A. 以前に比べ犬の寿命が伸びて来ています。与える食事、飼育環境の改善がなされてきたこと、そして獣医療も進み病気の予防や治療が十分におこなわれるようになってきたことなどがあります。しかし、犬の寿命が延びて高齢化がすすむのと同時に人の認知症に似た症状もみられるようになってきました。

認知症は、犬では13歳以上になると老化によって脳神経細胞の活動が衰え、知性、感情、運動をコントロールする自律神経の機能が低下するために起こるものです。犬も個体によって、認知症が起こる年齢も程度も異なり、18歳を超えても認知症にならない犬もいますが、13歳以下では認知症の発生はほとんどみられません。なぜ認知症になってしまう犬とならない犬が発生するのかはまだわかっていません。

「認知症になるとどんな症状?」
認知症の症状は多くのケースで徐々に起こり、だんだん進行していきます。しかし高齢犬で何らかの病気が悪化し、そして回復した後で急に症状が出現することもあります。そして認知症の症状が出現しても、数年も生存することがあります。

認知症状としてよく見られるもには、大きな抑揚のない一本調子の鳴き声が意味もなく続いたり、昼はほとんど寝ているのに、夜起きるという昼夜逆転や(生体時計のずれ)、夜中に放浪をはじめ、狭い所に入っては鳴きわめくといった行動も見られるようになります。そして飼主の識別はできず、なにが起きても反応せず、表情も何ら変わらず、トレーニングした行動も全て忘れ、歩行はとぼとぼと前進のみになり、時には歩行は円を描くようになる(旋回運動)こともあります。

症状が進むと、部屋の角で動きがとれなくなり、鳴き出すこともあります。しかし食欲は旺盛でいくら食べても下痢もせず、かつ痩せてきます。このような症状が愛犬にみられたら認知症のはじまりと考えてください。

●「認知症になると何が問題か」
認知症になった犬の顔は、非常に穏和になり、顔をみているだけで心が安まります。しかし異常な行動が見られるようになれば、飼主の制止は全く聞きません。穏和な顔からは考えられない頑固者に変わります。そしてこの異常な行動は、夜中に多く起こるために飼主とのコミュニケーションがとれなくなり、家庭内での問題点となります。

犬の認知症テスト(13歳以上)
・夜中に意味もなく、単調な声で鳴き出し、止めても鳴き止まない。
・昼寝て、夜起きて行動する昼夜逆転がおきてくる。
・歩行は前にすすむだけでとぼとぼと歩き、円を描くように歩く(旋回運動)。
・狭い所に入りたがり、自分で後退できないで鳴く。
・飼主も、自分の名前もわからなくなり、何事にも無反応になる。
・よく寝て、良く食べて、下痢もしないのに、痩せてくる。
この5項目中2項目以上あてはまるものがありましたら、「認知症」を疑ってください。

●「認知症の症状が出現したらどうする」
飼育環境の工夫を
まずひとつめの方法は、風呂用マット三枚を丸くつないだ自作のケージ「エンドレスケージ」の利用です。認知症になった犬はこの丸いエンドレスケージの内にいれば角がないために、どこまでも前に進むことができ、やがては疲れて眠りにつきます。
ケージの床には吸水性のあるペットシーツや洗えるマットなどを敷き詰めるなど、工夫をしてあげて下さい。認知症犬は尿や便で体が汚れますと、極端に嫌がり鳴き叫びます。

●獣医師に相談してください
近年は犬の認知症の治療も進み、適切な治療でボケの諸症状、とくに夜中の鳴き声と放浪が改善されるケースも増えてきておりますので、もし認知症とみられるような行動に気づいたら、早めに動物病院で獣医師と相談してください。

認知症犬は老犬ですので、治療も看護もかなりの負担になります。時に異常に大きな声を発することもあるので、隣人にも気を配る必要がありますし、真夜中の放浪で飼主が睡眠不足になり、その結果、肉体的にも精神的にも疲れてしまい、コンパニオンアニマルである愛犬との良い関係も壊れるかもしれません。今はこのような事態に直面していない若い犬であっても、やがて年老い、必ず介護が必要になるときがきます。

昼と夜が逆転してしまったり、過度の吠え声、排泄の問題などが続いたりすると、飼い主さんの負担も大きくなってきますが、犬も飼い主さんもその負担を少しでも軽減するためにも獣医師の治療やアドバイスを受けてください。

長い時間一緒に過ごしてくると愛犬もやがて老いを迎え、このような「認知症」も現実に受け止めなければならない時がくることもあります。その時は飼い主さんの手助けが必ず必要になりますので、最後まで家族の一員として接してあげてください。

この回答は、動物エムイーリサーチセンター内野富弥先生の「愛犬の認知症を知っておきましょう」(ペピイ98年秋冬号に掲載)から引用しました。


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