LDH史上最大規模で開催され、応募総数4万8000人を数えたオーディション「iCON Z ~Dreams For Children~」。本オーディションで、「ガールズグループ」部門のプロデューサーを担当したのが、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE(以下、三代目JSB)のツインヴォーカル・ØMIさんだ。
オーディションに密着する番組『~夢のオーディションバラエティー~Dreamer Z』が、毎週よる9時からテレビ東京で放送されており、10月2日に放送された第47話では合格者のメンバー7人がスタジオにゲスト登場した。過酷なMissionを勝ち上がるにつれ、技術力に増して人間力に裏打ちされた表現性を養ってきた彼女たちの堂々たる姿に思わず目頭が熱くなった視聴者も多いはず。
今回は、「イケメンとLDH」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、同番組の収録後、ØMIさん(登坂広臣さん)に独占インタビューを行なった。約1年間に及んだオーディションを振り返ってもらいながら、ØMIさんが思い描く「プロデューサー像の理想」やガールズグループと歩みだした「未来」について聞いた。
※『~夢のオーディションバラエティー~Dreamer Z』は、Paraviにて見逃し配信中
◆約1年間に及んだオーディション
――この取材場所にくる途中、オーディションをくぐり抜けてきたガールズ7人が、エレベーターから降りてくるところに遭遇しました。とても礼儀正しい印象を受けましたが、やはり厳しい特訓を経て、すでにアーティストの卵としてかなり様になってきたなと思います。
ØMI:このオーディションは、応募総数が4万8000人と素晴らしい才能がひしめく中、書類審査も含めると1年以上のオーディションでした。難しい課題をくぐり抜けてきた彼女たちが、今回はじめて番組収録に参加し、もう初々しさで溢れています(笑)。
僕はプロデューサーとしてずっと側でみていましたが、番組MCの木梨憲武さんを筆頭に、スタジオのモニターに映るVTR越しでみていたゲストの方々から、彼女たちの実際の印象について嬉しい言葉をいただけるのはありがたいことです。
――二次審査が、去年の11月から12月に渡って行なわれました。勝ち上がった30名が自己紹介を行う放送回では、まだ和やかな雰囲気でしたが、いざ1st Mission審査になると一転。週末合宿の厳しい指摘と指導によって、候補生の課題点がどんどん浮上しました。プロを目指すクオリティと技術を修練するとともに、やはり人間力と精神力を見極めていたのでしょうか?
ØMI:そうですね。オーディションの評価はあくまで個人。でも審査はグループごとに行ないます。各ミッションでチームを作り替え、新たなチームで新たな楽曲と課題に取り組んでもらうことに、僕らプロデューサー陣の真意と狙いがありました。
彼女たちは、ライバルであり仲間でもあるわけですが、それぞれに切磋琢磨していました。編成されたグループ内で自分だけが成長するのではなく、隣にいる仲間のことも引っ張ることでさらに学びがある。人間としての成長を養ってもらいたいと思っていました。
各ミッションを通じて、仲間のことを思い、涙する。同じステージに立てなかった人の分まで頑張る。そうした思いを彼女たちが口にして、どんどん強くなっていきました。審査する側も、彼女たちの内面が成長する姿を噛み締めていました。
◆「出来ないものを出来るようにしていくことに意味があります」
――ガールズたちの成長物語は、まるでワンクールのドラマをみているような感覚でした。ØMIさんのコンセプトとして歌って、踊れるガールズグループが念頭にありました。歌の才能がある候補生でもダンスの経験が浅かったり。その逆もしかり。いずれかに特化させる方法もあるわけですが、なぜ、歌と踊りの両立を求めたんですか?
