カラフルをテーマに、華やかに盛り上がった第72回紅白歌合戦。ですが、世帯視聴率は第1部=31.5%、第2部=34.3%(いずれも関東、ビデオリサーチ調べ)で、2部が過去最低だったことが話題になっています。
上白石萌音の控えめな演出が、逆に目立った
そんな中、初出場した上白石萌音(23)の、堂に入ったナチュラル感が印象に残りました。 昨年リリースしたシングル『夜明けを口ずさめたら』を、ピアノと弦楽器によるアレンジで披露。淡いトーンの衣装に、ごくごく控えめな照明は、ややもすると地味で終わってしまいそうなほど、慎ましい演出でした。
けれども、これが色彩を強調しまくった番組の中で、かえって存在を際立たせたから面白い。四方をフラワーアレンジメントで埋め尽くしたステージに、色とりどりの衣装で登場する出演者と司会陣。こうして色彩同士がケンカしあう状況で、上白石萌音だけは色の渦に埋もれずに済んだように思います。
上白石萌音「夜明けをくちずさめたら」収録のアルバム『note』(Universal Music)
歌にもあらわれていた絶妙な安定感
そのナチュラル感は、彼女の歌にもあらわれていました。才気走っているわけでもなければ、おぼつかないわけでもない。上手だとちやほやされたり、下手を理由に叩かれる心配もない、絶妙な安定感。
こう書くと、とてもつまらない歌のように感じるかもしれませんが、決してそうではありませんでした。上白石萌音という歌手は、安定したアベレージの中で、きっちりと緊張感を生み出せるのです。
最初から一本調子で力を込めるのではなく、どこでエネルギーを使うべきかの判断が優れている。『夜明けを口ずさめたら』ならば、サビ前の転調から<みんな月をみてる 誰かを想いながら>を、ギリギリの全力感で押し出す。その後の<いつの日かとなりに座って 夜明けを口ずさめたら>では、トーンを落とす。音楽を文脈としてとらえ、強弱をつけることで、曲がピリッと締まるのですね。