今や平均寿命が男女ともに80歳を超える長寿大国・日本。明治時代の平均寿命が45歳前後と言われているので、わずか150年くらいの間に2倍近く長生きできるようになったというのは、なかなかにスゴい話。

放っておくと寝たきりになる可能性も、実は間違っている高齢者の食習慣
写真はイメージです。
 でも、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)でみると、男性が70歳(平均寿命81歳)、女性が73歳(平均寿命87歳)と、平均寿命より11~14歳短いんです。

 長生きするなら、健康的に過ごせるように食事なども気をつけていきたいですよね。それに自分の親のことも心配です。

◆適当な食事が原因で寝たきりになる?!

適当な食事が原因で寝たきりになる?!
画像は本書より
「高齢になると、食事作りが負担になり、とにかく食べる(ものを口にする)ことだけを考えて、栄養バランスが崩れ、低栄養を招きがちです。しかし、このような食事をしていると、筋力が衰えて身体機能の低下につながるため、寝たきりになったり、健康的に長生きすることができなくなってしまうんです」

 そう語るのは、名寄市立大学の栄養学科でも教鞭を振るう栄養管理士・中村育子さん。高齢者が注意すべき食習慣のポイントと、実は間違っている食習慣について、最新著書『75歳からのラクラク1品栄養ごはん』から紹介します。

◆健康と要介護の間にある状態「フレイル」とは

健康と要介護の間にある状態「フレイル」とは
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 高齢者の食習慣をみてみると、年齢を重ねたことで食べられる量が減った人、健康法に基づいた食事を長年継続している人などいろいろですが、いずれの場合でも問題になるのが、粗食になることで陥るたんぱく質不足なんだそうです。

「健康と要介護の間にある状態を『フレイル』と言います。たんぱく質の摂取量が不足して体重が減少し、健康な体を保つのに必要なエネルギーが足りない『低栄養』な状態になると、筋肉や骨の量が減って運動機能に問題が起こったり、疲れやすくなったり、身体の健康状態に支障をきたす『身体面のフレイル』が起こります。その状態を放置してフレイルが進行すると、最終的に寝たきりや要介護になるリスクが高まってしまうのです」(中村育子さん)

◆「健康的」な食習慣は、高齢者にとってはそうでないことも

健康と要介護の間にある状態「フレイル」とは
画像は本書より
 歳をとると食が細くなり、栄養が偏ることにより健康を害すというのは、たやすく想像がつきます。でも、健康に気を使った食生活を送っている人でさえも、健康に支障をきたす可能性があるというのは、ちょっと意外。

「健康のためにと続けてきた食習慣は、高齢者になると合わなくなるものもあるんです」と中村育子さん。

 どういうものが「高齢者になったらNG」な食習慣なのか、具体的にみていきましょう。

◆NGその1「食事は野菜を先に食べる」

 食後血糖値の急上昇を予防するため、食事はまず野菜から食べるようにしている人は多いはず。しかし、75歳を超えた人は、エネルギー(カロリー)量をできるだけ確保したいので、最初にカロリーの高いメインの肉や魚から食べるようにするとよいでしょう。

◆NGその2「一日1食ダイエットをする」

 流行にのって「一日1食ダイエット」をする人がいます。しかし、高齢者がこのようなダイエットを行うと、低栄養を招いて健康に支障をきたすことが。一日1食で3食分食べたとしても、栄養素の吸収量には限界があるので、一時的なエネルギー過多になってしまうだけなのです。

◆NGその3「食べない」「量を減らす」ダイエットをする

 自分が若いころに行った少食や粗食にするダイエットを高齢になって行うのは、健康的どころか赤信号。確かに体脂肪は落ちますが、一緒に筋肉も減ってしまい、身体機能の低下を招きます。

 また、「○○だけダイエット」や少食や粗食にすることで、たんぱく質の摂取量が減るため、さらに筋肉量が減少してしまいます。

◆NGその4「運動は空腹時に行う」

 筋肉量を維持するために、運動に励む人がいます。しかし、気をつけたいのはそのタイミング。食事前の空腹時に運動をしがちですが、それでは筋肉がつくどころか減ってしまうので、注意が必要です。空腹時は避け、消化によいものをエネルギー源として食べた1時間後以降に運動をしましょう。

◆NGその5「食事は品数を多くする」

NGその5「食事は品数を多くする」
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 栄養バランスを考えて作られた多くの種類のおかずが並ぶ旅館のような食事は、ついついご飯を食べすぎてしまうことがあります。食事は品数を多くするより、1食に「たんぱく源+野菜+主食」がしっかりと揃っていれば、1品でよいのです。

◆NGその6「卵は一日1個までにする」

「卵はコレステロール値を上げるので、一日1個までに」と推奨されていたのは過去の話です。卵 は栄養価の高い完全栄養食であり、貴重なたんぱく源にもなるので、一日1個までにとらわれず、一日の食事で、できるだけ卵を摂るように心がけましょう。ただし、食べすぎには要注意です。

◆NGその7「食欲のないときは、おかゆを食べる」

 風邪をひいたときや食欲がないときに、「梅干しの入ったおかゆを食べる」という人は少なくないはず。しかし、これでは低栄養を招いてしまいます。少量でも野菜を加えた卵がゆにしたり、鶏肉などを加えた煮込みうどんにしたりと、たんぱく質とビタミンをたっぷり摂るようにしましょう。

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75歳からのラクラク1品栄養ごはん
 いかがですか? こういった食習慣をまだ実践している高齢の方、意外に多いんじゃないでしょうか。みなさんの親御さんの食習慣を見直してみてもいいかもしれません。

 子育てが終わったら、仕事を辞めたら、残りの人生、好きなことを思う存分やりきりたいですよね。そのためにも、自分の親にはいつまでも健康でいてほしいものです。

<文/女子SPA!編集部>

【中村育子】

管理栄養士、在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、名寄市立大学 保健福祉学部栄養学科・准教授。1994年、女子栄養大学栄養学部卒業。2011年、同大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程修了。2018年、静岡県立大学大学院薬食生命科学総合学府博士後期課程修了。1994年より板橋区西台高齢者在宅サービスセンター勤務。1997年、医療法人社団福寿会福岡クリニック在宅部栄養課を経て、2020年より現職。一般社団法人日本在宅栄養管理学会(通称:訪栄研)副理事長。在宅訪問管理栄養士の第一人者であり、栄養指導のスペシャリスト。おもな著書・監修書は『冷凍食品・市販品・レトルト・缶詰をフル活用 70歳からのらくらく家ごはん』(女子栄養大学出版部)、『やわらかく、飲み込みやすい 高齢者の食事メニュー122』(ナツメ社)など。最新刊は『75歳からのラクラク1品栄養ごはん』(扶桑社)。