ØMI:オーディションがはじまる前、共同プロデュースのHYBE LABELS JAPANさんとの打ち合せ段階から、5人組のガールズグループをイメージしていました。音楽性やパフォーマンスについて加味しながら、グループのコンセプトや人数が出来上がり、プロデューサー陣の間で共通認識を持った状態でオーディションがはじまりました。
ダンスしか出来ない、歌しか出来ないではなく、出来ないものを出来るようにしていくことに意味があります。合格した7人のうち、例えばHANAは、ダンス経験が浅く、不安を持っていました。それを個人戦ではなく、グループ審査にすることで、普通なら10伸びるところを50伸びるようにしたんです。
――歌とダンスの相乗効果だったわけですね。
ØMI:RUANは、最初からスター性があり、ヴォーカル・スキルも兼ね備えていましたが、今度は逆の発想で彼女にはラップにトライしてもらいました。もちろん一定のレベルでラップが出来ることは分かっていましたが、彼女の中に眠っている新しい自分を発見してほしいと思いました。ダンス、歌、ラップとミックスするものが多かった今回のオーディションは、ほんとうにレベルの高いものになったと思います。
◆「涙をこらえて再び立ち上がることの強さ」
――課題審査では、一生懸命考えたことも、プロの目からすると箸にも棒にもかからず、手厳しい言葉を受ける。少しは褒められるかもという甘い期待は砕かれます。彼女たちの、このもどかしさ、歯痒さを、ØMIさんはプロデューサーとしてどんな気持ちでみつめていましたか?
ØMI:今回のオーディション審査では、僕がトップのプロデューサーでしたが、音楽プロデューサーのALYSAさん、ダンストレーナーのRuuさん、ヴォーカルプロデューサーのEmyliさん、サウンドプロデューサーのZEROさんと、各分野のプロフェッショナルの目線が必要でした。僕の提案で5人のプロデューサーチームを作らせてもらいましたが、多分、僕ひとりでは、候補生の彼女たちが紡ぐ物語の細部にまで気づけていたかどうか。
ダンスならRuuさん、ヴォーカルならEmyliさんが厳しい指導の中で、出来ていないところは出来ていないとしっかり伝えていく作業が大切です。各分野のプロフェッショナルの方に直接アドバイスをもらえる環境で、心が砕かれようが、ダメ出しをもらおうが、それが彼女たちの成長に繋がります。それは、僕自身、2010年の「EXILE presents VOCAL BATTLE AUDITION 2~夢を持った若者達へ~」の経験から感じていたことです。
番組では特にEmyliさんの厳しい指導風景が描かれました。でも彼女は、ほんとうに候補生ひとりひとりのことをずっと考え、誰よりも愛を持って接している人です。Ruuさんもそうですが、涙をこらえて再び立ち上がることの強さを僕らプロデューサーチームは知っているので、愛があるからこそ、そこは心を鬼にしてやってきました。
僕の場合、各ミッションの後に合否を伝える立場です。ほんとうは心でずっと泣いていましたが、それをぐっとこらえて、自分の人間らしさを彼女たちにみせてはいけないと思っていました。
――Final Missionの課題曲「Lonely」をEmyliさん自ら歌う場面が、ぐっときました。ØMIプロデューサーも涙をこらえた瞬間はたくさんあったわけですね。
ØMI:毎回心の中でずっと泣いていました。
◆アーティストとしてそこに存在するためにはビジュアルも重要
――ビジュアルディレクターのSARAさんのサポートも大きいですよね。
ØMI:プロデューサーチームとしては紹介していませんが、SARAさんのことは昔から知っています。彼女にも書類審査から参加してもらいました。メイクやヘアスタイルひとつで、ガールズたちの表情や印象はがらっとかわるものです。そしてその見た目が、彼女たちの自信として内側から出てきている。もぞもぞして不安げな表情を浮かべていた子たちが、SARAさんの手にかかると、凛としてステージに立っている印象を与えます。
アーティストとしてそこに存在するためにはビジュアルも重要です。その意味でビジュアルディレクターとしてのSARAさんの貢献は、物凄く大きい。ビジュアルだけではく、距離が近い分、彼女たちのメンター的な役割にもなっています。プロデューサー陣には言えないけど、SARAさんには言えるという安心感です。
Final Mission審査で、何10センチも髪を切った候補生もいました。何かのきっかでそこまで切るには勇気がいると思います。僕も元美容師だったので、心境は分かるつもりですが、でもそこはSARAさんとガールズたちとの信頼関係があるからこそ、それを後押ししたんだと思います。
――3rd Missionで、バレエの表現力を活かしたANRIがうまく表現できず、行き詰まり、涙します。そのときSARAさんが、ANRIらしさを言葉にしたらいいと指摘していました。彼女はそれを形にしてFinal Missionを前に1位になります。アーティストとして自分の表現を言葉に置き換えることは重要ですよね。
ØMI:自分も13年近くアーティストをやってきて、ステージに立つことがほんとうに大変なことだと実感しています。当然ですが、たとえ精神状態が保てないときでも、自分を削ってステージに立たなければいけないときだってあります。そういったとき、自分の気持ちを言える仲間は必要だと思うんです。
そうした経験から僕なりに学んだことは、候補生の彼女たち個人個人に言っています。僕は、彼女たちに対して24時間、365日、いつでもその間口を開けているつもりです。
◆自分が思い描くプロデューサー像の理想
――より大きなステージに立っている自分が想像できるようにと、ガールズたちを、ソロライブに招待する一幕がありました。「先生からは以上です」とすこし照れ笑いを浮かべていたØMIさんの表情が印象的でしたが、先生からアーティストという新しいスイッチができた感覚でしょうか?
