幼い頃から「サンタさんの住んでいる国フィンランド」に憧れ、大学時代に訪れたことがきっかけで「いつかフィンランドに住みたい!」と強く思うようになったというchikaさん。
フィンランドと接点を持つことができるよう新卒で北欧音楽会社に入社するも数年で会社がなくなることになり、人材紹介会社へ転職。中国への海外転勤などを経験しながら、将来フィンランドに住むための道を模索します。
『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)では、chikaさんが寿司職人としてフィンランドに移住することを決意し、会社員をしながら寿司学校に通い修行をする様子が描かれています。
本書はAKB48の本田仁美さん主演で『北欧こじらせ日記』(テレビ東京系列)として実写ドラマ化され話題になりました。
今回は『北欧こじらせ日記 移住決定編』から「はじめに」と「運命のジンクス」を紹介、後半では著者のchikaさんに、フィンランドを好きになったきっかけや、移住してからの生活についてお聞きしました。
◆フィンランドの魅力、2つの「距離感」
――chikaさんはなぜフィンランドを好きになったのでしょうか?
chikaさん(以下、chika):私の誕生日が12月25日のクリスマスなので、子どもの頃からサンタさんが大好きだったんです。「サンタさんが住んでいる国」としてフィンランドに興味を持ったのが最初のきっかけです。
ずっとフィンランドに行ってみたくて大学時代に初めてフィンランドを訪れて一目惚れしてしまいました。
――フィンランドの魅力はどんなところなのでしょうか?
chika:「距離感」と「静けさ」の2つがあると思います。距離感でいうと「人との距離感」と「自然との距離感」が自分にフィットしていると感じました。フィンランドの人々は「自分の好きなことを大事にしている」ことが印象的で、お互いに好きなことが違っていても押し付け合わない心地良さがありました。
私が育った環境では好きなことが一般とズレていると「ちょっと変なんじゃない?」と言われることが多かったんです。でも皆が好きなものを好きだと言えると、「こんな良い距離感が生まれるのか」と思いました。
また、自然との距離感が近くて首都ヘルシンキでも少し歩けば森や湖にふらっと行くことができます。日本でいうと東京駅のようなヘルシンキ中央駅から、徒歩10分もかからずトーロ湾という水辺に行くことができるので驚きです。街のデザインが「都会か、田舎か」選ばなくても良い形になっていて、すごく嬉しくなったことを覚えています。
――chikaさんは自然の多い場所に住みたい気持ちがあったのでしょうか?
chika:小学校6年生の1年間だけ、山村留学という形で奈良県の東吉野村に住んでいたことがあるんです。ものすごく自然豊かな環境に住んだ経験をした中で、私が感じた都市と田舎のそれぞれの良いところがフィンランドの街に全て詰まっているように感じました。「こんな素敵な場所があるんだ、住みたいな」と思うようになりました。
もう1つの「静けさ」という点では、街がすごく静かなんです。駅のアナウンスが一切無くて、電車がスーッと入ってきてそのまま去って行ったり、ヘルシンキを歩いていても車が1番うるさいくらいで、あとはそよ風の音が聞こえるくらい静かです。街全体に音と空間の余白があるのが自分に合っていると感じました。
フィンランドの人達は無口でシャイな方が多くて、一緒にいるとずっと沈黙が続くんです。でも不思議と気まずくないことに最初はビックリしました。長年の親友といる時の沈黙のような、間を埋めなくてもいい自然体でいられる静けさがあると思います。
◆「辛い経験の意味は後から分かる」『北欧こじらせ日記』執筆のきっかけ
――chikaさんが『北欧こじらせ日記』を描き始めたきっかけは何だったのでしょうか?
chika:昔から絵を描くのは好きだったのですが、今のような形で漫画を描き始めたのは2020年頃に入院したことがきっかけなんです。
急性膵炎で2、3か月近く会社を休んで入院し、その後自宅療養が続く期間がありました。その頃は、フィンランドに移住することを目指して寿司学校に通っていた時期だったので、学校も会社も休むことになりました。
「どう過ごそうかな」と思ったのですが、ずっと絵を描きたかったので「自分の好きなフィンランドについて100個絵を描いてみよう」と思ったんです。それをSNSにシェアしたことがきっかけで書籍化の声を掛けていただいて初めての本『マイフィンランドルーティン100』(ワニブックス)ができるきっかけになりました。
入院する時に当時の上司に「仕事は気にせず休みなさい、きっとこれも意味のある時間だと思うし、その意味は後になって分かるはずだから」という言葉を掛けていただきました。今振り返ると「自分のライフワークである漫画に繋がる時間だったんだな」と思います。
――すごくいい言葉ですね。ちなみにchikaさんの自画像の由来は何なのでしょうか?
chika:自画像については「餅ですか?」など色々なお言葉をいただくことがあります(笑)。カモメをモチーフに、サンタ帽を被っているキャラクターをイメージしています。フィンランドはカモメがすごく多いのと、フィンランドを舞台にした『かもめ食堂』という有名な映画が好きなんです。フィンランドに興味を持ったきっかけが、「私の誕生日のサンタさんが住んでいる国」ということもあってサンタ帽をかぶせました。
◆「人生で今が1番幸せ」フィンランド移住後の日常
――実際にヘルシンキに住んでみていかがですか?
chika:大変なことや予想外なこともあるのですが、家を出て駅まで白樺の生えた道を歩きながら「私、今人生で1番幸せだな」とじんわりと実感しています。
フィンランドに初めて来た時に「素敵だな」と感じた生活や自然の中に、自分が今本当に住んでいることを実感してすごく嬉しくなったりします。
――お休みの日はよく森に行ったりされるんですか?
chika:週末休みは、「晴れたら絶対ピクニックに行く」と友達と決めています。夏は夜の11時くらいまで明るいので、ちょっと仕事が早く終わると近くの森でぼんやりしたり、できる限り自然の中で過ごしています。
フィンランドの人々も全く同じライフスタイルで、「夏の間はとにかく太陽を浴びたい」という気持ちになるようです。大人も子供も問わず「晴れたら皆ピクニックに行く」ことが一大レジャーになっています。気負ったものではなく、近くの森や芝生でアイス食べたりジュースを飲んだりして、すごく気軽に楽しんでいます。
――この夏はどこかにバカンスに出かけましたか?
chika:有給でバカンスが1か月間取れるようになるのは勤続1年後と法律で決まっているので、私はまだ取っていないんです。ただ、無給のバカンスならいつでも取れる制度があるので、1ヶ月とはいかなくても少し休みを取ろうかなと考えています。
休みが取れたら、ずっと行ってみたかった夏のラップランドに行きたいです。一度サンタさんに会いに冬に行ったのですが、「夏もすごくいいよ」と聞いています。完全に日が沈まない白夜を過ごせるみたいなので、一度体験してみたいです。
今の時期は既に白夜シーズンは終わっているのですが、今年はオーロラの当たり年らしいので、「秋冬くらいにオーロラを見に行くのもいいな」と思っています。
<文/都田ミツコ>
【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。