今やテレビドラマの女王として主演を張る川口春奈と目黒蓮が共演するドラマ『silent』が、毎週木曜日よる10時からフジテレビ系で放送されている。

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 高校時代には恋仲だった青羽紬(川口春奈)と佐倉想(目黒蓮)だが、卒業以来、佐倉が「若年発症型両側性感音難聴」を患い、耳が聞こえなくなってしまったことから、関係性が途絶える。それから8年が経った彼らのその後を高校時代の回想とともに情感たっぷりに折り込みながら描く本作。

 2020年にジャニーズの9人組グループとしてシングルデビューした「Snow Man」のアイドル活動のかたわら、俳優業での活躍が目覚ましい目黒だが、佐倉の親友であり恋のライバルでもある戸川湊斗を演じる鈴鹿央士の演技が目を見張る。

「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、失恋の詩人のような湊斗役を全身で体現する鈴鹿の魅力に迫る。

◆相手の俳優がすり替わるマジック

 川口春奈が主演するテレビドラマはだいたい面白い。その面白さの秘密は、彼女が共演する相手俳優との見事な相性だ。記憶に新しいところでは『着飾る恋には理由があって』(2021年、TBS)の横浜流星、さらにこちらは映画作品だが、『一週間フレンズ。』(2017年)での山﨑賢人との相性も抜群だった。川口も相手の俳優も過不足なく光り、画面上を驚くほどすんなり爽やかに飛び回るのだ。

 で、今回の『silent』で川口の相手役を務めるのは、今をときめくジャニーズ(Snow Man)の目黒蓮ときた。第1話冒頭、学生服を着た川口と目黒のつややかなこと。高校生にしてすでに深い愛を育んでいる紬(川口春奈)と佐倉想(目黒蓮)の雰囲気に思わず見惚れてしまう。ところがどっこい、時は経ち、大雨の朝、青羽が目覚めたベッドで隣にいたのは佐倉ではないのだ。目黒君の爽やかな目覚まし場面が見られるかと思いきや、見事に相手役の俳優がすり替わるマジック。

 この意外な場面転換には、すっきり気持ちよく裏切られる。むしろ、裏切られてよかったのだ。なにせ紬の隣で寝ていたのが、目をくりくりさせた、これまたチャーミングな好男子・戸川湊斗(鈴鹿央士)だからである。

◆鈴鹿央士の引きの強い爽やかさ

 このチャーミングな湊斗を演じるのは、鈴鹿央士。鈴鹿君、22歳にして、すでにドラマや映画主演作多数というネクスト・ブレイクの大筆頭のような存在だ。彼の演技力とあのチャーミングな容姿をもってすれば、朝起きたベッドで、目黒君からすり替わっていても、なんの遜色ない。

 湊斗も同じ高校の同級生で、紬が今付き合っているのが彼だ。先に家を出る湊斗を紬が見送る場面では、冒頭の目黒君以上に爽やかフェイスな鈴鹿君に、一気に視聴者の興味と関心は持っていかれる。この引きの強い爽やかさは、前述した『着飾る恋には理由があって』で川口と横浜が体現していたように、ベストな波長のカップリングを成立させる。ひとまず、目黒君のことは忘れよう。

 と、思いたいところだが、ドラマの展開の常として、今彼の湊斗に対して元彼の佐倉が再び紬の心を捉えることになるのは、当然予想される。そしてここに湊斗の葛藤が浮かび上がり、鈴鹿君の演技が加速度的に面白くなってくるのだ。

◆湊斗の内面が浮き彫りにされる外見

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 鈴鹿君のプロフィールには身長178cmとあり、長身で圧倒的な小顔を誇る。ただし顔があまりに小さいので、アンバランスといえば、アンバランスなのだけれど、この外見のアンバランスさこそ、彼の演技の要だといえる。

 たとえば、彼の小顔を強調するにカメラが寄るアップの画面では、紬が湊斗の性格を指摘するように優しさをストレートに体現した温かい印象がある。一方で、彼の長身を強調するロング(引き)の画面、特に紬と並んで外を歩く場面などでは、どこか頼りない印象を与える。

 この優しさと頼りない不安定な感じが、アップとロングでそれぞれ強調される。鈴鹿君の外見の特徴を通して、湊斗の内面が浮き彫りにされる。湊斗は、高校卒業以来、再会した佐倉に紬が思いを募らせていく様子に、自分の彼女が取られるのではないかという不安を募らせていく。優しさ、不安、葛藤が混ぜこぜになった湊斗の内面性を鈴鹿君は、全身で体現しながら、演技としてうまく表現していく。

◆もうひとつの「魔法のコトバ」

 第3話冒頭、佐倉が全校生徒の前でしめやかに読み上げるのが、作文「言葉」。紬は、佐倉の声と言葉にうっとり聴き入る。湊斗は、うっとり顔の紬のことを離れた位置からじっと見つめる。鈴鹿君のさりげない視線が絶妙だ。好きな人が目の前で誰かに恋する瞬間をまざまざと見せられた湊斗は、なにを思ったか?

 紬が好きだという映画『ハチミツとクローバー』(2006年)の意味がここでわかる。同作の主題歌であるスピッツのシングル「魔法のコトバ」は、紬と佐倉の両思いを結びつけた曲。この曲は、恋するふたりにとっては得恋の歌でも、湊斗には切ない失恋ソングだ。ほんとうに切ない。その切なさを湊斗は、モノローグでこう語る。

「すごく切なくて、ちょっとだけ嬉しかった」

 ああ、なんという切なさ。佐倉が読んだ「言葉」以上に、このモノローグの言葉自体、友情と恋愛の間で葛藤する湊斗の感情をにじませる「魔法のコトバ」だ。スピッツの歌詞の世界とは別に、いわば湊斗が形成する青春の心象風景が、まるでもうひとつ、別のラブソングを奏でているようなそんな場面。第3話冒頭は、湊斗=鈴鹿君のハイライトだった。

◆湊斗の「失恋のマスターピース」

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 湊斗は、佐倉との再会を素直には喜べない。紬を取られるかもしれない不安と高校卒業以来耳が聞こえなくなった親友に対する複雑な感情が、彼の心に渦巻く。それが噴出して、紬に涙ながら自分の気持ちをストレートに訴える鈴鹿君の演技もまた見ものだ。結局紬と別れることを選んだ湊斗は、部屋で荷物を整理する紬に言う。

「自分のこと好きな人、好きになると片思いできないよね。もったいないよね。楽しいのに。片思い」

 モノローグではない通常の会話ですら、こんな詩的なことを言う湊斗は、失恋の詩人である。失恋の詩人・湊斗の見せ場は続く。ヘアピンを忘れた紬と電話で別れの儀式をすませる第5話の場面は必見だ。

 ハンバーグをこねる手をとめた紬は、電話口で湊斗のことがどれだけ好きだったか話す。川口の演技が長回しで延々捉えられる。気づけば紬が涙を流している。湊斗も電話口で涙をこらえきれずに声がふるえる。こうした繊細な演出は、さすがこの回の演出を担当する風間太樹監督の手腕だ。

 電話を終えたあと、湊斗はベッドに横になる。膝をおさえて縮こまったように眠る。カメラは彼の横顔を捉える。画面はフェード・アウトして次の場面になるかと思いきや、そのまま朝になる。湊斗が目を開ける。彼が見つめる先には紬がいる。現実か、夢か……。もちろん紬との思い出を懐かしむ回想なのだけれど、あの朝のすり替わりが、こうして再現されることで、湊斗の「失恋のマスターピース」は完成するのだった。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu