婚活の主流は、ここ数年マッチングアプリになりつつあるといいます。しかし、コロナ禍となる数年前までは、いろんなイベントが行われていました。

長距離バス
写真はイメージです(以下同じ)
そのひとつである、婚活バスツアーに参加した安部梨沙子さん(30代・仮名)は、とんだ“地獄”を見たといいます。楽しいはずのイベントが、一体なぜそんなことになったのでしょう。

◆いきなりの“回転寿司お見合い”に車酔い

「X県で蕎麦を食べ、酒蔵などを巡る日帰り婚活バスツアーに友人と2人で参加しました。婚活と秋のグルメ旅を兼ねられるというので楽しみにしていたのですが…」

梨沙子さんは、写真を見返しながら当時の体験を語ります。

「ツアーが始まりまず待っていたのは、逃げ道なしの“回転寿司みたいなノンストップお見合い”でした。バスが発車すると同時に、10分おきに男性がぐるぐると席を替わる婚活パーティーを、車内でやるんです。ある程度予想はしていたものの、移動中という落ち着かない中で、かつ短時間に人が入れ替わる状況にはついていけず。

後半は車酔いしてダウンしてしまい、席についた方には申し訳なく思いつつも『車酔いしちゃったので少し休ませてください』と言いながら寝ました」

◆突然始まる太鼓ショーで、トークタイムが奪われる

序盤から下がったテンションのまま昼食場所へと到着する梨沙子さん。美味しい蕎麦を楽しく食べるというプログラムに少しだけ気持ちが持ち上がったそうですが、座ってみてびっくり! なんと会話すらできないではないですか。

「入ったお店は、いわゆる団体客向けのショーレストランでした。指示のまま宴会場へと通され、その時点で嫌な予感はしていたのですが……突然暗転し、中央のステージで太鼓ショーが始まりました。

ドコドコドコドコと大音量で響く太鼓とナレーションに一同ア然。せっかく頑張って話そうと思っていた人の声もやる気も、太鼓の音で終始かき消され、全く盛り上がらないまま食事の時間は進んでいきました」

ちなみに食事のメニューについて聞くと、「覚えていないんです。特に美味しかった記憶もありません」とのこと。太鼓のインパクトで全部持っていかれてしまったようです。

◆最後はお土産店の売り込みにゲンナリ

ガチガチに組まれたバスツアーとはいえ、フリータイムなどはないのでしょうか。梨沙子さんに質問すると、「あったにはあったけど…」とここでも暗い顔に。

「食事が終わると、移動時間まではフリータイムでした。お店の隣にはお土産売り場があり、そこでブラブラ会話しながら男女で親睦を深めるという流れになっていました」

これなら自然と仲も深まりそうはないですか! 思わずそう思った筆者を、梨沙子さんは強く否定します。

「このフリータイムがまた曲者(くせもの)で、男性からのアプローチタイムではなく、お店からの売り込みタイムでした」

一体どういうことか聞くと、突然甲冑(かっちゅう)を着たベテラン風の男性スタッフが現れ、X県の歴史を語りながらお土産をせっせと売り込み始めたといいます。

婚活バスツアー
「『この土地ではあーだこーだ、蕎麦の歴史とはこうでこうで~』と、とても饒舌(じょうぜつ)におじさんが語るんです(笑)。『そんなオイシイ蕎麦を自宅で食べるならこれがいいですよ!』と商品を手に取り説明すれば、暇な男女が聞き入りますから、何人かにロックオンして売り込みがスタートしていました」

気の弱そうな男性が数箱、このタイミングでお土産を買っていたといいます。聞けば聞くほど、一般的な団体ツアー方式でそのまま組まれた婚活バスツアーのようですが、梨沙子さんと友人は途中からいい感じのチャンスをあきらめ、「色気より食い気」に走ったといいます。

しかし、それがまた梨沙子さんに最後の悲劇を呼び込みます。

◆酒蔵でハッスル、待っていたのは…

「私と友人は、いい出会いもないなら食い気に走ろうと決め、次の酒蔵で試飲をしまくりました。2人で盛り上がる姿におそらく男性はドン引きしていたと思いますが、もう会うこともない人たちですから関係ありません。そうして酔っぱらいながら帰りのバスに乗り込んだのですが…恥ずかしくもまた車酔いしました。普段乗り物酔いはしない方ですが、完全に飲みすぎですね」

最後のお見合い回転寿司はほぼ記憶がないという梨沙子さん。今回の失敗から、「途中退出できない婚活イベントと1日がかりの婚活イベントは参加しないこと」と心に決めたそうです。

―シリーズ「秋のトホホ」―

<文/しおえり真生 イラスト/カツオ>