始めました。

――執筆中に辛くなることはありましたか?

魚田:ブログで本格的に描き始める前にも一度描こうとしたことがあったのですが、そのときは辛くて「やっぱり描けない」と思ってやめたことがありました。そのときから「いつか描ける気持ちになったらやろう」と思っていたので、今回は「やっとそのときがきた」と思って執筆していました。

◆夫の反応は?

――身近な方の反応は心配ではありませんでしたか?

魚田:身近な人達に「引かれるかもしれないな」という気持ちはありました。でも、それで離れていくような人は「そこまでの関係だったんだ」と考えるようにしました。実際に読んでくれた友達から嫌なことを言われたことはないですし、性的虐待の話題が出ることも特にありませんでした。

――魚田さんの旦那さんの反応は?

魚田:夫は私の2つのブログのどちらも見ていないんです。夫には「何を描いてもいいよ」と許可をもらっています。私が「夫の悪口を書くかもしれないよ」と言っても「俺は見ないからまったく痛くも痒くもない」と言っています(笑)。今回も夫は本が出ることは知っていますが、どんな内容かは教えていません。

――旦那さんに性的虐待について話したことはありますか?

魚田:話したことはないです。でも夫は何となく私が継父を好きではないと感じていると思います。本が出たタイミングで話そうかと思ったのですが「もう別に話さなくてもいいかな」と思ったので話していません。

◆描くことで気持ちが整理されていった

――性的虐待の被害者は思い出すことが辛かったり、忘れてしまいたい気持ちが強い人も多いと思いますが、魚田さんはいかがでしたか?

魚田:記憶が曖昧な部分も少しはあったのですが、私は嫌な記憶を鮮明に覚えてしまうタイプなのではっきりと覚えていました。書籍化のために執筆をする段階では、描くのが辛いという思いは全然なかったです。

――ブログに一度描いたことで気持ちが整理されたのでしょうか?

魚田:最初に「ブログに描こう」と決めたときには自分の中で8割くらい消化した状態だったと思います。それを漫画にしていくことで、さらに気持ちが整理されていきました。

――気持ちを整理するために誰かに相談したりしましたか?

魚田:描いている途中でブロガー仲間に「こんな暗い話ばかり描いていいのかな」と相談したことはあります。みんな「頑張れ」と背中を押してくれました。

――性的虐待の被害者の方に、どんなメッセージを送りたいですか?

魚田:被害者の方からコメントをいただいたときは必ず「自分を大切にしてください」と言うようにしています。被害に遭った過去に囚われて未来まで暗いものなってしまったら悲しいので、「自分を大事にして、楽しいことをいろいろとやってみたほうがいいですよ」と伝えたいと思います。

<取材・文/都田ミツコ>

【都田ミツコ】

ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。