今やすっかり冬の風物詩となった新垣結衣さん出演の明治の冬季限定発売チョコレート『メルティキッス』。
今年は「プレミアムショコラ」「フルーティー濃いちご」「初摘み濃抹茶」の3つのラインナップで10月11日より北海道で先行販売、25日からは全国で発売が始まりましたが、今回は北海道限定の音声CMで新垣さんが初めて北海道弁に挑戦。「なまら」や「したっけ」、「食べるべ」と方言の入ったセリフを喋り、大きな話題となっています。
北海道は本格的に開拓が始まったの明治以降。先住民のアイヌ民族や道南の一部地域に住んでいた人たちを除くほとんどは道外からの入植者。本州以南に比べると歴史が浅いため、方言がないと思っている人も少なくないようです。
◆「なまら」はアラフィフ以下の男性が使うイメージだが地域差も
CMで新垣さんは「なんまら美味しい」と語っていますが、この「なんまら」は「なまら」を強調した言葉。北海道出身の俳優・タレントの大泉洋さんがよく使っていることでも知られていますが英語では「very」や「so」に相当し、「とても」や「すごく」、「超」などの意味合いで使われます。
ただし、道産子(どさんこ=北海道っ子、北海道出身者)ライターの筆者の印象では、年配の人々が使っている場面をあまり見たことがありません。日常的に「なまら」を用いて会話するのはアラフィフ以下の世代で、しかも圧倒的に男性が使うイメージです。
そこで新垣さんと世代が近い20~30代の道内在住の女性に話を聞いてみました。みなさん、言葉自体は知っていたものの、「家族で使うのはお父さんだけと弟だけ。お母さんも私も使わない」(27歳・札幌)、「友達と会す時はたまに使うけど、女子で『なまら』って言う子はそんな多くない」(23歳・帯広)など女性の使用率は低めの様子。なかには「子供のころ、母に『男言葉だから使っちゃダメ!』と叱られた」(32歳・旭川)なんて人も。
ちなみにこの「なまら」は新潟弁としても有名で意味は同じ。実は、北海道民には新潟にルーツに持つ人が多く、「母方のご先祖様が新潟からの移住者。亡くなったおじいちゃんに『もともと新潟の浜言葉』と聞いたことがあります」(35歳・札幌)と気になる証言も。
さらに「函館出身ですが、両親や親戚など周りの大人たちは結構な頻度で使ってた」(38歳・函館)なんて話もあり、同じ北海道でも地域によっては昔から使われていたようです。それが何かの拍子に道内全域に広まったのかもしれません。他にも、テレビの影響で使われるようになったという説もあるようです。
◆「したっけ」は別れの挨拶言葉としても使用
続いては「したっけ」。CMでは「したっけコート着て、チョコレート買いに行こ」と語りかけていますが、これは道産子の間では「なまら」以上に使われている言葉。筆者も日常生活の中でつい口にしてしまいます。
意味としては「じゃあね」「またね」のような別れ際の挨拶、もしくは「それでは」「そうしたら」などの接続詞として使う2つのケースがあり、CMでの新垣さんのセリフは後者。ただし、道外の方からすると、「何が『したっけ』なんだ?」と理解できない方も多いようです。
以前、札幌ススキノのスナックで働いていた女性は、「地元のお客さんは『したっけ』と言って帰るし、私たちお店の女の子も『したっけね~』って見送ってました」(33歳・札幌)と当時を振り返り、夜の世界は当たり前に使っていたとか。
また、夫の転勤で道内に引っ越した女性は、「友達の影響を受けたのか1か月もしないうちに小学生の息子が会話の中で『したっけ』を連発。親しくなったママ友も当たり前のように言ってくるし、気づいたら私も無意識のうちに使ってました(笑)」(37歳・帯広)とすっかり道産子化。
それでも北海道民の中には方言だと認識していない人もいて、「進学で上京後、大学の友達に使ったら全員にキョトンとされた」(22歳・旭川出身)、「自分は方言を使わないって話をした後、『したっけ』と口にしたら全員から総ツッコミ。そこで初めて方言だと知りました(苦笑)」(29歳・室蘭)といった経験を持つ人もいるようです。
◆語尾に「~べ」を付ける女性はあざとい?
そして、語尾に「べ」。CMでは「一緒に食べるべ」と言ってますが、北海道ではほかに「~だべ」「~だべさ」などを付ける場合もあります。とはいえ、いずれも北海道固有の方言ではなく、「~っぺ」などの似たような言い回しを含めると、東北地方や北関東、山梨や静岡の一部地域など東日本のかなりの範囲で使われていたようです。
でも、現在北海道でこのように「○○するべ」みたいな話し方をする人はほとんどいません。せいぜい友達や恋人相手に意識的に使うくらいです。
「彼氏にちょっと甘える感じで言うことはあります(笑)」(23歳・小樽)
「何かを誘う時にあえてそういう言い方をするのはあるかも」(25歳・千歳)
その一方で「語尾に『~べ』と付けるのは女子としてあざとすぎる」(24歳・札幌)、「新垣結衣みたいな子が言うからカワイイけど、私が口にしたらただの田舎丸出し。絶対真似できない」(27歳・釧路)なんて意見も。しかし、地元言葉を話す方言女子を魅力的に感じる男性がいるのも事実。聞いてみたいという人は案外多そうな気もします。
◆北海道弁は他にも「わや」「~っしょ」「~さる」
今回、思わぬ形で脚光を集めた北海道弁ですが、歴史的な影響ゆえか訛(なま)り自体はそれほどありません。特に札幌だと標準語と大きな違いはないですが、北海道でしか使われない言葉はCMで出てきた方言以外にも数多くあります。
ムチャクチャやどうにもならない状態を示す「わや」、疲れたやダルいという意味で使う「こわい」、触れる・からかう様子を表す「ちょす」など。また、語尾も先程紹介した「~べ」だけでなく、「~しょ」や「~っしょ」、「~しょや」という言い方も。意味は「~でしょう」で、こちらは今も多くの北海道民が当たり前のように使います。
ほかにもミスなどの間違いを意味する「~さる」というのもありますが、これは「間違ったけど、私が悪いわけじゃない」という責任転嫁的な言い回し。例えば、エレベーターで違う階を間違えて押してしまった際、「押ささった」なんて使うわけです。
『北の国から』シリーズをはじめとする北海道が舞台のドラマ・映画、大泉洋さんの名を全国区にした『水曜どうでしょう』などを観ると、北海道弁が当たり前のように飛び交っています。方言に注目にしてこれら作品を見直してみると、新たな発見があって面白いかもしれないですね。
<文/高島昌俊>
【高島昌俊】
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。この冬、貯めたマイルを使い、ビジネスクラス世界一周旅行に挑戦。日刊SPA!にて以前『38万3497円でほぼビジネスクラス世界一周してみた』を連載。