「待たせたな」がまた聞けた。2004年の大河ドラマ「新選組!」の土方歳三の決めセリフである。

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演じた山本耕史が、土方の扮装で「ワルイコあつまれ-秋の大感謝祭SP-」(10月29日放送)に登場し、近藤勇役だった香取慎吾と共演、ファンを喜ばせた。山本と香取は21年の「アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~」(テレビ東京)でも共演し息のあったところを見せたが、かっちゃん(近藤)とトシ(土方)としては18年ぶり。

◆山本耕史と堺雅人のCMも…「新選組!」今ふたたび

歴史上の偉人にインタビューする人気コントが、現代に別人として転生した近藤と過去から来た土方が出会ったみたいなショートドラマのようで、やけにエモかった。「ワルイコ」と「新選組!」はどちらもNHK制作だからか大判振る舞いといった印象で、こういうドラマ、NHKでほんとうに作ってほしい。

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名セリフ「待たせたな」は2015年、朝ドラ「あさが来た」にも登場した。朝ドラでははじめての幕末を舞台にした朝ドラで(そこから明治に進む)、ヒロイン(波留)宅に土方が組を率いてやって来るエピソード。そこで山本耕史が土方役で出演し、大河の決めセリフ「待たせたな」を発してSNSを沸かせた。これもまた、大河と朝ドラ、共にNHKであるからこそのマルチバース展開だった。

最近、CMで山本と堺雅人が共演し、これまた「新選組!」の山南敬助(堺)と土方の再共演のようにも見え、「新選組!」ファンとしては嬉しく思っていたところだった。「ワルイコ」でも山南の場面が紹介された。組の重要人物でありながら掟(おきて)を破ったため粛清されるという悲劇の人・山南。だからこそ、CMの山本と堺が、ありし日の青春を共にした土方と山南のように見えて、目が潤んでしまうファンもいるだろう。筆者もそのひとり。

◆「シン・ウルトラマン」メフィラス人気が沸騰

今、なぜ「新選組!」回顧なのか。2023年は新選組結成160年、目下、京都では新選組展が開催されている。なんてこともあるからだろうか。それはそうと、山本耕史がファンの期待を外さないことだけは確かである。そして最近の山本はファンを更(さら)に拡大している。

きっかけは映画「シン・ウルトラマン」(22年)だろう。山本が演じた、地球を狙う外星人・メフィラスが話題になった。地球を狙っているにもかかわらず、妙に紳士的で、郷に入っては郷に従えとばかりに地球の流儀に寄り添い、居酒屋で語り、名刺を出し、割り勘にする、律儀(りちぎ)な外星人には親しみが沸く。彼のセリフ「わたしの苦手な言葉です」「わたしの好きな言葉です」は「メフィラス構文」としてSNSを沸かせた。

メフィラス人気が沸騰したとき、山本が三浦義村役で出演している大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も放送中で、脚本家・三谷幸喜も映画を見て「メフィラス最高」と讃えたとか。

◆「鎌倉殿の13人」味方か?敵か?三浦義村

三浦義村もなかなかいいキャラで、主人公・義時(小栗旬)の味方か敵かわからない謎めいた人物である。義時に鋭い意見を言い、信頼されているものの、自分に得になるほうにひらりひらりと身を交わしていく。実際、こういう人がいたらいやだけれど、フィクションのなかではその身軽さが爽快。

山本のさじ加減で、毒舌も身の翻し方もベタつかないのがいい。メフィラスにも共通した魅力である。そうかといって山本耕史が常にクールでドライな演技専門かというとそんなことはない。土方のようにとことん情のある熱いくらいな人物もまたハマるのである。

「新選組!! 土方歳三最期の一日]ジェネオン エンタテインメント 山本耕史
「新選組!! 土方歳三最期の一日]ジェネオン エンタテインメント
土方にしろ、三浦義村にしろ、メフィラスにしろ、斜めに構えたキャラが山本の当たり役になっているが、演技は決して斜に構えない。ど真ん中。斜に構えた人物をど真ん中の安定感で演じる。いまどき珍しいくらいに清々しい俳優である。どんな役割でもど真ん中に球を投げ込む。

彼が古澤巌とコラボしたミニアルバム「Dandyism Banquet」で歌っている英語の曲を聞くと、音程がしっかりしていて、英語の発音もきれい。耳がいいのか、音を外さない。その安定感が、みんなの期待を外さない感覚にも発揮されているように感じる。もちろん、どの役も企画ありきで、その企画者や脚本家などが慧眼の持ち主なのだが、山本耕史が企画の意図を完璧に汲んで完璧にやってみせるからこそ成立するのである。

◆最も難しいところに挑むメンタルのタフさ

先日、当人にインタビューしたときは作品の本質は外さず「ギリギリのところを攻めることに賭けています」と語っていた(クロワッサン2022年10月10日号より)。心技体、完璧に整えながら、品行方正優等生ではなく、的のど真ん中のキワキワのほうが確かにドキドキする。最も難しいところに挑むそのメンタルのタフさが山本耕史の魅力ではないだろうか。

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金曜ドラマ「クロサギ」(TBS)にも出演している山本。番宣番組の「オールスター感謝祭」(10月1日放送)に出て、トランプでタワーを作るゲームに参加した山本に、そのタフさを筆者は感じた。

トランプの1段目は軽く作れたが2段目は何度やっても崩れてしまう。クールに振る舞っているが、タイムリミットが近づき、じょじょに焦りが滲(にじ)んで見える。何度やっても崩れてしまう様子を大勢に注目され、カメラも回っている。きーーっとヒステリックになったり、もうダメだとやけになったりしそうなものを、山本は最後まで諦めず、表情を崩すことなく集中し続けた。その指先の緊張感はどんな演技よりもすごいものを見た気がする。これはもう並大抵のことではない。

◆「頼れる人・山本耕史」は土方歳三そのもの

「山本耕史オフィシャルファンクラブ:MAGNUM1031」公式サイトより
「山本耕史オフィシャルファンクラブ:MAGNUM1031」公式サイトより
生き馬の目を抜くような芸能界で大手事務所に依らず家族経営の事務所で仕事をし続けていることにもメンタルのタフさを感じる。

頼れる人・山本耕史というイメージは、最後までかっちゃんを想い続けたトシそのものなのである。「鎌倉殿」の義村がトシのイメージを裏切るか、それとも継承するか――。

<文/木俣冬>

【木俣 冬】

フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami