秋の行楽といえば、紅葉を見にでかけたり、美味しいものを食べに行ったり、アクティブに出かける機会が増えます。そんな行楽に欠かせないのが車。最近では安全性がどんどん進化して、一昔前では考えられないような機能もありびっくりです。今回お届けするエピソードは、そんなハイテクノロジーに助けられたカップルの一部始終です。
◆アウトドア大好きなアラサー女子
今回お話を聞いたのは、都内の保育園で働く沙羅さん(仮名・27歳)。趣味は、最近始めたホットヨガとグランピング。学生時代には山登り同好会に所属していたほど、アクティブなことが大好きなアラサー女子。
そんな沙羅さんには、付き合って5年になる直人さん(仮名・27歳)という彼氏がいるそうで、休みの日には車でデートすることが多いそう。
「実は私、~拾いとか、~掘りとかに行ったことがないんですよ。食べるのは好きなんですけど。で、去年からずっと『秋になったら栗拾いに行きたい!』って彼に言い続けてたら、行こうということになりもうワクワクだったんです」
◆栗拾いより競馬に行きたい彼
沙羅さんはネットで絶好の場所を見つけます。そこは、茨城県のかすみがうらにある栗農園。
「行き先が決まったら、あとは行く日なんですが気になるのが天気なんで、週間天気予報とにらめっこしながら、1週間後の土曜日に決めたんです」
早速ネットで予約をした沙羅さんは、少し奮発してハイグレードのレンタカーも予約したそうで。
「ところが、そのことを彼氏に伝えるとなんだか頼りない返事がかえってきたんです。あれだけ賛成してくれていたのに、がっかりです」
沙羅さんがその理由を問い詰めたところ、栗農園を予約した日に、彼の大好きな競馬のレースが開催されるからだそう。でも、一度行ったら聞く耳をもたない沙羅さんの性格を熟知している彼は、しぶしぶレースを諦めてくれました。
◆快晴のもと栗拾いを満喫
天気予報も的中し、当日は文句なしの秋晴れになり二人は我を忘れて栗拾いに没頭したそうです。
「結構腰が痛くなるもんですね! だって、ずっとしゃがみ腰になりながら地面の栗を拾いますもんね…でも、汗ばむような陽気で彼も楽しんでくれたようで行ってよかったです」
その年は豊作で、二人にはかなりの収穫があったようです。都会で育った沙羅さんは、栗を覆っているいがを実際に見たことがなく、珍しさのあまり結構な数を持ち帰ったそうです。
二人は農園の近くにあるオーガニックレストランで昼食を済ませ、農園を後にしました。
◆運転しながら競馬に夢中の彼にイラッ
帰りの都内へ向かう国道は大渋滞だったそうです。
「たぶん、天気もよかったからもしれないのですが、この辺は農園が多くってそれはそれは多くの行楽客で道路はごった返していたんです」
経験したことのない大渋滞の中、彼がなんだかソワソワし始めます。それは、その日行われる競馬がまもなくスタートするからです。
彼はノロノロ運転の中、停止するたびにスマホに目をやるようになっていきました。そうとは知らない沙羅さんは、楽しかった思い出に浸るように彼に話しかけますが、彼はすでに上の空。
◆彼の顔面に栗がヒット
もはや、会話も成立しない状況になり、沙羅さんの機嫌は急降下。
「もー!! いい加減にしてよ! せっかくのデートなのに、さっきからスマホばっかり見て! もうここで下ろして! 私一人で帰るから!」
沙羅さんは絶叫するともに、膝の上に抱えていた拾ってきた栗の袋を彼の顔めがけて放り投げましたそうです。
なんと、その中には大量のいが付き栗もあり、それが彼の眉間にヒットして流血する事態になります。彼は「痛っ! ううっ…」という鈍い声を上げながら顔に手を当てる始末。それも、車が走行中に。
◆パニックの車内、前の車にぶつかる!!
さすがの沙羅さんもヤバイと感じ、咄嗟に「ごめんなさい」と言ったものの、車はゆっくり前進しています。
「ぎゃー! ぶつかるー! ヤバイ! あー」
絶叫する沙羅さんを乗せた車はずるずる加速して前方のクルマに向かいます。
「あー!!」
彼もパニックになり血だらけの手でなんとかクルマをコントロールするも、ブレーキとアクセルを踏み間違える致命的な操作をする始末。
その数秒後、「ドスン」というショックとともにクルマは停止します。
◆ハイテク技術に助けられた二人
「本当にもうダメかと思いました。でも、ゆっくり目を開けると衝突せずに直前で自動的に停止してたんです! レンタカーだし、ぶつけたら栗拾いデートどころじゃありませんでした」
二人は顔を見合わせため息をつき、すぐにクルマを路肩に寄せたそうです。放心状態の二人は、車に備わっていた“衝突回避装置”に助けられ大事には至りませんでした。
◆仲直りしてもう一泊することに
半泣きの沙羅さんは、自分の行動に猛省する一方、彼はギリギリのところで二人の安全を守ってくれた最先端技術に興味津々の様子。
幸い、眉間の傷も流血はあったものの、その後すぐにおさまり、徐々に落ち着きを取り戻していった二人。
「私ってわがままなんですよね。ちょっとどころか、すごく反省しました。これからは彼の気持ちも十分くみとって仲良くしていきたいと思います」
二人は、そのまま夕暮れまで車で過ごし、もう一泊レンタルを延長して温泉宿に向かったそうです。ちなみに、競馬の方はまずまずの成績だったそう。
―シリーズ「秋のトホホ」―
<文/大杉沙樹 イラスト/カツオ>
【大杉沙樹】
わんぱく2児の母親というお仕事と、ライターを掛け持ちするアラフォー女子。昨今の情勢でアジアに単身赴任中の夫は帰国できず。家族団欒夢見てがんばってます。