ØMI:僕もどういう立場なのか、あのときはあんまり分かっていなかったかもしれないですね(笑)。みんな礼儀正しい生徒のようでした。
――その場面をみて、ふと思い出したのが、前回のインタビューで、ØMIさんが自分のことをライブアーティストと定義されていたことです。すべての活動がライブに繋がるんだと。今回プロデューサーを経験したことはまた別方向からのライブへのアプローチになりましたか?
ØMI:そうですね。もっと自分の殻を破ってほしい、もっと成長してほしいという思いを彼女たちに投げ続けた1年でした。一方で、彼女たちとともに自分も成長しなければならないとも思いました。自分の経験に基づいた物言いで、こうしたほうがいい、ああしたほうがいいとだけ伝えるのではなく、彼女たちが走るときは自分も走るし、彼女たちが歩くときはぼくも歩く。それが自分が思い描くプロデューサー像の理想です。
最終的な合格者となった7人の人生が大きく変わりましたが、彼女たちに合格を発表した日は、僕の人生が変わった日でもある。彼女たちが成長していく歩み方は、イコール僕の歩み方だと思うんです。ここまで見届けたから終わりではなく、この先のデビュー、そしてデビューの先まで、いつでも同じ目線に立って話したいなと思います。
それによって自分も成長していると思います。また自分がステージに立つとき、ファンの方々が僕の姿をみて、今回のオーディションによって養ったことをライブパフォーマンスとして大きく感じ取ってもらえたらいいなと思います。
――それが自分の中の「ANSWER」のひとつになっていたりはしますか?
ØMI:これまでの僕は、こんなプロデューサーになりたいと思う自分、三代目JSBの一員としてヴォーカリストを担う自分、ソロのアーティストとしてソロの世界を描く自分、とどこかで使い分けていました。でも、ソロ名義「ØMI」でコンセプチュアルな世界観を追求した「ANSWER」シリーズを作ったり、全国9会場17公演を回るアリーナツアー『ØMI LIVE TOUR 2022 “ANSWER…”』やオーディションをやっている間に、当たり前のことですが、僕はひとりしかいないと気づいたことは大きかったです。
◆未来を感じさせてくれる存在
――実は、今日、9月15日は、2010年にØMIさんと今市さんがオーディションに合格したあと、ツインヴォーカルを組んだ日です。
ØMI:えっ! そうなんですね(笑)。
――SNSでは、朝から賑わっていました(笑)。ØMIさんと今市さんとの記念日だと。
ØMI:知らなかった。そうなんだ(笑)
――そんな記念日を思い出していただきながら、ガールズグループ部門のプロデューサーとして過去、現在、未来をどのように考えていますか?
