ドラマ『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系、月曜夜9時~)の4話が10月31日に放送された。同作は、子ども専用のICUである小児集中治療室“PICU”に勤める若手医師・志子田武四郎(吉沢亮)らが、子どもの命を守るために奮闘する医療ドラマである。
4話では“母親”という存在、また役割を軸に展開されたが、どうにも語りたくなる内容だったので気になったポイントをまとめたい。
◆「“母親”であることから逃げ出したい」という告白
冒頭、PICUに重症化した生後7日の赤ちゃんが運ばれる。この子の母親・深田奈美(中田乃愛)は20歳の大学生。母親の両親に出産を反対されたために、赤ちゃんは乳児院に預けられたのだった。容態がなかなか良くならず、さらにはまだ名前も決まっていない赤ちゃんをなんとか助けようと、武四郎は奈美と接触を試みようとするも拒絶される。
小さいころに父親を亡くし、母親・南(大竹しのぶ)からの愛情を受けて育ったからか、「母親は無条件に子どもが可愛いもの」という認識が根強く、奈美の気持ちが理解できず途方に暮れる武四郎。
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— 【公式】『PICU 小児集中治療室』フジ月9ドラマ 11月7日月曜よる9時第5話 (@PICU_cx) October 31, 2022
第4話放送まであと6時間🌈
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南ちゃんと桃子🌺
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その様子を見た母親・南は「『母親なんて疲れた』って何度も思った」と発言。その場に同席した武四郎の幼馴染で現在妊娠中の涌井桃子(生田絵梨花)にも、「ももちゃんもそんな時、来ると思う。『母親から逃げ出したいな』とか、『自分には育てられないな』とか」という。
子どもを愛している母親であっても、その役割に負担を感じて逃げ出したくなることは何回もある、とわが子にキチンと説明するシーンは斬新だった。
◆大好きだけど、たまに家族であることをやめたくなる
2022年3月、『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト著、鹿田昌美訳/新潮社刊)がリリースされた。そのタイトル通り、「母親にならなければ良かった」と考えた経験を持つ女性たちの赤裸々な思いが記されている。これまでは「母親にならなければ良かった」という感情を表に出すことはタブー視されてきた。しかし、同書の発売や、小説・映画『82年生まれ、キム・ジヨン』を始めとした女性の生き辛さを描いた作品が近年大ヒットした流れを鑑みると、徐々にではあるが母親になった苦労を吐露しやすい空気感が醸成されつつあるように思う。
このシーンでも、南が「『母親から逃げ出したい』と思うことは当たり前」と奈美を始めとした母親の気持ちを代弁しており、これまでにないカタルシスを得た視聴者は多いのではないか。また、ただただ「家族はみんな仲良し」でもなく「自分を虐待した家族が憎い」でもなく、「大好きだけどたまに家族であることをやめたくなる」という新しい家族の描き方を示したように感じる。今後は両極端にならない家族の微妙な距離感を表現した映像作品が増えていきそうな、そんな期待感さえ覚えた。
◆なぜ父親の存在はスルーされてしまったのか
ちなみに、最終的には奈美がわが子と向き合う、というハッピーエンド的な締め方になった。しかし、冒頭から抱えたある違和感が全く解消されなかったことは残念でならない。
それは「この子の父親はどこにいるのか?」という疑問が解決していないからだ。子どもは女性だけでは作れない。父親の存在については、奈美の口から「あの子の父親には何度も連絡したけど連絡取れなくて」と語られるのみ。この話を聞いた際、武四郎から「父親は無条件に子どもが可愛いもの」といった旨の発言は一切なし。さらには、PICUのメンバーは誰も「父親を探し出そう」とは言い出さず、“赤ちゃんを奈美が引き取るかどうか”という軸で進んだ。
#PICU 小児集中治療室 第4話
— 【公式】『PICU 小児集中治療室』フジ月9ドラマ 11月7日月曜よる9時第5話 (@PICU_cx) October 31, 2022
ご視聴ありがとうございました🥺🥺
赤ちゃんとのシーン👶
実は…
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とはいえ、PICUに搬送された時点で赤ちゃんの親権は奈美にあり、父親との間に何かしらのいざこざがあった可能性は十二分に想定される。夫婦の親権をめぐる裁判では、9割以上は母親に親権が渡っている*ため、父親にも出産に関して納得できない部分があったのかもしれない(*2020年度 司法統計より)。それでも、終始「子どもは母親が育てるもの」という前提でストーリーが展開され、あらゆる責任・決断を奈美1人に押し付けられる様子には胸が痛くなった。
◆奈美たちは父親から養育費を受け取れるのか
これは余談になってしまうが、はたして奈美は父親から養育費を取れるかも心配だ。弁護士ドットコムが2021年に実施した調査によると、養育費を受け取る立場の女性の中で、「満額の支払いではない」もしくは「支払いが定期的でない」など、「養育費の受け取りに何らかの支障があった」と回答したは53.8%と半数以上。 その中でも「途中から受け取れなくなった」(22.4%)が最多だった。
なお、養育費を受け取る立場の男性は調査対象の7.9%で、こちらは全員が「養育費の受け取りに何らかの支障があった」と回答している。
養育費の未払いはひとり親家庭の貧困化に直結する、早急に対処すべき課題である。医療現場の人手不足など、様々な問題に切り込む同作だからこそ、その辺りにも個人的には踏み込んで欲しかった。ただ、緊迫する空気感、魅力的な登場人物、特に麻酔医・今成良平(甲本雅裕)の人柄に心を奪われて仕方がないほど、ついつい引き込まれてしまう注目すべきドラマであることは間違いない。今後も楽しみに放送を待ちたい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。
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