最先端を見たいならシリコンバレーを見に行け!そう言われていた時代は、もはや過去のものになりつつあるでしょう。日本のビジネスリーダー達も、“最先端”の矛先を中国に向けるようになってきていると言います。今回はコンサルティングファームの株式会社KI Strategy代表・今井健太郎さんに、世界的な人気SNSアプリの仲間入りを果たした「TikTok(ティックトック)」について解説してもらいました。
グレートファイアウォールのお膝元
これまで、中国のサービスはその膨大な国内人口と、グレートファイアウォール(中国のネット検閲システム)に守られた環境の中で生み出されてきました。ただしそれは、あくまでも他国で生まれたものの“中国版”にすぎないとの認識です。
例えば、次のようなサービスを挙げることができます。
Google→百度(バイドゥ)
Amazon→淘宝網(タオバオ)
YouTube→优酷(ヨウク)
LINE→微信(ウィーチャット)
Twitter→微博(ウェイボー) など
そんな定説を打ち砕き、中国発で世界的な人気SNSアプリとなった「TikTok(ティックトック)」を開発したのが、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)と共に中国ネット大企業の一つと称される、ByteDance(バイトダンス)です。
なお、中国では「TikTok」というアプリはなく「抖音(Douyin)」として、ByteDanceが運営しています。つまり、TikTokは、Douyinのグローバル版という位置づけです。
ByteDanceの創業は2012年。2018年には企業価値750億ドル(約8兆円)とも報道されました。
TikTokが知れ渡る前に、「音楽に合わせて、15秒程度の短い動画を共有するアプリを作りたい」といった企画が社内に上がってきたら、あなたならどう考えますか?一見、受け入れられそうもないアイディアに世界が熱狂するようになったのです。
ショートムービー(動画)市場×スピード感
ByteDanceの創業者は1983年生まれの張一鳴(チャン・イーミン)。大学ではソフトウエア工学を専攻し、旅行検索サイトや不動産検索サイトなどを立ち上げてきた、いわゆるシリアルアントレプレナー(連続起業家)です。張は、文字や写真に次いで動画の流れが必ず来ると見据えていました。
急成長を遂げるByteDanceの特徴の一つは、その「スピード」の速さです。ユーザーに質の高いサービスをいち早く提供するため、当時アメリカでブームの芽が出ていた、ショートムービー作成アプリ「Musical.ly(ミュージカリー)」を2017年11月に10億ドル(約1,100億円)で買収。
DouyinとMusical.lyのアプリを統合することで、目の肥えたスマホユーザーを納得させるアプリ(TikTok)を、短期間でマーケットに投入することができたのです。
動画への傾注という張の読みが正しかったことは、中国現地では如実に体感することができます。電車などの交通機関で動画を視聴している人が、日本より明らかに多いのです。そして、中国のオンラインショッピングサイト(淘宝網など)を覗けば、商品レビューなどに動画が幅広く活用されています。
お手本とも言えるマーケティング
TikTokは、日本においてアプリをマスで流行らせるための教科書的なマーケティングを実行しているとも言えます。
それは、まずは若者にターゲットを据えるということです。実際にTikTokと言えば、“若者向けのアプリ”というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか?
マス向けを狙うサービスの初期ペルソナを、若者向けにフォーカスすべき理由はいくつかあります。「新しい流行やトレンドに敏感」「学校やサークルなど集団生活を実施している割合が高い」「インターネットやアプリの活用にハードルが全くない」などが挙げられるでしょう。
一方である年齢を超えると職場や家、趣味などが多様化しマスとして捉えることが難しくなります。60代男性から火が付き、マスに広がったサービスはほぼないに等しいでしょう。
ただし実際にお金を持っているのは、「若い世代」ではありません。若い世代に流行らせた後に、上の世代を狙っていくのが定石です。
最近まで放送されていた、俳優・中村倫也とお笑い芸人のニッチェが登場するTikTokのCM。こちらのCMでは、若い世代に流行している「ダンス動画」だけでなく「グルメ」「スポーツ」「旅」「動物」などバリエーション豊富なコンテンツを紹介しています。
TikTokが、若者だけでなく、幅広い世代にも楽しんで貰えることを強調しているのです。
「マスを狙うならまずは若者を狙え、流行ってきたらお財布を狙え」。教科書的なマーケティングですが、TikTokは、まさにこれを成功させたと言えるでしょう。