ØMI:ガールズグループ部門のプロデュースを通じて当時の自分のことをたくさん思い返しました。その意味で過去を感じ、現在は今まさに彼女たちと歩んでいます。先日アナウンスさせていただいたように、2023年は三代目JSBが再び始動します。そこに向けて準備している自分もいます。
合格者7人には、自分の夢を託しているし、それを叶えたいです。未来がどうなるかは分かりませんが、逆にどんな未来が待っているのかワクワクしています。だからもしタイムマシーンがあっても、未来を知りたくありません(笑)。その瞬間瞬間、未来を感じさせてくれる存在が、彼女たちです。
――ØMIさんがオーディションに合格してから今日で丸12年、明日から13年目がはじまります。それは同時に7人との新たな年にもなりますね。
ØMI:はい、素晴らしい年になったらいいなと思います。
◆取材を終えて…
ØMIさん、2回目の取材。約1年に及んだオーディションがクライマックスを迎える『iCON Z~Dreams For Children~』のガールズグループ部門プロデューサーとしての仕事を浮き彫りにすべく、取材日当日の深夜まで質問案を練った。何といっても臣くんである。気概十分で臨んだ取材では、前回の取材同様にまず、テレビ東京で毎週日曜日よる9時から放送されている番組『~夢のオーディションバラエティー~Dreamer Z』の収録を見学した。今回は、別室のモニターでの収録見学だった。でもこれが、スタジオ内での見学より、思いの外、ドキドキ、ドキドキさせられるのだ。
収録を終えたØMIさんが、そのままこの別室にやって来る手はず。そりゃ緊張するに決まっている。1時間強の収録中、何度も時計を見た。針が進むにつれ、ああいよいよやって来るのだと何度も思った。待つことのドキドキ感を楽しみながら、取材時間を迎えた。
部屋に入ってきたØMIさんは、鏡の前の椅子に深々と座る。優雅な居住まいで、こちらの様子を伺っている。限られた時間を無駄にしてはいけない。筆者は練りに練った質問案をどんどん聞いた。ひとつひとつ、インタビュアーの言葉に耳をすませ、それを咀嚼して言葉を紡ぐ。その内容は、インタビュー本文でご一読いただいた通り。
取材日は、9月15日。締めくくりに、2010年の今日は、何を隠そう、ØMIさんが、「EXILE presents VOCAL BATTLE AUDITION 2 ~夢を持った若者達へ~」の最終審査を今市隆二さんとともに合格した日。それを本人に伝えると、「えっ!」と驚きの反応。そして一瞬、斜め上へ視線を滑らせる……。
取材の締めくくりとして、これほど、脊髄反射的で、さらにイルでドープな瞬間を筆者は他に知らない。音楽の世界でイルでドープと言うと、最大限のイケてる状態を表現できる。それを音楽的にも人間的にも全身で体現するØMIという存在が、そんな記念日の奇縁によって今回の取材日に、筆者を呼び込んでくれた、と思うのはあまりに贅沢なことだろうか?
取材部屋をあとにしようとしたØMIさんが、ふと筆者の口元をみて、「マスクありがとうございます」とも。ソロツアー『ØMI LIVE TOUR 2022 “ANSWER...”』のグッズであるØMI印付きの黒いマスクをつけて取材に臨んでいたのだ。紳士的で、細やかな心遣いを感じた。こんなおまけ付きで、ØMIさんは、甘やかな余韻を残していった。
◆三拍子揃った超人的プロデュース力
ところで、普段なら今市隆二さんのようなR&Bシンガーのマチュアなトラックをヘビロしている筆者だが、今回ばかりは、ØMIさんが音楽的なルーツとするEDMの重低音に身体がうずいた。
2次審査で、ガールズたちが思い思いに踊ったナンバー「Can You See The Light」やアフロジャックがサウンドプロデュースを手掛けたソロ1stシングル「WASTED LOVE」を取材準備中に、いったいどれだけヘビロテしたことか。そこには、こうしたダンスナンバーが夜更けのクラブフロア空間に轟いたら、どれほどノれるだろうかと、身勝手だけれど、切実な夢想が織り込まれてもいただろう。
ともかく、それだけ、リスナーの心を捉えて離さない求心力と中毒性があるのが、いかにもマジカルなシンガーの趣きだ。マジカルな閃きと言ってもいいかもしれないが、この閃きは、どちらかというと、ジャズのグルーヴ感に身を委ねる瞬間に似ている。なるほど、取材部屋で、どしっと構えていたØMIさんの余裕を感じる居住まいは、EDMではなく、どこかジャズ的に成熟したものだった。
取材者に紳士的な対応をする人間性、ドームでファンを熱狂させるカリスマ性、そしてガールズグループを編成するために骨を砕くプロデュース力。ここまで三拍子揃ってしまっては、超人と呼ぶほかないではないか!
<取材・文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu