二人の子持ちのシングルマザーの葵さん(仮名、46歳)はマッチングアプリで出会った48歳未婚男性と2年間、付き合っては別れを繰り返し、最近ようやく別れたそう。理由は暴言の数々があまりに酷かったからだと言います。詳しくお話を聞いてみました。

◆飲食店で突然ブチ切れた彼

飲食店で突然ブチ切れた彼
写真はイメージです。(以下同じ)
「はじめて彼が暴言を吐いたのはレストランでした。その時彼は“肉は食べたくない”と言っていたのですが、コロナ禍の時短営業で他に空いてなかったため『仕方ないよね』と納得の上、麺の上にガッツリお肉が乗ってる排骨麺の専門店に入ったのです。なんとなく居心地悪そうにしてた彼でしたが『俺、麺だけ食べるから肉食べて』などと言うので『いいよ』と言いながらメニューを見て“お茶でも頼もうかな”と呟いた瞬間、彼が豹変しました」

「この店に茶はないんだよ! ここはそういう店じゃないんだよ!」

「俺は肉は食べたくないって言っただろ!」

 そう大きな声を出しながら、机をドンと叩いたそうです。幸いにも店内には葵さんたち二人しかませんでしたが、厨房にいた店の人も「どうかされました?」と席に来るほど大きな声だったようで、慌てて「すみません、用事ができたので出ます」と店を出たそうです。

◆申し訳ないことをした

申し訳ないことをした
「彼は外に出ると『今日は帰る』とご飯も食べずに帰っていきました。あまりのことに驚いたものの、その日は自分の用事に1日付き合わせてしまったこともあり、よっぽど肉は食べたくなかったのかな、申し訳ないことを…と思いました。翌日はケロッとした様子で『昨日はごめんね』と連絡してきた彼。この日を境に彼の本性はあらわになっていきました」

 ホテルのフロントやレストランの店員に暴言を吐く、繁華街を歩いていた時に声をかけてきた呼び込みに掴みかかるなど。そういったことが起こるたびに「やめてほしい」と言うと「ごめん。直す」と言うものの、結局は同じことを繰り返したそうです。でも、葵さん的に最も辛かったのは葵さんの生まれや子供のことを悪く言われることだったといいます。

◆子どもに対して「邪悪」と暴言

子どもに対して「邪悪」と暴言
「彼は何度かうちに遊びに来る中で数日間、うちに泊まったこともありました。子供がいない時に“俺もかつてシングルマザー数名と付き合って色んな子供を見てきたけど、お前の子供はどこか違うと感じる”とか“子供のくせに自分の権利を主張する邪悪さがある”などと言われました。

 私は自営業でほとんど仕事中心で子供が保育園の頃から昼夜問わず誰かに預けて仕事に出ることも多く子供との関わりが少なかったため、子育てには自信がなかったし、愛情不足なのではないかという後ろめたさや懺悔に似た気持ちが常にあった。だからこそ“他の子と違う”や“邪悪さがある”の言葉にグサッときてしまいました。第三者から見たら、そう見えるのかもしれないと」

◆頭をグーで3発殴られた

頭をグーで3発殴られた
 また、自分が港区生まれで育ちであること、一方で足立区生まれで育ちの葵さんのことを「そもそも俺らアプリで出会って環境や素養も違うし、合わないんだよね。足立区の友達とか俺、いないし。わかんないんだよね」と言い掛かりをつけられることもあったとか。

「一番わからなかったのは、仕事の話をしていた流れで突然“俺を馬鹿にしてるのか”と怒鳴られ殴られた時でした。一方的に喚いて“お前と俺の人脈のどっちがホンモノか、わかってねーだろ!”と言いながら首元を掴まれ、頭をグーで3発殴られました。怖いとかはなく、諦めにも似た気持ちで無抵抗で“どうしてこの人はこんなに怒ってるの?”と冷静に見ていました。同時に“この人も本当は殴りたくないんだろうな”と自分の感情がどこかに置き去りになっていました」

◆普段はおちゃらけて楽しい人

 恋人の素養にまでとやかく言うのは恋愛ハラスメント。ましてや殴るだなんて言語道断です。「でも…」と葵さんは振り返ります。

普段はおちゃらけて楽しい人
「最初に会った時や、ふだん怒らずに話をしている時の彼は“おちゃらけて楽しい”人でした。私の話を親身に聞いてくれる一面もありました。そのふだんの様子とキレて喚く姿を見て、本当の彼の姿は前者で、後者は仕事が上手くいっていないことへの鬱屈によって出てしまう姿なのではないかと思ったのです。嫌な言い方をすると、可哀想な人を観察するような気持ちで見ていました」

◆彼を理解したいと思っていた

 男性は欠点ばかりで良い点がひとつも見当たらないし、葵さんはなぜこんな男性と付き合っていたのでしょうか。

「彼こそがトラブルの元なのに、散々“なぜトラブルの元を作るんだ”と私が悪いような言われ方をされ続け、原因は私にあるのではないかと思っていました。別れた今でも“あの時こうすればよかったのか?”と、未練がましく思うほどです。なによりも可哀想な人だと彼を見る一方で、彼のような複雑で扱いにくい人間を理解したいと思ったし、世知辛い世の中をなんとか歩めないかと思ってしまった。もはや愚かしい執着でした」

◆ただのコンプレックスが強いわがまま男

でもなぜ、葵さんは執着してしまうのでしょう。マレーシア在住の社会心理学者の渡部幹教授にこのような女性の心理を解説してもらいました。

ただのコンプレックスが強いわがまま男
「この男性はただコンプレックスの強い気分屋のわがままというだけで、複雑でも何でもないのです。このような厄介な男性はある種の女性たちの心をくすぐり、女性は厄介な男性を読み解いてこそ手柄を感じてしまう。こういった女性は難解なゲームに挑むマニアのように男性を解読しようと粘ってしまう。でもそれは男性自身が変わらないかぎり女性には一生解けないゲームですよ」

◆離れる意外に幸せはない

 いまだ未練がましく執着している葵さんはどうしたら良いのでしょう。渡部教授に聞きました。

「結婚にしろパートナーにしろ、お互いの関係性で最も大事なのは我慢ではなく受容です。互いに常に相手を裁き、責めているようでは続きません。相手がDV男ならなおさら、我慢を元には成り立ちません。そのような関係性になってしまう場合は“離れる”以外に互いの幸せはないのです」

◆最後に送った別れのLINE

 最後に、と葵さんは言います。

最後に送った別れのLINE
「これまで何度も別れを切りだしてきましたが“俺は変わるから”と言われ、それを信じてきては裏切られた気持ちになってきました。でも裏切られることをわかって選んできたのも私です。その負の連鎖と断ち切るために、先日、こんなLINEを一方的に送りました」

“あなたのこと、一生、許しません。もう二度とあなたを受け入れることがないように”

「LINEを送り、ブロックして削除しました。とくに恋人やパートナー、夫でも、その人自身を信じるのではなく自分が理想とする人物像に期待してしまうのは愚かしいこと。今後は心の底から受け入れ理想を押し付けずその人そのものに信頼できる人と出会いたい」

 そう言って、葵さんは前に進もうとしています。

<文/河合桃子>